あなたがデスマを覗き込むとき、デスマもまたあなたを覗き込んでいるのだ
ソフトウェア開発に従事することは、デスマに残してきた自分自身の一部を取り戻す旅だ。
日曜の夜、kwappaさんが、Twitterで次のような募集をされていた。
【募集】あなたのデスマーチ・ブラック会社体験と、そこから得たもの・失ったもの。ハッシュタグ #tobe09 もしくは D kwappa までお願いします。キョーレツなヤツ、お待ちしてます。
Twitter / @kwappa - 10:44 PM Jan 31st
今いる会社ではないけれど、デスマーチを自分も体験したことがある。
なので、つぶやいてみた。
得たもの:イス寝と床寝の技術。失ったもの:当時の伴侶。詳細は、何かを腹に収めて、傷が癒えた時に語ります。なーんちゃって…おや? 目から汗が。 #tobe09
Twitter / @torazuka - 11:15 PM Jan 31st
深刻な調子でつぶやくのは恥ずかしいので、軽いノリで発言した。
でも、数時間後に改めて考えて、言い直した。
こっちが本心。
マジメにつぶやくと、得たものは、決意だ。「どうかもう二度と、プロジェクトのメンバーが、失踪したり入院したり離婚したりしませんように。人間らしく働けますように。そんな開発を、そんなチームを、将来自分が実現する」という決意。 #tobe09
Twitter / @torazuka - 1:11 AM Feb 1st
この決意は、誰かのためではなく、自分のためのものにすぎない。
(という卑小な話をすることによって、大口を叩いた弁解をしたくなったので、デスマーチのその後のことを書く)
家庭と仕事を失って、自分は学生に戻った。そして数年後、もう一度就職する時機が訪れた時、迷った末に再びIT業界に飛び込んだ。なぜなら、この先の人生をすべて費やしてでも、過去に落とし前をつけたいと思ったからだ。
どういうことか。
未熟で非力な過去の自分は、あのデスマの闇の中に、今もまだいる。そんな気がしてならない。
知恵も知識も技術もなく、勇気も判断力も学習意欲すらも足りなくて、状況に翻弄され、問題の原因をまわりのせいにして、ついには家庭を壊し、健康も仕事も失うしかなかった醜い自分は、今もまだ、あの場所にいるのだ。疲弊した開発現場の片隅で、なすすべもなく、うずくまっている。・・・
あれから何年もたつけれど、もう長い間、そんな妄想にとりつかれている。おそらく、あの頃に抱えていた課題の多くを、まだ乗り越えられていないからだと思う。
再就職の時、実は最初、"デスマのない職場"を探そうとした。いわゆる"ブラック企業でない会社"。再びデスマーチを体験することを恐れるあまり、あるはずのない理想郷のような職場を求めた。
やがて、間違いに気づいた。自分は、デスマーチのない環境を誰かに与えてもらうことを望んでいる――しかし、それは、無理ではないか。
入った会社に素晴らしいリーダーがいて、その人が率いる開発チームで、運良く働けることになったとしよう。だが、そのリーダーがいなくなってしまったら、どうなるだろう? また嵐に投げ込まれるしかないのだろうか。そして溺れるのだろうか。そんなことは、もういやだ。あれだけ沢山のものを失いながら、まだ同じことを繰り返すのか。
そう考えた時、ようやく頭が冷えて、決意が生まれた。
結局のところ、デスマのない環境を己の手で作り、守れるようになるしかない。そして、きっと、人間らしく働けるソフトウェア開発を実践できるようになることでしか、闇に取り残された過去の自分を救いあげてやることも、できないと思う。
簡単ではないだろうけれど、それができるようになれば、惨めな昔の自分も少しは浮かばれるのではないか。
たとえ、何年、何十年先の話でも。
そう思って今の会社に入った。まだ道は遠いけど、将来実現するためなら、いま何だって勉強するし、個人の時間もいくらでも捧げるよ
Twitter / @torazuka - 1:12 AM Feb 1st
失ったものは戻らない。それでも、過去のデスマに負けたまま、死ねるか。
覚悟はすでにできている。きっと長い旅になる。失うものは、もう何もない。
参考
- @[http
- //twitter.com/kwappa:title=kwappa] さんによる #tobe09 まとめ:「デスマーチとブラックの事例募集」 - Togetter