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欧米・アジアなど、海外で人気の日本映画の傾向とは

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 海外に売れる日本映画には共通する特徴がある。例えば、アジアでは日本の人気俳優の出演作が売れやすいと言われる。一方でヨーロッパでは作家性の強いアート系が好まれており、北野武監督らが人気を集める。また、欧米では日本人の恋愛物語よりも、アクション映画やホラー映画のほうが興味を持たれやすい。日本映画は海外でそれなりに売れてはいるものの、まだ金額ベースでは多くはない。言語や文化の壁は依然として高いといえる。

海外で稼ぐ日本映画はどんな作品だろうか。「アジアでは、知名度が高い日本の人気俳優が出演している映画が売れやすい」というのが映画関係者の一致した意見だ。

「麒麟の翼~劇場版・新参者」(出演・,阿部寛、新垣結衣など)、「パラダイス・キス」(出演・北川景子、向井理など)は香港、「モテキ」(出演・森山未來、長澤まさみなど)は香港やシンガポールで公開された。また、「アジア各国でヒットした「Love Letter」を監督した岩井俊二がプロデュースし、中山美穂が主演した「新しい靴を買わなくちゃ」(2012年10月6日に日本国内で公開)もアジアからの引きが強い」(東映・国際営業部・大久保忠幸課長)という。

「日本で大ヒットする映画はアジアに波及する可能性がある」といわれている。ヒットを連発する東宝には「毎年の(映画の)ラインアップを早く欲しいという問い合わせが多い」(東宝・国際部・渡辺昌蔵部長)。

日本でヒットした作品がアジアに波及した一例が、湊かなえ原作のミステリー映画「告白」(出演・松たか子など)。「告白」には、現代の少年犯罪や家庭内暴力、イジメといった過激な内容が含まれている。香港では2010年に公開され、日本映画最大のヒットとなった。

「アジア人は現代の日本が見たい。『こんなことが今の日本で起きているのか』と口コミで評判が広がった。また、ポップな音楽が好きな主人公が、メタルバンドのボーカリストとして活躍する作品『デトロイト・メタル・シティ』も口コミ型でヒットした。エッジが効いた作品のほうが集客しやすいのかもしれない」(東宝・国際営業室・有田武将氏)。

欧州の映画ファンは監督の名前で判断する

アジアでは俳優の知名度が海外セールスの重要なポイントである一方、ヨーロッパでは監督がポイントになる。作家性の強い監督のアート系の作品が好まれ、北野武監督、黒沢清監督、三池崇史監督、是枝裕和監督が人気だ。最近では園子温監督が注目を集めている。

「欧米で売れやすいジャンルはアクション映画やホラー映画。逆に、日本製の感動ドラマやラブストーリーは、欧米人からは物語の展開が遅いと言われ、売れない」(映画関係者)。

実際に、ホラーの「貞子3D」はアジアからヨーロッパまで幅広く売れている。香港、韓国、シンガポールでは既に公開され大ヒット。今後ヨーロッパでも公開され、世界10カ国以上での公開が予定されている。

またヨーロッパでは「戦争映画も手堅く売れる」(東映・大久保氏)。「聯合艦隊司令長官 山本五十六 ─太平洋戦争70年目の真実─」はイギリス、フランス、ドイツなど30カ国に売れた。「主演の役所広司さんのネームバリューもありますが、『真珠湾攻撃がなぜ起きたか』という疑問を持って、山本五十六に関心を示すバイヤーが多かった」(東映・大久保氏)。

このように海外でも稼ぐ日本映画だが、映画業界全体に占める金額ベースで見ると規模は小さい。映連加盟4社の海外売り上げは昨年5755万3000ドル(約46億円)。ここにはグループ会社やキャラクター商品化権の収入も含まれており、「海外市場だけで1億円を稼ぐ作品はまれ」といわれる。独立系映画会社の作品となると「海外に売れるのは一部の日本映画に限られ、売れたとしても数百万円レベルというのがざら」というのが実情だ。

世界の映画マーケットは、各国の現地映画とハリウッド映画が集客を争い、外国映画が入り込む余地が少ない。どの国の映画も海外市場で稼ぐのは簡単ではなく、言語や文化の壁が高いといえそうだ。

しかも、日本の映画市場の場合は、2011年の興行収入が1812億円、パッケージ(DVD、ブルーレイ)の小売店舗売り上げは3030億円とある程度の大きさがある。国内の市場規模が小さいために、早くから海外展開に熱心だった香港映画や、近年は国を挙げて海外展開に力を入れる韓国映画のように海外に打って出ざるをえないのとは状況が異なる。

日本の映画会社はまず国内で稼ぐことを重視し、海外展開は二の次となっているのが現状だ。だが、「アジアでパートナーシップを組んで作る動きはいくつか出ている」(東映・大久保氏)。

これまで、海外における映画動向については、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭での評判が最大の話題になってきたが、今後はアジアが期待のマーケットになっていきそうだ。

(ライター 相良智弘)

[日経エンタテインメント!2012年9月号の記事を基に再構成]

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