"ジャッキー・イヤーのラストを飾るのは"『ラスト・ソルジャー』


 2010年「ジャッキー・イヤー」の締めくくり!


 秦が中国統一を果たす直前……小国同士が果てしない争いを繰り広げていた時代。梁国と衛国の激戦の中、壊滅した戦場でただ一人生き残った梁の兵士は、同じく唯一の生き残りである衛の若き将軍を捕らえ、自国へと連れ帰り恩賞をせしめようとする。だが、将軍は、何者かの陰謀により、自国の軍からも追われる身となっていた。追撃をかわす中、二人の間には奇妙なつながりが生まれ始める……。


 しかしこの「ジャッキー・イヤー」というコピーは、年末に今作を公開することになった配給会社プレシディオが、勝手に作った抱き合わせコピーなんだよな。前二本の客も取り込んでしまおう、何かムーヴメントが起きているように装おうという……。


『ダブル・ミッション』http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100713/1279017152
ベスト・キッドhttp://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100824/1282621970


 時代設定が古いからか、立ち回りも抑えめ。で、主人公二人が戦場で疲れ切って飢えている、という設定なので、そう切れのある殺陣にもならない。が、そんな状況下で必死になっている雰囲気は良く出ているし、生身の人間、あるいは馬や牛の躍動感がかえって際立つ。
 素手よりも武器を使った実戦的な動きが中心で、派手さや見栄えの良さには欠けるが、ともすればコミカルに走りがちなジャッキー・アクションにおいて、「命のやり取り」をしているという緊迫感を保って見せる。


 兵士と、人質の将軍という構図は、やや変奏曲気味ながら、バディムービーでもある。敵味方ながら、各々の目的のためには互いの命が必要という状況下で、徐々に関係性が変化していく。
 しかしジャッキーがあまりにジャッキーなので、つい「年齢不詳」の構図で観てしまう。『酔拳2』でもう四十歳なのに若者役やってたからなあ。今作でもジャッキー演じる「五十代の兵士」とワン・リーホンの「二十代の将軍」という、父子関係を想起させる見方を素直にすればいいんだと思うんだが、ジャッキーが「三男坊の末っ子」という設定もあり、そういう関係性に落とし込めない。


 父→兄→兄→ジャッキー
 父→ワン・リーホン→弟


……という家族間の構図も微妙なズレが生じていて、かぶらない。いや、別にそういう構図抜きで、単純にジャッキーが年上であり父でも兄でもある、という見方をすればいいんだと思うが、キャラクターの大人げなさも手伝って、「いい話」として消化するには混乱が生じてしまった。


 父から子、兄から弟へ、受け継がれる思い。それが世の中を変えていく。そのテーマはよく伝わったし、普通にいい映画だと思うのだが、ジャッキー・チェンという巨人のバイアスは、僕に対していい方にも悪い方にも、作品の見方を変えかねないほどに作用しているのだなあ、と実感した次第……。


 三本公開されたが、『ダブル・ミッション』『ベスト・キッド』と今作では、かつてのジャッキー映画の色合いがまだ濃かったのは『ダブル・ミッション』だったのが面白い。そして『ベスト・キッド』をカンフー映画系譜につながる、ジャッキー自身の新境地にして、老齢になった武術俳優が辿り着く到達点として捉えたのは正しかったと思うんだが、この『ラスト・ソルジャー』は、別にジャッキー主演じゃなくても良かったんじゃないの?とちょっと思ってしまった。
 それよりもむしろ、香港、中国、台湾からスタッフ、キャストを集結させた発想と政治力という点で評価されるべき作品なのかな。

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