1987年秋、『あぶない刑事』は高視聴率を保ったまま一年に及ぶ放送を終えた後、その勢いに乗じて同年12月公開の正月映画を作って大ヒット。翌年夏には映画第二弾、そして秋からは続編の連続ドラマ『もっとあぶない刑事』など、その勢いを示せば枚挙にいとまがない。

 

一方、前回紹介した『ジャングル』は、いままでにない新機軸を掲げた刑事ドラマと煽ったものの、伸びない視聴率に加え、話題性のなさなど、制作陣の思惑がことごとく外れる。そして、ウィキペディアにも書かれてあるように、伝家の宝刀、“殉職”を使って若手刑事役の山口粧太が降板。番組名を『NEWジャングル』と変えて、いままでと同じ設定の中に、旧態依然というかジーパン刑事の何度目の焼き直しみたいな江口洋介を加入させて再スタートする。1988年1月8日のことである。

 

1月スタートの新ドラマとなるわけだが、この1月期にある刑事ドラマもスタートする。それがフジテレビの『君の瞳をタイホする!』なのである。ただ、このドラマは、主人公たちの職場が警察を舞台にしているだけで、内容は刑事ドラマではなく青春恋愛コメディーの部類に入る。また、いわゆるトレンディ・ドラマの元祖といわれ、その要素がはしばしに入っている。


テレビ史においてエポック・メイキングなテレビドラマであることには違いないが、視聴率的には15~18%ぐらいで前番組であった業界ドラマシリーズとほぼ変わりなく、裏番組のTBS『橋田壽賀子ドラマ おんなは一生懸命』が20%台前半獲っていたから、それの後塵を拝した格好だった。しかし、ターゲットにしていた視聴者層には話題性は抜群で、十代から二十代の若者がこぞって観ていた。憧れるライフスタイル、マネをしたくなるファッション、複数いる主人公格の誰かしらのキャラクターに共感する、といったトレンディ・ドラマの定石がすでに作られていた。


『君の瞳をタイホする!』は、ステレオタイプのキャラクターを動かした。建設大臣の甥でボンボン育ちの柳葉敏郎、東大卒のエリート刑事ながら純朴な性格の三上博史、そんなふたりとは対照的に、金に縁がなく、ドジばかりするお調子者だが、行動力は抜群にある陣内孝則。この三人が、その場に一人いなくて二人になったときでも、対立軸は明確だから、ときに互いに張り合ったり、ときに補い合ったりしながら物事が進む。

 

金持ち役の柳葉が高級マンションに住んでいて、隠すことなく皆を招き入れている一方で、陣内がその横に建っているボロアパート住まいで、どうにかそれを知られないようにあくせくするというわかりやすい対比からはじまり、ワニを捜索するといった回では、東大卒のエリート刑事だけに普段は仕事が出来るはずの三上が卒倒している横で、行動力が空回りして普段はドジばかりの陣内がここぞとばかりに必死にワニと格闘しているといった場面もある。これは陣内の述懐で、本作よりも視聴率を獲っていた裏番組の『おんなは一生懸命』で主演の泉ピン子が墓石に抱いて泣く回があって、その話をスタッフから持ち出され、視聴率上昇を願って陣内に生きたワニを抱くよう迫って、一念発起したとか。おっと、話がそれてしまった。

 

では、なぜ、刑事ドラマそっちのけでキャラクター・ドラマだったのだろうか?、それは『君の瞳をタイホする!』は1クールで12回という最初から設定された放送期間のなかで、キャラクターを使い切ることに重点置いたからだ。当初から放送期間に制約は持たせずに長寿番組を目指してスタートした『ジャングル』とはそこが違った。キャラクターは作るけれども、結局活かせずじまい。刑事ドラマの骨子である事件に合わせて、それに関わるキャラクターを小出しにしていく手法の弊害が出てしまっていた。設定を複雑にした分、どのキャラクターも活きなかった。

 

『NEWジャングル』は1988年9月に終了する。1987年2月のリニューアル前の『ジャングル』開始からおよそ1年半、二つ合わせて全68話はロングランではあったが、視聴率は10%台前半の低視聴率がずっと続いた。そして終わった後でも苦境は続く。後番組の『もっとあぶない刑事』は同じ刑事ドラマながら制作は東映系のセントラルアーツで、『太陽にほえろ!』以来の東宝が明け渡すかたちになってしまった。しかも、その秋の話題となっていたドラマの一つであり、前評判通りに毎回20%を越すヒットドラマとなっていった。『ジャングル』と『NEWジャングル』のスタッフは結構屈辱を感じていたのではなかろうか。

 

翌1989年3月末、予定通り、『もっとあぶない刑事』は半年の放送期間を終え、翌週はその時間枠と次の『金曜ロードショー』の時間枠つないだ3時間枠で、1987年の映画版の『あぶない刑事』を放送。各局が春の改編期でとっておきの特番やっているなかで20%越す高視聴率を上げた。そして、翌週からようやくその時間枠に『太陽にほえろ!』と『ジャングル』を作っていた東宝の刑事ドラマが帰ってくるのだが・・・。

 

水谷豊主演『ハロー!グッバイ』がそれなのだが、やはりコケた。その原因の一つとして、今回取り上げている『君の瞳をタイホする!』にあまりに影響を受けすぎた。舞台は銀座、キャラクターをファッショナブルに、そしてスラップスティックに作り、キャラクター同士の対立軸も明確に作り出しながら話を進めた。ただ、やはり刑事ドラマの本流からは抜け出せなかったようで、トレンディ・ドラマの要素を入れたに過ぎなかった。近年、日テレプラスで再び観る機会に恵まれて観てみたものの、やはり開き直って刑事ドラマらしい刑事ドラマにした『刑事貴族』のほうが刑事ドラマとして楽しめるものだった。


1989年4月スタートの刑事ドラマといえば、『ハロー!グッバイ』のほかに、テレビ朝日と石原プロが“『西部警察』の夢よ、もう一度!!”と総力を挙げた『ゴリラ・警視庁捜査第8班』が始まるが、ご存じのようにこちらも失敗する。1989年4月スタートの刑事ドラマはもうひとつあり、『はぐれ刑事純情派』の第2シーズン。こちらは成功し、視聴率20%前後を獲り続けたばかりではなく、いよいよ刑事ドラマに人情刑事もののジャンルを定着させていった。そして90年代はまさしくこのジャンルの刑事ドラマが闊歩することになってしまう。