観光客に背を向けるトーキョー

もしも今、海外から東京に観光にやってくる人がいたら、残念ながら彼らは、日本にあまりいい印象を持たないだろうと思います。

暗い店、暗い街、あちこちで止まっているエスカレーター、消灯されて見えにくい案内板・・・荷物を持っての移動にはとても不便だし、暗い街は消費意欲を刺激しません。見えにくい案内板のせいで、不慣れな乗換えに戸惑う人もいるでしょう。


最初は違和感のあることでも、人は案外早く慣れてしまいます。東京にずっといる人は、今の「暗い東京」に既に慣れつつあります。「今までが明るすぎたのだ」「これくらいでいいじゃないか」とさえ言い出す人もいます。

もしも東京が「東京の人のためだけの都市」になろうとしているのなら、それもアリかもしれません。けれど、東京以外の普通の大都市は、今の東京より圧倒的に明るく、旅する人に便利でわかりやすく楽しい街なのだ、ということも覚えておいたほうがいいでしょう。

大阪駅の大改装が終わってにぎわう関西と往復するちきりんの目にさえ、今の東京は、「なんだか薄暗い街」「灯火管制やってんの?戦争中みたいな街だね」と見えるほどです。

申し訳ないけれど、こんなところで休暇をすごしたり、一生懸命働いて貯めてきたお小遣いでばーんと消費しよう!とは思えません。デパートも、きらびやかな他都市のデパートと違って、なんだか地味で雰囲気がよくありません。かなりの電気を消しているからです。ウキウキする高揚感無しに財布の紐はゆるみません。


暗さと移動の不便さに加え、花火大会や各地のお祭りなど続々と中止されるイベント、ミネラルウォーターを買おうとしたら本数制限がかかる街。もしも、ちきりんが初めて旅行した国で水を買う本数を制限されたら、唖然としたに違いありません。「この国、物資不足なんだ。貧しい国なんだなー」と思うでしょう。

そうでなくても、一日一回余震があるだけでも地震を知らない国の人には「ものすごく恐ろしい場所」です。それに加えて、「暗い、不便、おもしろくない」ではお話になりません。

加えてこれから夏になれば、多くの観光客が驚くでしょう。「東京って冷房が全然効いてなくて、めっちゃ暑くて死にそうだった。もう二度と行きたくないかも!」と。


ちきりんは今、海外の知人から相談されても東京への観光は勧めないです。無理してやってきて悪いイメージを持ってしまうくらいなら、来てもらわないほうがまだましです。東京ではなく、大阪や京都など関西に行ってもらったほうがよいでしょう。

秋葉原も原宿も銀座も、いまや外国からの観光客無しにはやっていけないお店も多いはずです。間接的に雇用を失った日本人もたくさんいるでしょう。それでも、今の状況で「是非、東京へ!」というキャンペーンをするのはむしろ逆効果とさえ思えるような惨状、それが今の東京の姿です。


実際に電力が足りないのだから仕方ないのでしょう。けれど、状況認識だけはしっかりもっておいたほうがいいと思います。

今の東京は決して外部の人にとって観光に向いた都市ではありません。「いい印象」「快適な移動」「楽しい経験」を提供できる状況ではありません。

また、「欧州はもっと暗いのだから、これで問題ない」などと言いだす人もいるんですが、欧州の都市と東京は「観光の売り」にしているものが全然違うんです。

照明や便利さも含め「観光資源としてその都市の魅力をどう売るか」という視点で考えれば、また、建物や街の造りと最適な照明の関係を考えれば、東京が欧州の古都と同じ不便さ、暗さでは話になりません。


東京の人が「被災地のことを考えれば、これくらい暗いくらいでちょうどよい」と思うことは自然なことで、責めるつもりはありません。しかし、この都市が今、他都市からの観光客にたいして厳しく背を向けた都市になっているということは理解しておいたほうがいいと思います。


そんじゃーね。



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