『日本メディア史年表』について吉田則昭(立教大学兼任講師) |
今日、新聞・テレビなど従来のマスメディアに加え、インターネット・SNSなど、新旧メディアが入り乱れて、メディア大激変の時代となっている。メディア史は近現代史の一部でもあるが、独自の領域を持っている。しかし、この自明のことが正面から取り上げられることは少なかった。 1960年代以降の活字メディアから音声・映像メディアへの移行ということだけでも、先行するメディア形態が新しいテクノロジーによって代わられることであり、それまでのコミュニケーションの配置や連関が変わってくることにもなる。メディア史を貫く方法論は困難を極めるので、この点こそ、「年表」という形式でなければ表現できなかったことである。 本書は、「はじめに」にもあるように、「史上初めてのメディア史年表」である。放送史、新聞史など時系列のメディアの歴史というのは、これまでも描かれてきたが、それらを横断した形でのメディア史というものは、これまでもないのではないかという問題意識から、各執筆者は執筆にあたった。計8名の各執筆者が、新聞、出版、通信、放送、映画、広告、ニューメディア、写真を、それぞれ分担執筆した。その中で、筆者は「出版」の分野を担当した。「出版」に即していえば、その発展過程も当然ながら一筋縄ではない。 一例として、講談社は、学生弁論を活字化したことで成功を収めた大正期の大出版社であるが、それだけでなく栄養剤「どりこの」製造販売を開始し商事部を設けたり、レコード事業界に進出し、レコード部を新設、キング・レコードの発売を開始するなど、当時の新動向を積極的に取り入れ、事業拡大にも打って出ている。また、当時のレコードも内務省は出版法で納付義務をカバーしようとしていたように、事業者と統制者のせめぎ合いも興味深い。こうした多々ある出版の「場」の変わり方の追及も、年表という形式でなければ表現しきれなかったと思う。 今年は明治150周年でもあるが、本書の記述は明治以前の1837年からのスタートし、2015年までの180年間に及ぶ。本書に収めた参考文献も、明治百年の書が1968年に多く出版されたが、明治元年を起点にしたものも多い。そこからも様々な問いも生まれる。明治100周年から150年周年までの「50年間」も、その後の空白の期間としてどう記述すべきか。特に80年代から90年代の「出版バブル」や、2000年以降、出版物の発行点数、売上などの右肩下がりの傾向をどう描き、評価するかも今日的な課題である。
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