原子爆弾や原子力発電所の仕組みって、実は中学生ぐらいの知識で理解できる。僕は原子力というのは、人類が生み出した最もすばらしいイノベーションのひとつだと思ってる。そこで、今日は簡単に原子爆弾や原子力発電所の原理を勉強しよう。

まず世の中のものは全て原子からできている。「すいへーりーべぼくのふね」とか周期表を勉強したね。あれだよ。また原子というのは真ん中の陽子とその周りを回る電子でできている。陽子は+の電荷を持っていて、電子は−の電荷を持っていて、電子的に中性でないと安定しないから、陽子の数と電子の数は常に一致する。原子の性質のほとんどは陽子の周りにどういうふうに電子がただよっているかで決まるので、陽子の数を「原子番号」にしてそれぞれの原子に名前がついてる。陽子が1個だと水素、2個だとヘリウム、・・・6個だと炭素、・・・14個だとCPUとかメモリーを作るシリコン、といった具合。ググるときれいな周期律表がいっぱい出てくるし、最近はアプリもあるね。

周期表、Wikepedia
元素図鑑: The Elements in Japanese - Element Collection, Inc

原子や原子が複数くっついてできる分子の性質のほとんどは電気的な部分で説明できるから、ふだんは中性子ってあんまり考えないんだけど、原子核は陽子だけじゃなくて、実は中性子からもできてる。陽子と中性子はほとんど同じ重さで、電子ははるかに軽い。だから原子の重さってのは、陽子の数と中性子の数でほとんど決まる。陽子の数と中性子の数を足したのを「質量数」っていったね。原子核を構成する陽子と中性子のことを核子ともいう。中学生で習うこと。

窒素原子

陽子の数が7、つまり原子番号が7、電子の数は陽子の数と同じで7のチッ素で、中性子の数が7のチッ素原子は上のように書く。これも中学生でも知ってること。

実は自然界には、同じ原子でも中性子の数が違うことがある。これを同位体(アイソトープ)っていう。電気的な性質はほとんど同じなんだけど、重さが違う。中には不安定な同位体があって、そういう同位体はより安定な原子になろうとする。より安定ということは、つまりエネルギーが低いということ。高いところにあるものは、下の方に落っこちる。熱い鉄は、やがて冷える。ものごとはエネルギーが下がる方が安定するんだけど、この時に「エネルギー保存則」という絶対的な宇宙の法則があるから、あるものごとのエネルギーが下がるときに、必ず他の何かのエネルギーに置き換わるわけ。ものが下に落っこちると、位置エネルギーが運動エネルギーに変わる。鉄が冷えると、その熱エネルギーは周りの空気を温めてる。

中性子が余分に入っちゃって不機嫌な同位体は、より安定な原子核になろうとする。この時により安定な原子の方がエネルギーが小さいから、エネルギー保存則を満たすために、そのエネルギーを放出する。陽子2個と中性子2個をそのままぶっ飛ばせば、それはヘリウムの原子核でアルファ線。中性子が陽子に変身して、電気のつじつまを合わせるために電子を飛ばすのがベータ線。それでちょっと陽子と中性子を安定した位置に動かして、その時の安定した分のエネルギーを光で出すことがある。これがガンマ線。ガンマ線というのは光なんだけど、紫外線なんかよりちょっと強力な光。紫外線を浴びすぎると皮膚がんになるっていわれてるように、ガンマ線を人間があびると細胞が傷ついてがんになるかもしれないっていわれてる。でもガンマ線自体は宇宙からいつも降り注いでるし、レントゲン写真をとるときもX線という同じぐらいの強さの光を浴びるし、けっこう日常的にあびてる。あびすぎるとダメって話。

そこでこの不安定な同位体のことを「放射性同位体」というんだけど、この放射性同位体は崩壊しながら安定した原子にどんどん変身していく。100個あった放射性同位体がどれぐらいたったら50個になるのか、というのを表すのが「半減期」というやつ。半減期が短いと、どんどん安定した原子に崩壊していって、その間にガンマ線などの様々な放射線を出す。そのかわり、すぐに放射性同位体ではなくなっちゃう。逆に半減期が長いと、ちょろちょろと放射線を出しながら、安定した原子にゆっくりと崩壊していくので、放射線自体は弱いけど、ずっと放射線を出し続ける。原子力発電所は、後で説明するけど、この放射性同位体をたくさん産み出していて、今回の福島原発の事故では、それらがちょっと外に漏れだしちゃったんだ。

今回、一番問題になっているのがヨウ素131という、ヨウ素の放射性同位体。これはベータ崩壊してキセノン131になり、その時、ガンマ線もでる。半減期は8日で非常に短いので、放射線はけっこう激しくでるけど、そのかわりすぐになくなる。チェルノブイリの原発事故の時は、この放射性ヨウ素131が牛乳を通してたくさんの幼児に飲まれて、それが甲状腺に蓄積されがんを引き起こしたといわれている。放射能汚染が警戒されるときにヨウ素剤を飲むのは、甲状腺に前もって普通の安定したヨウ素を満タンにしておいて、後からやってくる放射性ヨウ素131が貯まらないようにするためなんだ。

とても前置きが長くなったけど、実は原子爆弾も、原子力発電所もその原理を理解するのはものすごく簡単なんだ。それは核分裂反応を使うんだよ。陽子と中性子の結合の仕方を考えるには、量子力学とか相対性理論を使って考えないといけないんだけど、それを考えていた昔のえらい物理学者が、ある種類の原子はとても分裂しやすいということをみつけたんだ。それがウラン235というウランの同位体。こいつに中性子を一個ブチ込んでウラン236にすると、極めて不安定になって、ふたつの原子核に分裂して、その時にいくつかの高速の中性子を放出する。

核分裂反応

ウラン236というのは陽子と中性子の数が236個もあるとても重い原子だ。これがふたつの原子に分裂してものすごいエネルギーがでる。実はこのときちょっと質量が減るんだけど、それが実はエネルギーに変わってるんだ。質量とエネルギーを結ぶのは、あの世界で一番有名な物理学の式。アインシュタインの特殊相対性理論の式だね。

       E = mc2

これがどれほど桁外れのエネルギーかわかるかな? Eがエネルギー、mが質量、cが光の速度。cの2乗だよ。cというのは光のスピードでめちゃくちゃ大きい数で、それを2回もかける。だから質量をエネルギーに変換できたらむちゃくちゃすごいエネルギーがでるんだよね。核分裂とか、核崩壊というのは、ダイナマイトを作ったりいろんな薬を作ったりするような身近な化学反応と根本的に違うメカニズムなんだよ。化学反応では原子自体が変わることはない。原子の組み合わせが変わるだけ。ところが核分裂反応や核崩壊では原子自体がどんどん変身してしまうんだ。

ここでウラン235は中性子がぶつかると不安定なウラン236になって核分裂して、また中性子をだすよね。この中性子を別のウラン235に当てれば核分裂反応を連鎖させることができそうだね。ぷよぷよみたいな連鎖。ここで中性子の数が指数関数的に増加していくように連鎖反応を起こせば、それが原子爆弾。経済学でいったらハイパー・インフレーションみたいだね。連鎖はするけど、指数関数的には連鎖させないのが原子力発電所なんだ。そしてこの連鎖反応が起こっている状態を「臨界」という。

実は指数関数的に飛び交う高速中性子の数を増やしながら一気に連鎖反応を起こすのは非常にむずかしい。これはウラン235をものすごく高濃度にしないといけない。自然界にはウラン235はウランの中で0.7%しか存在しない。だからウランを集めて、中性子の数による重さの違いを利用して、ものすごい大きな遠心分離機ですこしずつ純度を高めないとダメなんだ。逆にいえば高濃度のウラン235が手に入ったら、原子爆弾を作れてしまうから、アメリカなんかはグローバルホークとかで、北朝鮮やイラクみたいな国が遠心分離機みたいな施設を作っていないか常に監視していて、必要なときはそういう施設にミサイルを打ち込んだりするんだよ。だって、変質者が拳銃を持ってたら怖いように、おかしな国が原爆を持ってたら怖いでしょ。

原子力発電所に使う核燃料は、原子爆弾ほどの純度は要求されない。逆にいえば、原子力発電所がどれだけひどい事故になっても、核爆弾にはならないってこと。安心だね! 原子核反応を利用すれば、無尽蔵なエネルギーを非常に安価に作り出すことができる。人類はこうやって尽きることのないエネルギーをみつけたんだ。

僕は、この原子力というのはものすごいイノベーションだと思う。実際、すごい数のノーベル物理学賞がこの分野に与えられていて、天才的な物理学者がたくさん関わっているんだ。原子力のイノベーションに比べたら、正直いってiPhoneとか作ってるスティーブ・ジョブズとか、ビル・ゲーツとかゴミくずみたいなもんだよ。原子力に比べられる人間のイノベーションって、僕は、二本足で立ったこと、道具を使ったこと、火を使ったこと、言葉を使ったこと、コンピュータを発明したことぐらいしか思いつかない。東日本大震災が千年に一度の大津波だったとしたら、過去千年で大きなイノベーションをふたつ上げろっていわれたら、僕は、コンピュータの発明と、この原子力って答えるな。

参考資料
核分裂反応、Wikepedia
原子工学概論、都甲泰正、岡芳明
ヨウ素131、原子力資料情報室