ん?ウルヴァリンは出てない……出てた!『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』

X-MEN:ファースト・ジェネレーション』鑑賞。

観ていて、「あれ?ウルヴァリン出ないじゃん?あれあれ?サイクロップスは??っていうか、オレここにいるひとたちほとんど知らないんだけど!?」と思っていたら、『X-MEN』の前日譚だったというオチ。いや、前日譚であることは分かっていたんだけど、ここまでさかのぼったか!という驚きは正直隠せなかった。基本的に映画は何の情報も入れずに観るタチなので……あ、でもウルヴァリンは出てたよね。

ストーリーと人間関係はかなり込み入っていて、ヘルファイア・クラブを率いるセバスチャン・ショウというミュータントが、自身が「虐げられる人間」ではなく「進化した人間」として、世界の王になるために、米ソ両軍の背後で暗躍し、キューバ危機を引き起こそうとするというのが主なあらすじ。そこに人間の世界でもミュータントの存在を認められたいという思想のチャールズと幼い頃に母をセバスチャンに殺されたエリックが組んで、第三次世界大戦を止めようとする。

がっつし盛り込まれた情報をきちんと交通整理し、そこに切なさ、恋愛、思想のぶつかり合いといったアメコミヒーローものに必要不可欠な要素を入れた脚本は見事で、130分のランタイムはあっという間。キャラクタースタディバツグンの威力を発揮しており、ベラベラ喋りまくるセリフの量も相まって、非常に人間臭く、非常にポリティカルな要素を含んだ大人のドラマに仕上がっていた。故に「光線が出てドーン!」とか、そう言ったものを期待すると肩すかしを喰らう可能性が大。

監督はブライアン・シンガーからマシュー・ボーンへバトンタッチ。アメコミを意識してか、ポップでキッチュな色彩だった『キック・アス』に比べると、それは抑えめになっているものの、出だし『X-MEN』一作目の完コピシーンのトーンがかなり暗いため、マカヴォイくんが出てからは、結局そのポップさがにじみ出ており、中盤くらいから完全にカラフルになる。

基本的にカメラは過剰なケレン味を出すことなく、コミックの一コマ一コマを意識したようなキメ絵的な構図でもって、ワンシークエンスが作られており、特に前半はそれが顕著。そのコミック的な構図でもって「部屋の半分が実は実験室だった」という映像のトリックがあったりして、セリフ過多になりがちな内容を視覚的に飽きさせないようにしている。

そして、クライマックスはその抑圧された、いい意味でカッチリしたカットを盛大にぶち壊すようにカメラがぐるんぐるん回り、構図も広々として、ケレン味たっぷりになる。大胆な構成といえばそれまでだが、『キック・アス』が全体的に革新的なアクションで撮られていただけに少し物足りなさを感じた。まぁこれはあくまで別な作品で、恐らく監督自身こういう風な映像にしたいんだよ!というのがあまりないのかもしれない。実際求められてるものを撮ってるのだから、職人仕事と言えばそれまでだし、ザック・スナイダーみたいな凝りに凝った映像に慣れ過ぎてしまっているというのもあるかもなぁ……

確かに会話劇なきらいはあるし、魅力的なキャラクターはまったく出て来ないが、非常に分かってる人たちの職人仕事を観たという感じでなかなかおすすめ。マシュー・ボーンはこれからこういう柔軟なスタイルで作品に望むのだろうか?だとすればそれはそれで非常に次が楽しみになるのであった、あういぇ。