2012.02.16
# 雑誌

この国はきっと滅びる!
就活のバカたち 学生もバカなら、面接官も大バカ

'13年卒業の大学生は約55万人。うち42万5000人が就職希望だが、大企業に入れるのはさらにその1割〔PHOTO〕gettyimages

 すました顔で嘘をつき、〝自己分析〟にハマり、面接で臆面もなく大声を出す学生たち。「面白い奴が欲しい」と、頓珍漢な質問をして悦に入る面接官たち。こんな茶番、いつまで続けるつもりなのか。

他人に語れるような人生なのか

 今年も学生たちの就職活動が佳境に入った。街角でリクルートスーツ姿の若者を見かける機会が増え、思わず心の中で応援するという読者も多いに違いない。

 いま、企業の採用面接で必ずと言っていいほど行われるのが〝自己PR〟だ。読んで字のごとく、学生が自らの人となりを初対面の面接官にアピールすることで、面接が始まって最初に行われることが多い。

「では、あなたの強みを教えてください。1分以内でお願いします」

 と面接官が尋ねると、学生は作り笑顔でこう答える。

「はい。私の強みは、みんなをまとめるリーダーシップがあることです。私はテニスサークルで副部長を務めていました。合宿の企画や引率などを通して、人の意見をまとめることの難しさを学びました。サークルで培ったリーダーシップを、御社でも役立てたいと思っています」

 もちろん彼は、あらかじめ暗記した回答を吐き出しているだけだ。しかも〝副部長〟という部分は誇張されている。実際は平部員だが、どうせわからないだろうと高を括っているのである。このような誇張は「話を〝盛る〟」と呼ばれ、就活生の常套手段だ。

 一方面接官も面接官で、ふむふむ、と頷きながらメモをとるフリをしつつ、ろくに話を聞いていない。〝サークル〟〝副部長〟という言葉が出てきた時点で「また同じか」となるからだ。某大手IT企業の採用担当者は、「何百人も面接をこなしていれば、『盛っている』ことはすぐにわかります。少し突っ込むと、話が急に曖昧になる。多いですよ、そういう子は」と語る。

 作家の曽野綾子氏は、そんな嘘にまみれた昨今の就職活動の様子を深く嘆いている。

「今の採用面接は、本人の美点ばかりを聞いて、学生は準備した模範回答を淀みなく答える。採用する側も面接を受ける側も嘘っぽい。そんな面接をしたところで、専門知識以外の教養や人としての厚み、個性がわかるはずがない。これでは、本当にその人のことを理解したとはいえません。

 自分の美点を人前で恥ずかしげもなく披露できる人は、他者の視点で自分を見ることができていないということです。だから平気で『自分はリーダーに向いています』なんて面接で言ってしまう。周囲は『出しゃばりな奴だな』と思っているかもしれないでしょう。自分のことをこうだと思い込むと、結局は自分勝手で幼稚な自己表現しかできなくなると思います」

 都内のW大学に通う男子学生は、ある企業で受験した5人1組の集団面接で、この「幼稚な自己表現」を目の当たりにした。

「自己紹介を求められた途端、端の席にいた男子学生が勢いよく立ち上がり、『はい! 僕は大学で演劇を始めました。ずっと暗い性格でしたが、演劇を始めて別人に生まれ変わることができました!』と、部屋中に響き渡る大声で話し始めたんです。

 みんなあっけにとられていましたが、考えてみると彼の回答はおかしい。演劇をやっていることはアピールできていても、全然自己紹介になっていません」

 彼がこんな行動に出た理由は、面接での過酷なPR合戦を乗り越えるために、学生たちがこぞって取り組む〝自己分析〟にある。自己分析とは「これまでの人生を徹底的に振り返り、自分がどんな人間かを語れるようにする」ことだ。就活の現状を是正することを目的としたNPO〝DSS〟代表で人材コンサルタントの辻太一朗氏が解説する。

「『小学校時代にいちばん悲しかったことは何か』『自分の嫌いなところはどこか』『10年後、自分は何をしていると思うか』こういった、一見他愛のない、しかしよく考えると答えようのない設問に答えることが〝自己分析〟だとされています」

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