IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

“保守本流”部門に異動した後輩と、元からいるダメな先輩“システム屋”の会話
ダメな“システム屋”の会話 後輩 「先輩、ちょっといいですか?」
ダメ先輩“システム屋” 「おう、いいぞ、どうした?」
後輩 「異動してから、今日、初めて月次定例会議に出席したんですけどね、なんか変わってますよね」
ダメ先輩 「はは、やっぱりそう思うか。外から来るとみなそう感じるようだな」
後輩 「驚いたのは会議の冒頭で本部長が、会議の目的は『認識合わせだ』と言ったことですよ」
ダメ先輩 「そうそう、『認識合わせ』がここでは一番重要らしいぞ」
後輩 「あと、会議の終了予定時間が30分も過ぎているのに、みな平然としているのにも驚きました」
ダメ先輩 「はは、ここでは、ほかとは時間の流れが違うんだよ」
後輩 「あと、他社の事例を紹介しようとしたAさんの切り口、私は面白いと思ったのですが、部長がさえぎりましたよね。『他社は他社だ』と」
ダメ先輩 「そうそう、この部門の掟(おきて)、歴史、慣習が一番重要なんだよ」
後輩 「あ、首脳陣が向こうをぞろぞろ歩いていますね」
ダメ先輩 「はは、ランチだな。別名、大名行列」
後輩 「・・・(花型部門に異動したと思ったけど、“保守本流”を絵に描いた部門だな。なんか政党の派閥みたいだ。先が思いやられるよ)」

ダメな理由:閉じられた世界に安住

 前回までは、個人としてダメな“システム屋”について指摘してきました。一方で、集団としてダメになってしまいがちなケースがあります。その典型例が“保守本流”と呼ばれるものです。

 銀行なら勘定系、証券なら売買注文管理、生命保険なら個人保険契約管理、製造なら生産管理、流通なら売上管理。それぞれの業種・業態において、システム化の歴史が最も長い業務分野があります。

 ITベンダーやシステムインテグレーターに所属し、この分野の情報システムの開発や保守・運用などを請け負う“システム屋”の集団を第三者が皮肉を込めて“保守本流”と呼ぶことがあります。皮肉どころか、自分で自慢げに“保守本流”と呼ぶことすらあります。

 これはかつての自民党の“保守本流”を称する派閥に似ているのではないでしょうか。第1に境界意識が強く、自分たちと外部を分けて考える傾向があります。第2に、自分たちが本流であって最も価値があると思っています。第3に、そこでの在籍年数が極めて重要であり、途中で抜けた者、途中から入ってきた者はひどい扱いをされる傾向があります。第4に、師弟関係のようにメンバー同士の絆(きずな)が強く、「誰は誰に育てられた」「あいつはオレが育てた」といった表現が多用されます。

 こうしたことは、民間企業にもまったく無いとは言えないでしょう。実際に、私はいくつかの企業で“保守本流”に遭遇しましたが、みなよく似ています。第三者である私が途中で入ると、最初は外からの情報を得ようと聞き耳を立ててくれます。しかし、「あなたたちはこうした方が良いのではないか」といった踏み込んだ意見を述べると、途端に「それは歴史的な理由でできない」と言われるか、あるいは無視されます。

 “保守本流”の“システム屋”たちは常に同じ人たちに囲まれながら仕事をしています。システム化の歴史が長いだけに、大きな予算を持ったユーザー企業・ユーザー部門、すなわち優良顧客に恵まれています。その分、外部の変化に疎くなってしまいがちです。