「ブラック・スワン」見たよ


ニューヨーク・シティ・バレエ団のバレリーナで、踊ることに全てを捧げるニナ(ナタリー・ポートマン)。ある日、芸術監督のトーマス・リーロイ(ヴァンサン・カッセル)がプリマ・バレリーナのベス(ウィノナ・ライダー)を新シーズンの「白鳥の湖」から降板させることを決める。このとき、ニナは後任のプリマの第一候補だったが、新人ダンサーのリリー(ミラ・クニス)もまた有力な候補の一人だった。人の若きバレリーナは敵対心から、ねじれた友情を発展させていくのだが…。

『ブラック・スワン』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮にて。


ずいぶん前から予告やCMを繰り返し何度も観ていたせいで、観る前からもう観終えた感のあった本作ですが、いやはや観てみてびっくりの傑作でした。心底参ったわけですが、もうこれ何なの?
とても冷静に観ていられないくらいに感情を揺さぶられてしまい、もうヘトヘト。昨日は仕事を終えてからレイトショーを観に行ったのですが、仕事自体は終日大して忙しくなかったので余力ばっちりで臨んだのですが、もう疲れたのなんのって一日仕事したのよりも疲れたよ...。


本作を簡単にまとめると、プリマに選ばれたバレエダンサーがその重責に押しつぶされるというお話なのですが、このつぶれ方がもう半端じゃないくらいにリアル。繊細で臆病なニナが、ストレスやプレッシャーという重石によって少しずつつぶされて壊れていく様子には戦慄を覚えるほど心に迫るものを感じました。


一番の近親者である母親にさえも言いたいことが言えず、日々自身の中にストレスをため込むニナ。左頬にプッと膨らんだ吹き出物は彼女の内面にあるストレスの大きさを表しているようで、ニナ自身が感じていた閉塞感の強さをとてもよく表していました。
また、白鳥と黒鳥、つまり繊細さと臆病さ、そして大胆さと狡猾さを同時に内面に宿さなければならないという矛盾した要求がプレッシャーとなり、彼女を追い詰めていきます。


全編にわたって描かれる「壊れていくニナの姿」。


このニナが壊れる様子を観て嗜虐的な興奮を覚える人も少なくないようですが、わたしはニナの抱えたプレッシャーやストレスの大きさに同情してニナの感情を受け止めてしまいました。外的な力に抗うことも流されることも出来ずに壊れていくニナと同じ視点を選び取ってしまったわたしは、針のむしろに座らされたような辛い地獄の2時間を過ごしたのですが、観ながらふとひとつの疑問がわいてきました。


なんでニナはバレエをやっているんだろうか?と。


だってニナは踊ることがすごく好きとか楽しいわけではなさそうなんですよね。
幼い頃からやっていて辞める機会がなかったから続けている、ただそれだけのようにしか見えません。そしてそう考えると気になってくるのは母親の存在なのです。



ニナと母親の会話から母親もニナと同じくダンサーであったことや、母親はそれほど大成したわけではないことがうかがえましたし、母親が自身のかなえられなかった夢をニナに託したことはそれとなく伝わってきました。つまり、ニナがバレエを続ける理由は母親との関係を維持するためであり、自身を承認してもらう唯一の手段なんですよね。
その関係の歪さのためか、ニナの母親に対する態度はあまりに幼く、それに対してわたしはものすごい違和感をおぼえたのですが、あらためて考えると母親から受けていた強い抑圧がニナの白鳥のような性格を形成した一因であると言えます。そしてそう考えるとまったく正反対の黒鳥として演技をするということは、新しく生まれ変わってまったく逆の価値観を形成するのと同じくらい大変なことです。そんなドラスティックな変化を彼女自身は無意識のうちに拒絶し、それが結果として自傷行為になってしまっていたというのはとてもいたたまれません。


上でも書いたとおり、感情をつよく揺さぶられる傑作だとは思いますが、観ていて本当に重く辛かったので、もう観なくていいやと心の底から思います。


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