経常収益を伸ばし、目新しさを求める消費者を満足させるため、イケア(Ikea)はサブスクリプション制の家具リースモデルのテストを開始する。2月後半にスイスで試験運用がはじまるこのサービスは、レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)の家具版に近い。
経常収益を伸ばし、目新しさを求める消費者を満足させるため、イケア(Ikea)はサブスクリプション制の家具リースモデルのテストを開始する。
2月後半にスイスで試験運用がはじまるこのサービスは、レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)の家具版に近い。消費者は事前に定められた期間、家具をレンタルでき、期間が終わるとイケアが製品を回収し、修理点検のあとリユースする。同社はこの実験を「スケール可能なサブスクリプションサービス」へと成長させることを目論んでいるが、プログラムのコストは不明だ。彼らの目的は、リピート客を生み出し、店舗へのトラフィックを増やし、若い世代にアピールすることにある。
イケアの広報担当者は米DIGIDAYに対し、これは持続可能性への取り組みの一環であり、レンタルモデルは「循環経済」を促進すると、メールで語った。
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イケアの損益への影響
しかし、影響はイケアの損益にも及ぶ。サブスクリプションモデルは、収益と、実店舗およびオンラインストアへのトラフィックの増加につながるからだ。イケアは、ほかの大規模小売企業と同様、従来の郊外大型店舗モデルの再考を迫られている。今回の家具リースのテストは、都心の小型店舗の展開や、eコマース体験の改善に続く、ビジネスの現代化のための新たな取り組みなのだ。
サブスクリプション型サービスにより、イケアは実店舗およびオンラインストアの成長が見込めるだけでなく、安定した利用料売上を得ることができる。テストが成功し、全顧客向けにプログラムを拡大した場合、イケアはすでにそこそこ競争のある市場に参入することになる。ライバルには、レントAセンター(Rent-A-Center)などの古参もいれば、「ファーニッシュ(Fernish)」や「フェザー(Feather)」といったスタートアップもいる。
ガートナー(Gartner)のシニアリサーチアソシエイトを務めるグリフィン・カールボーグ氏によれば、リース事業のテストは、変わりゆく消費者行動へのビジネスモデルの適応に、イケアが真剣であることをアピールする、投資家へのメッセージだと分析する。イケアの改革は、利益率にも影響を与えている。昨年11月、同社が発表した2018年1~8月の課税前利益は、前年比36%減の24億ドル(約2650億円)、売上は2%増の420億ドル(約4.6兆円)だった。
「低成長市場では、(小売企業にとって)いかに株主にとっての価値を増やし、人々を店に連れ戻すかが問題だ。サブスクリプションモデルは、小売業者がこの難しいサイクルを切り抜けるための、ひとつの方法になる可能性がある」と、カールボーグ氏はいう。
新たな顧客たちの好み
家庭用品分野におけるサブスクリプションモデルには、すでに成功例がある。2016年にメンバーシッププログラムを開始したレストレーション・ハードウェア(Restoration Hardware)は昨年、同プログラムが自社のコアビジネスの95%を占めるまでになったと発表した。このプログラムは、年間100ドル(約11000円)の会員費を払えば、割引やコンサルタントサービスが受けられるというものだ。
サブスクリプション型リースへの転換は、新たな顧客の好みに合わせた変化でもある。消費者は徐々にではあるが、サブスクリプション型小売サービスを進んで利用するようになってきた。2017年に市場調査会社ユーロモニター(Euromonitor)が行った、米国のミレニアル世代を対象とした調査によると、37.5%が何らかのサブスクリプション型小売サービスを利用しており、家具分野に絞ると20%が利用していた。ますます多くの従来型小売企業が、さまざまな分野で忠実な顧客からのサブスクリプション売上を最大化しようとしている。たとえば昨年、ドラッグストアチェーンのCVSはAmazon Prime型のサブスクリプションを開始。家電販売大手のベストバイ(Best Buy)も同年、テックサポートのサブスクリプションサービスをスタートさせた。こうしたトレンドに、イケアも加わったというわけだ。
「サブスクリプションモデルは消費者に受け入れられた。なかでも、食品セットや剃刀、それにレント・ザ・ランウェイなどのファッション分野では、すっかりお馴染みになっている。もはやメインストリームの消費者行動だ」と、ユーロモニターの小売担当責任者、ミシェル・グラント氏はいう。「また、消費者は新しいものを好む。誰もが常に家を改装しつづけている現象は、HGTV(住宅番組専門のケーブルネットワーク)効果と呼んでもいいだろう」。
自身を再考するイケア
このようなイケアの動きは、Amazonや家具スタートアップに対抗したものと見るべきではないと、カンター・コンサルティング(Kantar Consulting)の住宅改装小売アナリスト、ハンナ・ヘイズ氏は指摘する。同氏によれば、サブスクリプションへの進出は、デジタルファーストの若い顧客にとって魅力的であるための、イケアのその他の現代化の取り組みとあわせて考えるべきものだ。
「イケアは自身を再考し、若い購買層とのつながりを築こうとしている。スタートアップとの競争というよりも、彼らの『実践によって学ぶ』姿勢の表れだ」と、ヘイズ氏はいう。
顧客が家を頻繁に改装したいとしても、費用が高ければ、多くの人々には手が届かない。サブスクリプションであれば、価格はより現実的になるだろう。しかし、安定した収入源にするためには、イケアは顧客が他社製品に目移りしないような、十分な価値を提供しなくてはならなくなる。
「私が疑問に思うのは、顧客がイケアのエコシステムにとどまるくらい、彼らが魅力的なサービスを構築し、安定した収入源にできるかどうかだ」と、カールボーグ氏は語った。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)