現在の知識を過去に持ち込む否定論

南京事件否定論者が敗残兵の殺害を正当化する際に持ち出す論拠に、「見逃せばまた戦線に復帰してくるから」というものがあります。南京攻略戦が国際法的には戦争でもなく、かつ「居留法人保護」等の名目で正当化できる余地のある軍事行動でもない、ひたすら意味不明の殺人・破壊行為だった……という点に目をつむるなら、もっともらしく見えなくもない主張です。優勢にある側が勢いに乗って敗走する敵を殺すという現象は、歴史的にもしばしば起きてきたことですし。
しかし、いまの私たちは日中戦争が南京占領後も続き泥沼化したことを知っていますが、当時の日本軍は上から下まで「南京を占領すれば蒋介石は土下座してくる!」という意識に染まっていました(中国の抗戦意欲を正しく評価していた一部の人間を除いて)。つまり「また戦線に復帰してくる」の「また」など日本軍の意識にはなかったはずなのです。
国民党政府の降伏を予期していたにもかかわらずなお「また……」を警戒して殺したということになれば、それこそジェノサイド的動機が疑われることになりかねないわけですが、否定派はそれでもいいんですかね?