FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

/ロドリコ・コルテス監督

[リミット] コレクターズ・エディション [DVD]

[リミット] コレクターズ・エディション [DVD]

 最近スペインの面白い映画によく当る。
 これは画面に映し出される登場人物はただ二人(もう一人は、携帯電話の画面に少しだけ映し出される女性)のみ、舞台は土中の棺桶の中のみ、この棺桶の中で主人公の男性が、あちこちに電話をかけたり、受けたり、棺桶の中で起きる危機をなんとか回避するだけの映画である。
 これほど限定された舞台、そして登場人物、そして主人公の行動(棺桶の中から出ることがでられないので、彼ができることは数えるほどしかない)の中で、これほどのサスペンスをよく盛り上げた。情報や小道具を小出しにしながら、主人公を絶望させたり、希望を持たせたり、それからまた絶望させたりする手腕はびっくりするほど巧みだ。
 目覚めたとき、ポール・コンロイは土中の棺桶の中にいた。最初は彼……そして観客も……なにがなんだか分からないのだが、やがてポール・コンロイが携帯電話で話し出したときから、少しずつ事情が分かっていく。
 彼はアメリカ人だが、イラクで働いていた。兵士ではなく、台所用品を運ぶための運転手として。彼は襲撃され、この棺桶の中に閉じ込められた。戦争のせいで職業を失い、家族を傷付けられ、金銭に困った現地の人間が、彼を誘拐したのだ。彼は会社や国防省、そして家族など、ひたすらあちこちに電話をかけ、犯人ともやり取りをすることで、生存の望みを繋ごうとする。
 結末は想定の範囲内とはいえ、やはり衝撃的だ。あの名前が再び出てきたから、さらに衝撃的だった。シチュエーションスリラーものの映画すべての中でも、屈指の出来栄えであろう。
 とても大きな事件の片隅で起きた出来事を、小さく鋭く切り取った作品。びっくりするほど面白かった。緻密にできあがった傑作。