STAP細胞の論文に関して3月12日現在に得られる情報で思うこと

STAP細胞の論文や、そのファーストオーサーである小保方氏と理研などの周囲への信用が揺らいでいます。結果は、遅かれ早かれ明らかになるでしょうが、現時点での私の考えを記しておこうと思います。

理研STAP細胞論文の調査について | 理化学研究所 において内部で調査中としていますが、速やかに第三者機関による調査を行う必要があると考えます。

実験上の不備かデータのミスで、いずれ検証されるだろと考えていた 3月1日

この記事を書いた時点では、論文投稿前における共著者同士での再現性のチェックが甘く、きちんと機能していなかった程度に捉えていました。また、論文の内容に誤りがあっても実験操作やデータなどの解釈においてミスがあっただけだろうとも考えていました。このようなミスは十分に起こりえます。例えば、2011年にニュートリノが光よりも速いという実験結果が報告されましたが、2012年に測定精度が不十分だった事が明らかになり撤回されました。
ニュートリノの例のように、STAP細胞の検証にも時間がかかるので、しばらく様子を見た方が良いだろうと思い上記の記事を書きました。

もちろん記事を書いた時点でも 小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑: まとめ:不適切なデータ処理・加工・流用、文章剽窃 において指摘された疑惑はありました。
Tissue Eng Part A における The Potential of Stem Cells in Adult Tissues Representative of the Three Germ Layers に関しては、非常に怪しいと感じていましたが、ここ一番の勝負の論文である Nature の Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency ではそんな大それたことはやらないだろうし、編集者も査読も厳しいので大丈夫だろうと考えていました。もちろん、この時点でもNatureの論文には疑惑がありました。

Natureの論文におけるFig. 1iに示される電気泳動の切り貼りは、生データの画像が鮮明で無かっただけで、きちんとした生データがあるのだろうと考えていました。Fig 1bとFig. 2gのマウス画像の酷似は STAP論文の画像は「単純ミス」 共著者の山梨大教授 で報じられるように単純なミスだろうと思っていました。

実験項(Method)のコピペは参考文献として挙げられていない点は問題ですが、同じ操作をすれば似たような文言になるため、論文の根幹を揺るがすほどのミスでは無いと考えていました。
また、再実験が他機関で成功しないのは、試薬のロットや、コツのような言語化されていない、あるいは特許などの権利を守るためにわざと言語化していない手法があるのだろうとも考えていました。その点は、理研によるプロトコルの発表で何かしら進展があるものと予想していました。

理研STAP細胞作製のプロトコルを発表するも・・・ 3月5日

3月5日に理研STAP細胞作製方法のプロトコルを発表しました。これにより、追実験が行われSTAP細胞の検証がよりスムーズになるだろうと期待していました。

ところが、このプロトコルにはさらっとTCR(T細胞受容体)の再構成はなかったと書かれています。当初の理研のプレスリリースである STAP細胞作製に関する実験手技解説の発表について | 理化学研究所 では「一度T細胞に分化した細胞が「初期化」された結果生じたものであることが分かりました。」と書かれているため、この点は矛盾してしまいます。
ただし、ちょっと頭を冷やした状態で改めて改めてSTAP細胞について(結論:よく分からん) - ka-ka_xyzの日記 でも説明されるようにTCR再編成は無かったが、その他の細胞からSTAP細胞ができている可能性は十分に考えられます。またNatureの論文には、TCR再構成があったとは書かれていないため、論文の内容自体に矛盾はありません。

この時点では 慶應大学 吉村研究室 - 最後にもう一度TCR にも書かれているように、ES細胞の混入がもっともらしい事実のように思われました。
以前にNASAがDNAにヒ素を用いた生物の発見を報じましたが、ヒ素細菌問題に決着? : 有機化学美術館・分館 で語られるように、DNAにはヒ素を含んでいないことが明らかになった事例に近いのではないかなと。


この段階では、気持ち的には STAP細胞についての報道に思うこと|研究者マンガ「ハカセといふ生物」 と同じく、いずれ検証されるだろうから暫く静観した方がよいのでは?と考えていました。

ちなみに、産経新聞のみが STAP細胞 小保方さん、再現実験に成功 論文発表後初めて と報じていましたが、恐らく理研によるプロトコルの発表を勘違いして書かれた記事だと思われます。

博士論文の全く異なる実験の図を流用したことが明らかになる 3月10日

ところが、小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑: まとめ:不適切なデータ処理・加工・流用、文章剽窃 にあるようにNatureの論文に博士論文からの画像の流用が確認されました。もちろん、同じ実験なら問題はありません。しかし、博士論文のFig. 14では骨髄由来と書かれているのに、それと酷似した NatureのFig, 2d, eはSTAP細胞由来と書かれています。この図は、STAP細胞の分化を示す証拠でもあるはずでした。これは、日本分子生物学会 理事長声明『STAP細胞論文等への対応についての再要望』 において「また多くの作為的な改変は、単純なミスである可能性を遙かに超えており」と書かれているように、到底論文の内容を信じることができなくなる流用です。仮にSTAP細胞が実在したとしても、異なる実験の図を流用する明確な理由がありません。

論文の共著者である 山梨大学の若山教授が STAP細胞「確信なくなった」 NHKニュース と語っていましたが、若山教授もこの流用が決定打となり、論文の取り下げを決意したのでしょう。博士論文からの画像の流用は Call for acid-bath stem-cell paper to be retracted : Nature News Blog とあるようにNatureも確認済みのようです。また、STAP細胞の論文の問題について|国立大学法人 山梨大学 によると若山教授は、小保方氏より提供されたSTAP幹細胞の分析を第三者機関へ依頼する意向のようです。


先の声明を出した日本分子生物学会会長である大隅典子会長も自らのFacebookにおいて「胎盤の図を百歩譲って取り違えだったとしても、大事な学位論文の図を、さらに一世一代の論文で使いまわすメンタリティが理解不能です……。」 と述べるように、わざわざ博士論文の図を流用する意味が全く分かりません。仮に、異なる実験の図を流用するにしても発表していない図は無かったのでしょうか?
しかも、STAP細胞 理研が写真流用の疑いで調査 NHKニュース において書かれるようにNatureへ流用する際に博士論文からスキャンした疑いもあります。流用するにしても、なぜ自らの博士論文の原図を使わなかったのでしょうか。まさか原図が無いのでしょうか?

小保方氏の博士論文における Background がコピペであることが明らかになる 3月11日

Twitterアカウントである 論文捏造&研究不正 が、3月11日のツイート にて、小保方氏の博士論文における Background は Stem Cell Basics: Introduction [Stem Cell Information] からの盗用であることを明らかにしました。

二つの文章の差分を比較できるWebツールで表示したのが difff《デュフフ》 になります。青色が違う部分になりますが、殆ど同じであることが分かるでしょう。また、小保方氏の論文の下部に青色の部分がありますが、これらは What are adult stem cells? [Stem Cell Information] の部分の順番を入れ替えただけなので、実質丸々コピペと考えて良いでしょう。単語数にして5000弱となります。ちなみに、件のNatureの論文もMethodを除いた本文が大体5000単語くらいです。
Backgroundに用いられているFig. 1も Appendix A: Early Development [Stem Cell Information] における Figure A.5. を拝借しているようです。文章、図に関しても出典となる What are adult stem cells? [Stem Cell Information] は博士論文には明記されていません。

博士論文を審査した側の問題でもあり、参考文献のない Background に違和感を覚えなかった審査員が不思議でなりません。また、投稿された論文だけでなく博士論文にも剽窃があるとなると、小保方氏の業績のどこまでが真実なのかが疑わしくなります。先の、画像流用と併せて考えると、その画像ですら小保方氏のオリジナルなのかすら疑わしくなってきます。特に、原図ではなく博士論文からスキャンした画像をNature投稿する理由が不明です。

この件に関しては、朝日新聞Twitterアカウントの情報を元に 小保方さん博士論文、20ページ酷似 米サイトの文章と:朝日新聞デジタル なる記事をデジタル版に上げたのも驚きです。

限りなく黒に近い段階にあると思う

共著者の一人であるハーバード大のバカンティ教授は STAP論文、「撤回すべき理由ない」 共著者の米教授:朝日新聞デジタル と返答している模様ですが、STAP論文…ハーバード大医学部、独自調査へ : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) によるとハーバード大は独自調査を行う予定のようです。
理研は内部での調査では無く、第三者機関による調査を実施すべきだと考えます。

博士論文における剽窃、Tissue Eng Part Aに投稿された論文の疑惑、そしてNatureにおける博士論文の図の流用など、小保方氏の業績に関してはどこまで信じて良いのか分からない状況です。
個人的には、Natureにおける博士論文の図の流用が決定的だなと感じています。流用するにしてもなぜ博士論文の図を用いたのか。小保方氏の倫理面以前に精神面が理解できません。この点は博士論文の審査や、共著者の一人である 小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑: 小島宏司氏の論文における画像流用 を合わせて考えると小保方氏の周囲がそのような環境にあった可能性もあり、根が深い問題なのかもしれません。

万能細胞と言えば、捏造論文が韓国社会に巻き起こした熱狂と悲嘆 で紹介されるように韓国の黄教授の事例が思い起こされます。黄教授による捏造は韓国社会の熱狂が作り出した面もあるでしょう。この記事にもあるように、これは韓国ばかりのことではありません。

STAP細胞論文撤回へ〜事実と過度な個人攻撃は分けるべき - 科学政策ニュースクリップ と考えますが難しい問題を孕んでいるなと。
科学上のミスならば個人攻撃は避けられるべきです。もちろん、捏造であったしても過度な個人攻撃は避けられるべきです。しかし、捏造であった場合に個人攻撃と不可分であろうかと問われると難しいでしょう。特に、割烹着などでマスコミの注目を集め取材が過熱した過去があり、マスコミは小保方氏の周辺の情報を既に持っている状態です。注目を集めてしまっただけに、その反動が恐ろしい・・・・・・。

また、問題は小保方氏に留まらず、共著者や、理研早稲田大学にも及びそうです。何度も書きますが、内部による独自調査ではなく、第三者機関による調査が急務だと考えます。

3月12日の22時30分頃に追記

3月12日の未明の段階では、明らかではありませんでしたが、小保方さんの博士論文、参考文献リストもコピペか:朝日新聞デジタル と報じられるように小保方氏の博士論文において、参考文献のリストもコピペであることが明らかになりました。また参考文献リストが本文と対応していません。この場合、参考文献として意味をなしていません。
参考文献の書き方も3章とそれ以外の章とで異なっています。参考文献の書き方は学会や雑誌社によって異なります。名前は、Yamada Taroの場合、Yamada T.と書く場合もあれば、T .Yamadaと書く場合もあります。論文の発行年、論文名、ページ番号の順番や書体も様々です。同一論文内では書き方を統一するのが普通ですが、コピペして修正するのが面倒だったのかもしれません。

さらなる博士論文における疑惑は 小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑: 小保方晴子の博士論文の疑惑まとめ でまとめられていますが、博士論文に用いた細胞の写真を問題となっている Tissue Eng Part A に流用しており、Natureの場合と同様に図の説明が異なっているようです。つまり、異なる実験から得られたはずの図なのに、同じ図を流用しているようです。

博士論文を審査する段階では、図の流用までは分からないこともあるでしょう。ただし、早稲田大の常田教授、東京女子医科大の大和教授、そしてハーバード大のヴァカンティ教授は Tissue Eng Part A に投稿された論文の共著者でもあるので、きちんとチェックしていないと糾弾されても仕方の無い立場にあると考えます。
また、図の流用に気がつかなくても、参考文献リストと本文が対応していないことは読めばわかるはずです。参考文献リストと本文が対応していないのは、論文としての体をなしていません。一連の画像流用、改編を鑑みるに小保方氏個人の問題もありますが、小保方氏が博士課程を過ごした環境、つまり研究室が画像の流用や改編、他論文からのコピペを常態的にやっていた可能性が疑われます。