「昭和の集合住宅」。団地と聞いてそんなイメージを抱く人も多いだろう。住まいの形が多様化した昨今では、若い世代が住みつかず、居住者の大半を高齢者世帯が占める団地も増えているという。
そんななか、「団地は子育て世代にとって魅力たっぷりの住まい」と力説するのが、この春に千葉県の古い分譲団地を購入し、一家5人で引越してきた吉田啓助さん。自らの住まいを開放し、団地での快適な暮らしぶりを知ってもらうオープンハウスイベントを行うなど、団地に若い世代を呼び戻そうと奮闘している。
7月某日に開催されたオープンハウスに参加し、団地生活の魅力やメリットを探ってきた。
やってきたのは千葉県市川市の「ハイタウン塩浜」。昭和56年に建てられた総戸数1400戸以上のマンモス団地。東京湾に程近く、海風が心地いい。
団地というと同じ形の建物が何棟も並んでいるイメージだが、ここには14階建ての集合住宅から2~3戸が連なる低層住宅まで、じつに多様な建物がある。吉田さん一家が暮らすのは敷地の北側に位置する2階建て住宅。長屋タイプで3件の家が並ぶ形だが、一軒一軒に独立した庭があるため、「集合住宅というより一戸建てっぽい感覚」(吉田さん)とか。
全面リノベーションを施した内装は、築30年を経た建物とは思えない美しさ。間取りや設備も大幅に変更し、小さな男の子3人を含む一家5人が布団を並べられる広い居室、家族全員で入れる大きなお風呂など、「家族のふれあい」を重視したつくりになっている。
上下階を合わせた建物面積も93㎡とかなり広く、2階には緑に囲まれたルーフバルコニーもある。思わず羨ましくなるほどの贅沢な住まいだ。これほどのスペックで価格は2100万円。リノベーション費用を含めても3000万円と、コストパフォーマンスは申し分ない。吉田さんも「築30年といっても、リノベーション次第で新築以上に理想的な暮らしが可能になることを実感しました」と満足げ。
とはいえ、郊外なら団地でなくても安い中古住宅は見つかるはず。それでも吉田さんがあえて団地を選んだのは、幅広い世代によって築かれるコミュニティの存在が大きい。
「私が子どものときは、鍵もかけずにお互いの家を行き来するような近所付き合いがありました。大人が地域の子どもを見守ったり、叱ったりするのも普通だった。昔ながらの団地にはそういう結束がまだ残っているように感じます。自分の子どもにも、団地ならではのコミュニティの中でさまざまな大人とふれあい、刺激を受け、成長してほしいと思ったんです」
すでに完成されたコミュニティに新たに入っていくのも、それはそれで大変そうだが、高齢化という課題を抱える団地の多くは基本的に若い世代を歓迎している。
ハイタウン塩浜第二住宅自治会長の高桑さんと同管理組合理事長の横山さんも「この団地も30年が経過し、ひとり暮らしの高齢者世帯も増えてきた。今がまさに世代交代の過渡期。若い世代にどんどん入ってもらいたい」と語る。
ハイタウン塩浜のような大規模団地は自治会がしっかりしていて、団地内の夏祭りや餅つき大会といった交流イベントも盛んなため、通常のマンションなどに比べると新規住人が溶け込む機会にも恵まれているといえそうだ。また、小さな子どもがいる家庭なら、子ども同士のつながりやママ友を通じて、交流の輪も広がっていく。
「ここに住み始めて2カ月経ちますが、団地は子育てするには本当にいい環境だと実感しています。しかし、その魅力があまり知られていないのか、残念ながらまだまだ同年代の子育て世帯は少なく、近くの小学校も全校生徒合わせて152人(中学校は144人)。私たちの子どもが新たに入学したことが大ニュースになるような状況です。もう少し子育て世帯の仲間を増やすためにも、これからもオープンハウスなどを通じて団地ライフの良さを発信していきたいと思っています。実際に泊まれる体験型のイベントなんかもいいかもしれません」
知れば知るほど魅力的に思えてくる団地暮らし。もちろん「エレベーターがないこと」をはじめ、デメリットもそれなりにあるわけだが、個人的には新居探しの際は「団地」を選択肢のひとつに加えない手はないなと、そう感じました。