共同声明

当「ICUのミスコン企画に反対する会」の有志により、以下の共同声明が作成されました。

2011年6月8日づけで清書されたものを、日本時間9日に以下に送付致しました。(敬称略)ICU祭実行委員会委員長、ICU祭実行委員会企画調整局担当者、ICU-CP9代表者、国際基督教大学ジェンダー研究センター センター長

ICU-CP9とは、ミスコン企画を立ちあげた学生団体です。

PDF版(2011/6/8)

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テキスト版(2011/6/13)

「国際基督教大学(ICU)におけるミスコン開催に反対する共同声明」

私たちは、国際基督教大学(ICU)に関わる様々な市民です。学生、常勤・非常勤の教員や職員、卒業生、近所の住民、出入り業者など、様々な立場でICUに関わり、関心をもっています。このたび、ICUでのミスコン開催が予定されていると聞きおよび、大きな危機感を抱いています。

ICUにおいてミスコンが開催されてこなかったことが「旧き時代が築いたあらゆる壁」の一つであり、ミスコンを今開催することがICUに「新たな風を吹き込」むことだと、今回のミスコン企画を主催する団体は述べていますが、果たしてそうでしょうか。

2008年のミスコン企画の際のCGSとICU祭実行委員会の対話など、今までミスコンを開催してこなかったことは、ICUに関わる人たちのオープンな対話によって築かれてきた伝統でもあります。そして、様々な大学がミスコンを行っている中では、ミスコンを行わないことこそがICUの「伝統」でもあり、かつ「新しい風」を吹き込んできた側面だともいえるのではないでしょうか。それは悪いものを壊し、革新をもたらす伝統です。そして、それは人々の多様性や尊厳を尊重する伝統でもあります。

ICUに入学する際に全学生が署名した「世界人権宣言」を思いだしてください。

すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。

ここには、すべての人がその被害から自由であるべき差別の事由として「性」が含まれています。また、「その他の地位又はこれに類するいかなる事由」は、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認する」という前文の精神を現代社会に適用すれば、当然ながら年齢や美醜も含んでいると想像すべきです。さらに、この「宣言」は、人々の多様性の称揚のためにあると言ってもいいでしょう。

ミスコンは、女性の価値を外見や振る舞いに見出すような性差別的な社会背景から成立したものであり、事実、歴史的にそのような文脈で機能し続けてきました。電車に乗れば女性を性的対象化する広告が溢れているなど、私たちの日常生活において、性差別はまだまだ端々に存在しています。今回のイベントが「ミスコン」という名称で呼ばれているということは、たとえ女性限定などの文言がなくとも、「(未婚)女性」を、外部の視点でみた「美」という観点から評価をするといういわゆる通常の「ミスコン」の規範に従ったものであろうことが想定されます。また、「女性」に対してのみならず、セクシャルマイノリティや障害者、エスニックマイノリティなど、様々なマイノリティに対して差別的な要素をもち、人々の多様性を否定するという側面がミスコンにあることは、フェミニズムやクィア研究/運動をはじめとした、様々な学問および市民運動が明らかにしてきたことでもあります。ミスコンとは、そうした差別を白昼堂々と実践することにより、日常生活の不正義を追認するための儀式です。

ICUのミッションは、全学生が署名した「世界人権宣言」の原則のもとに、人権という概念に基づき、「しっかりとした「個』を持ち、真のリーダーシップを発揮し、世界の問題を解決してゆく人材を輩出」(鈴木学長のICUホームページ掲載の声明文)することであったはずです。

他の大学でも行われているから、という理由でICUにもミスコンがあるべきであると主張することは、「しっかりとした『個』をもつ真のリーダーシップを発揮し、世界の問題を解決」というICUのミッションとは異なるものだけではなく、ICUの構成員の間に存在している多様性とそれを尊重してきた伝統を無視するものです。そして、そのために新たな人権侵害などの問題をひきおこすのではないかと危惧しています。

「国際基督教大学人権侵害防止対策基本方針」には、以下のようにあります。

ICUは世界人権宣言を重んじる大学として、人権侵害のない教育・研究・就労環境を整え、構成員が安心して過ごせるキャンパスを確保する責任があると考えています。ゆえに、性、人種、宗教、年齢、性的指向、障がいなどに基づく差別や、地位・立場を利用したあらゆるハラスメントは形態の如何に関わらず許されません。本学の構成員はみな献学の精神である国際性やキリスト教精神を十分理解し、快適なキャンパスをともに作っていくことが要請されます。

このとおり、ICUのすべての構成員には、あらゆる形態の差別・ハラスメントが無い、快適なキャンパスをつくることが要請されています。ミスコンを企画している学生たちも例外ではありません。

また、従来の「ミスコン」とは違うかたちのミスコンをICUでやることが、「よりまし」な性的対象化のモデルを創造することになるのではないか、という意見もあるかもしれません。しかし「よりまし」な差別、「よりまし」なハラスメントを行うことが人権という概念に基づいた「真のリーダーシップ」であるとは到底思えませんし、「人権侵害防止対策基本方針」と真っ向から対立する行為であると考えます。

さらに私たちは、人生の数年間を「世間よりはましな環境」に保護されることだけに満足しません。ICUの使命の一つには「国際性」も掲げられていますが、そこでは多様な人々のあり方を尊重し、さまざまな人々が差別をうけることなく生きられる世界の構築も重要なテーマであることでしょう。

だから、様々な形でICUに関係する私たちは今回のミスコン開催予定について、次のように表明します。

    • 私たちは、人種的、身体的、階級的に画一的な女性の美のイメージの強化をもたらし、女性の性的対象化の道具として機能してきた歴史をもつミスコンに、そもそも反対します。
    • ですから私たちは、ICUの外においても、差別的な電車の釣り広告やミスコンに反対します。
    • 基本的な人権、および多様な人間のあり方が尊重される社会をめざす私たちは、当然ICUでのミスコン開催にも反対します。
    • また、私たちにとって、ICUは社会から独立した象牙の塔ではありません。ICUもまた社会の中に位置づけられた存在です。私たちがミスコンに反対するのは、キャンパスを特権的空間として保全するためではありません。

以上の理由により、キャンパスミスコン開催に反対します。

2011年6月8日

呼びかけ人(2011年6月13日現在:五十音順)

    • 上田真央(うえだ・まお:在学生ID13)
    • 尾脇深雪(おわき・みゆき:在学生ID14)
    • 川坂和義(かわさか・かずよし:卒業生ID06)
    • 菊池魁人(きくち・かいと:在学生ID14)
    • 神原慧(こうばら・あきら:卒業生 ID08)
    • 国際基督教大学LGBITサークル「シンポシオン」
    • 小関春海(こせき・はるみ:在学生ID10)
    • 齊藤亜俐沙(さいとう・ありさ:在学生ID13)
    • 常野雄次郎(つねの・ゆうじろう:「ニートのあした」)
    • 長尾有起(ながお・ゆき:卒業生ID08・元ICU非常勤職員)
    • 増渕彩子(ますぶち・あやこ:卒業生ID09)
    • 松本政輝(まつもと・まさき:卒業生 ID09・元ICU非常勤職員)
    • 山口智美(やまぐち・ともみ:卒業生 ID90)
    • 吉田匡 (よしだ・まさし:在学生ID15)

賛同署名