化物語のヒットと初めてこれしたあのアニメはそれからどうなった


(via 『IS』のEDのコラで売上表を作ってみたよ|やらおん!


今年の初めにネットを見ていたらこのようなエントリがありました。
 「なのは」と「化物語」ってどこでヒットしてんの?
『なのは』に関してはファンサイトやTwitterで支持している人をよく見るのでどこでヒットしているか、というのは考えたことがなかったのですが、『化物語』に対しての疑問にはちょっと頷いてしまうところがありました。あれだけBD・DVDが大ヒットしたにも関わらず、どういった層が支えているのか具体的に見えない。
いやネット上を探せばいくらでもファンは見つかるでしょうし、同人も活気があるジャンルだとは思います。
なので「見えないのはお前の観測範囲の問題だろ」という結論にどうしてもなってしまうのですが、それにしても『なのは』や同じくヒットした『けいおん!』とは違った、特異な購買行動パターンに見えてしまう時があります。


例えばバンプレストがコンビニで販売しているくじ引き、一番くじ
通常の500円よりも高い一番くじプレミアム、一番くじきゅんキャラワールドでは人気アニメとのタイアップが数多くあり、昨年は『なのは』『けいおん!』『化物語西尾維新アニメプロジェクト)』でも実施されました。
幸いにも販売開始後の様子がまとめサイトでまとめられています。

見ていただいても分かるようにまぁ、戦場です。高度な情報戦が繰り広げられ、圧倒的な資金力を元に買い占められたダンボールの山が凄まじさを物語ります。

次は『化物語』を含む『一番くじプレミアム 西尾維新アニメプロジェクト』の模様です。

上で紹介した「一番くじきゅんキャラわーるどSP けいおん!」と同じ時期に出たのですが何というか、凄く……平和です……*1
勿論この手の騒動まとめはブログ主の見せ方によって印象は変わってくるとは思います。それにしてもこの差は一体どこから来るのだろう? とずっと考えていますがいまだに分かりません。
ここで最初に戻りますがBD・DVDに関しても同様の疑問を持ち続けています。何故あれだけの大ヒットになったのだろう、と。


そんな時、自分の疑問に応えるかのように『化物語』のヒットを考察したエントリを見つけ、多少なりともこの謎を解き明かしてくれるかもと思い読んでみました。

これらを読むとなるほど、ヒットした理由は分かりました。でもキャラクターコメンタリーやビデオソフトの構成をキャラ別にするといった新しい価値を付け加える一方で、同じように新しいことをやっているアニメ、あるいは『化物語』ヒットの分析を行い追随したアニメがある中で、何故『化物語』が7〜8万本も売れるという“大ヒット”に至ったかというところまではやっぱり分かりませんでした。
物語そのものの面白さ? キャラクター造形の素晴らしさ? シャフト人気? アレガデネブアルタイルベガ? 理由を挙げようと思えばいくらでも挙がるけどこれ、という理由には辿りつかない。
文字通り『化物語』は化物だったという結論になってしまう……なのでもう全容が見えないのは仕方ない! 少なくとも自分にはお手上げです。
仕方ないので視点を変え、じゃあ他で目新しいことをやっていた作品に焦点を当てて考えてみようと思いました。


前置きが長くなって申し訳ありません。
成功より失敗に学ぼうというわけでは全くありませんが、あのアニメ(ビジネス)は大々的に打って出た気がするけど、その後はどうなったんだろう? と個人的に思った部分もあるのでまとめてみた次第です。なので以下で取り上げるアニメが別に失敗事例だったという訳ではないのでその辺はご了承下さい。
以下目次。

  1. 刀語
  2. ABUNAI SISTERS -KOKO & MIKA-
  3. GONZO
  4. ジェネオンエンタテインメント
  5. Phantom〜Requiem for the Phantom〜
  6. RD潜脳調査室
  7. 桃華月譚
  8. プリンセスラバー!
  9. 黒神 The Animation
  10. オネアミスレーベル

刀語

一年にわたって一時間枠で放送されたアニメ


化物語』に続く西尾維新アニメプロジェクト第二弾として制作された『刀語』。このアニメ、毎月一回の一時間スペシャ*2といった特殊な放送形態をとっています。
ではこういった放送は『刀語』が初か、というとちょっと違います。
まず水島新司原作の『野球狂の詩』。Wikipediaに詳しく掲載されているので詳細は省きますが、1977年に初めてアニメ化され、1978年からは一時間枠で毎週放送を行っています。それ以降も『フィギュア17 つばさ&ヒカル』『Project BLUE 地球SOS』『Mnemosyne-ムネモシュネの娘たち-』といったアニメが一時間枠で放送されており、決して『刀語』が初だったわけではありません。
ただ『野球狂の詩』は毎週放送でしたし、それ以降の三作に関してはAT-Xでの放送、と地上波ではなかったので仮に“初”という冠を強引につけるとしたら“初めて一年にわたって毎月一時間枠で放送された地上波アニメ”と言えるのではないでしょうか*3
で、こうした試みを行った結果はどうだったか。


今作は自分も一年間追いかけていて、最終回を見終えた後は1クールアニメにはない充実感を味わうことが出来ました。クオリティといった部分に関しても申し分ない出来だったと思いますし、あれだけ『化物語』が売れたのだから『刀語』もセールス的にいいところまで行くだろうなぁと放送当時は思っていました。
ところが調べてみると実際に上がってきた売り上げの数字は意外なものでした。
 刀語 - アニメDVD・BD売り上げまとめwiki
最終巻までの平均を見ると大体7000本というところでしょうか。昨今の状況を考えるとセールス的には決して悪くない、でも『化物語』と比べると物足りない印象を受けました。
原作に目を向けると『刀語』はシリーズ合計200万部*4、『化物語』は上下で53万部*5と、1巻あたりの部数だとそれほど違いはないように見えるのに、かたやDVD/BDでは10倍の開きがある……『化物語』がいかに凄かったか再認識させられました。
化物語と刀語どうして差がついたのかというスレも立っていて、同じ西尾作品なのに何故ここまで差が出るのだろう? と考察する人は少なくないようです。ただ今回は売り上げを分析するといった主旨ではないですし、それをやるとこの話題だけで終わりそうなので深くはやらないでおきます。
数字だけを見れば『化物語』には及ばなかった。でも『化物語』が化物だっただけで、当初目指していた大河アニメとして『刀語』は成功したと言っていいんじゃないだろうか。個人的にはそう思います。

誰が発案したのか

さてこの毎月一回一時間スペシャルを一年間行うという発想、誰が考えたのか気になって調べてみました。
Wikipediaには次のようにあります。

このような特殊な放送形態になった理由を、プロデューサーの鳥羽洋典は「原作が1か月に1回の刊行だったため、その『月に一度の楽しみ』というイベント感を出したかった」「1冊1冊の面白さを最大限表現するため」としている。

ではプロデューサーの鳥羽氏が発案したのか、というとそうではなくその前に氏に話を持ち込んだ人物がいました。
講談社BOXの生みの親であり、現星海社副社長の太田克史氏その人です。この件については本人のツイートがTogetterでまとめられています。
 Togetter - 「アニメ『刀語』と『センコロール』の可能性について」

原作からして毎月刊行のスタイルだったので、太田氏がこうした考えに至るのは必然だったかもしれません。しかし多くの人が関わるTVアニメにおいて実際にやってしまったという事実にはちょっと感動を覚えます。
 アニメ『刀語』は次のイノベーターになりうるか - ピアノ・ファイア
昨今の深夜アニメは基本1クールか2クール。人気があれば続編が制作されたり、あるいは最初から分割2クールと決まっているアニメもありますが、4クールとなると週末の朝のアニメくらいしか思い浮かばず深夜では殆ど見当たりません。
しかしこの『刀語』は一時間の放送を一ヶ月に一度流すことで4クールアニメと同じ期間放送できた。あっ、こういう放送もありなんだ!と目から鱗が落ちる思いでした。
現実的には多くの障壁があるでしょうけど何も30分×○クールにこだわる必要もないわけで、出来ることならばもっとこういった形態のアニメがあってもいいのではないかと思いました。チェリオ
ちなみに今作品では様々なコラボ企画が募集されており、実際に商品化にも至っています*6
Twitterではチェリオとコラボしたいという発言も行っていましたが、現在に到るまで何も動きがないのでこれについては頓挫してしまったのかもしれません。ちょっと残念です。

ABUNAI SISTERS -KOKO & MIKA-

世界初の日米同時ギャザリング方式

初っ端から長くなってしまった……ので短くどんどん行きます。
2008年のことです。叶姉妹がアニメになるというニュースがネットの極一部の界隈を駆け巡りました。
 プロダクション I.Gが、叶姉妹をセクシーアクションアニメに
この商品、申し込み数が増えれば増えるほど販売価格が下がる「ギャザリングシステム」を導入し、しかも世界初となる「日米同時ギャザリング」を採用したことが売りになっていました。
しかしそのコンセプトから一体誰が買うんだろう、ていうか9万枚以上も予約が入るのか?と懐疑的な声が多く見られました。2chの反応は以下でまとめられています。
 叶姉妹のアニメDVDが酷過ぎるwwwwwwwww カナ速
ただでさえどの需要を狙ってるんだ?と思いたくなるこのアニメ、その後どうなったのか。


というのは以下のブログでもう既にまとめられていました。
 叶姉妹のアニメDVDはそれからどうなったのか : Timesteps
結果、販売数は265枚で価格は最高額の1枚31500円。どうしてこうなった……と考えるまでもなくむしろ予想通りに落ち着いたとさえ思ってしまいます。
ただこういった販売方式だけ見れば、個人的には面白いと思います。
昨今true tearsゼーガペインこどものじかんキスダムRといったアニメで予約入金数が2000件に達するとBlu-ray化するプロジェクトが立ち上げられていますが、この方式を導入するのもありではないか?
そう一瞬思いましたが、今に到るまで導入されていないのを見ると、やってもデメリットのほうが上回ってしまうのかもしれません。まぁ素人の浅知恵でした。とにかく叶姉妹のアニメ化プロジェクトはこれで幕を閉じたのです。
……と思ったのも束の間、実はこの2011年に新たなプロジェクトが動き出していました。
 ポニーキャニオン - ABUNAI SISTERS -KOKO & MIKA- 2D&3D:DVD

あの叶姉妹カートゥーンに!
HOT! SEXY! FUNKY! ABUNAI!
話題のCGアニメ「ABUNAI SISTERS」 まさかの3D化!
飛び出す"アブナイシスターズ"に気をつけろ!

「まさかの3D化!」じゃないよ! むしろ復活したことがまさかだよ! アブナイのはDVDの売り上げだと思います。
しかも3D化されるのは10話収録されるうちの1話のみと謎すぎる仕様で帰ってきました。ただ265枚しか売れなかったのに再挑戦する姿勢は支持したいと思います。

GONZO

国内アニメ制作会社初の公式チャンネル

今やアニメのプロモーションにYoutubeなどの動画配信サイトが利用されるのは当たり前になっており、角川は角川アニメチャンネルメディアファクトリーメディアファクトリーTVというようにそれぞれ公式のチャンネルを持っています。
では国内で初めてYouTubeに公式チャンネルを開設したアニメ制作会社はどこか、というと実はGONZO(当時GDH)だったりします。
 YouTube日本語版にGONZOチャンネル アニメ制作会社初 - ITmedia News
2007年8月1日に開設。本編は配信されず、GONZO DOGAを見ても分かるように公開される動画はアニメのPVやCM、劇場予告などプロモーション用に限定されていました。また「ごんちゅーぶ」という独自の情報番組も配信しており、新作の紹介も行っていました。
 YouTubeにGONZOのオリジナル情報番組登場

その後どうなったか

というのはいうまでもなくご存知だと思います。
 東証 : 上場廃止等の決定について −(株)ゴンゾ−
DVDの販売が振るわず経営不振に陥り、GDHGONZOを吸収する形で改善を行って来たものの債務超過を解消できず最終的に上場廃止となってしまいます。
実はGONZOYoutube以外にも積極的にプロモーション活動を行っています。
例えばニコニコ動画。2008年のニコニコチャンネル立ち上げ時にはアニメ会社としていち早く参加しています。
 GDH、ニコニコ動画にて「ニゴンゾ動画」を開設
また海外にも英語字幕付きでネット配信をしていましたし、常に模索を続けていたように見えます。
 GONZO新作アニメ、YouTubeで海外向け無料配信 「ファンサブ」阻止狙い - ITmedia News
それがどうしてこうなった……。これらの策は功を奏さなかったのか、いや奏さなかったから結果的にああなってしまったのですが。
このままGONZOは倒れたままなのか?いえそうではありません。昨年8月にスタッフが募集され、今年に入ると『にゃんぱいあ』と『ラストエグザイル‐銀翼のファム‐』の制作が発表されます。

当初はプロモーション限定でこれまで行ってこなかった本編配信も、現在ではニゴンゾ動画や新しく設けられたGONZOチャンネルで行われています。変わりつつあるGONZOの挑戦はまだ続いていくのかもしれません。

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ジェネオン――日本初!? ブルーレイディスク無料配布キャンペーン

日本初のブルーレイ無料配布


最近は徐々に普及してきた感のあるBlu-rayですが、ちょっと前の普及率はまだまだでした。当然メーカーとしては普及率を伸ばしたいところ。そんな中アニメレーベル「RONDO ROBE」を持つジェネオン エンタテインメント(現ジェネオン・ユニバーサル)は思い切った策に打って出ました。
 ジェネオン、Blu-ray化アニメのプロモBDを15,000枚無料配布
ブルーレイ市場への本格参入と共に、日本で初めてBlu-rayディスクの無料配布を行います。もしかしたらこれ以前にもあったかもしれませんが、15000枚もの規模の無料配布となると恐らくこれが初めてでしょう。
最初からHD制作のTVアニメは元より、BD化にあたってHDテレシネが行なわれた『天地無用! 劇場版TRILOGY』のプロモも収録されるといった内容でした。
ではこのキャンペーン、その後はどうなったのか。


実際にもらいに行かれた方のレポートがあります。

どこでも普通に激余りだったそうです。まぁよくよく考えてみれば再生機自体が普及してない*7のでディスクもらっても、ということだったのかもしれません。
ちなみにディスクが余ったのか新たに増産したのかは不明ですが、その後のコミケでも無料配布を行っています。
 ジェネオン、アニメBlu-rayプロモディスクをコミケでも配布
太っ腹だ!!
太っ腹といえば、ジェネオンは大改編期のある春・秋の新アニメに合わせ100Pオールカラーの冊子を2008年から毎年無料配布してます。

今年も春の冊子が配布される時期になりましたが、震災の影響か今回は発行されなかったようです……。今後も過剰に期待はできませんが、ジェネオンさんには出来る限りこういった活動を続けていって欲しいと思います。

Phantom〜Requiem for the Phantom〜

業界初のBlu-rayアップグレードキャンペーン

上のジェネオンの件でも触れましたが現在はDVDからBlu-rayの過渡期です。
しかし困ってしまうのがDVDで集めていたアニメ。お金に余裕があってホイホイ買える人は別ですが、大抵はBlu-ray版が出てもなかなか新たに集めることは出来ないと思います。しかしこの『Phantom』ではそういった問題を解決するキャンペーンを行いました。

それはDVD全巻購入者に限りBlu-ray BOXを半額で提供するというもの。LDからDVDへの移行期に同じようなキャンペーンがあったかは今回調べてないので分かりませんが、DVDからBlu-rayへの対応はこれが業界初らしいです。
個人的には全てのアニメでやってもらいたいくらいの良心的なサービスで、実際このキャンペーンはネット上で好意的に受け止められています。

申し込んだ人への商品の発送は2月下旬頃とのことなのでもう届いてると思います。
どれくらいの数の申し込みがあったかは今後も公表されないと思うので、この試みが上手くいったかどうかはメディアファクトリーの中の人のみぞ知るというところでしょう*8が、出来ることならば他のメーカーさんにも救済策として今後も検討してもらいたい取り組みだなと思いました。

RD潜脳調査室

テレビ画面を携帯で撮影してコンテンツを入手!

2008年に放送されたアニメ『RD潜脳調査室』はある画期的な試みが行われました。
 RD 潜脳調査室 - 画像認識連動企画!
 テレビ画面を携帯で撮影してコンテンツを入手!〜日本テレビ系注目アニメ『RD潜脳調査室』にて画像認識サービスPicLin(ぴくリン)を活用したモバイルコンテンツサービスを提供〜
簡単にいうと携帯電話のカメラでアニメを撮影し、メール送信すると様々な特典がもらえるというサービスです。この画像認識サービスPicLin、仕組みはよく分かりませんが凄いと思います。
しかし実は放送当時こういうサービスがあったことを全く知りませんでした……今回調べていて初めてそんなんあったんだ!と思ったほどです。
そんな宣伝不足気味だったこの企画、後にどうなったか。


「動画の一コマを認識する携帯との連動企画は地上波アニメとしては初の試み」と謳っていたものの、この企画はこれが最初で最後になってしまいます。少なくとも自分が調べた限りではこの後TVアニメとの連動は全く行われていません。それどころかPicLinのサイトそのものが消えています。
 http://www.piclin.jp/
どうしてこうなった……。ぴくリン……名前は可愛いのに……。

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桃華月憚

TVアニメ初の逆再生放送

2007年4月から放送開始した美少女ゲーム原作の『桃華月憚』、このアニメでは今までにない全く新しいギミックが仕込まれていました。
なんと全26話のストーリーを逆から放送したのです。
 TVアニメ史上初の試み! 「桃華月憚」がお贈りする“逆再生”のギミック
逆再生というと『ダークナイト』『インセプション』でお馴染み、クリストファー・ノーランが監督/脚本を務めた『メメント』が思い浮かぶ人もいると思います。

本来逆再生する手法はこういった映画などの短編でしばしば使われてきましたが、TVアニメでしかも2クールに渡ってやってしまったのは前代未聞のことでしょう。
ではこの手法、その後どう受け入れられたのか。


結論からいうと、数字だけを見るとあまり芳しくはありません。
 桃華月憚 - アニメDVD・BD売り上げまとめwiki
このアニメのDVDは単巻とBOXとで発売されたものの、上記のまとめwikiにはBOX分の売り上げしか集計されていないので正確な数値とはいえませんが、それにしても少ない……。
それもそのはずで、いきなり最終回から放送しても初回で意味不明だと、アニメが多く放送される昨今の状況では真っ先に視聴を切られてしまいます。当時の2chの反応Amazonのレビューを見ても逆再生を好意的に受け止めている人は多くありません。最後まで追いかけた視聴者がそれだけ少なかったということでしょう。
では何故リスクを負ってまでこんな構成にしたのか、というと山口祐司監督のインタビューでその一端が語られています。

「これは受け売りなんですが、ボクの......師匠というか先輩にあたる監督さんがいて、その方から教わったんです。"フォーマットに凝りなさい"って。だから、今回やってみたフォーマットは『ヤミ帽』のフォーマットとは違うはずなんですよね、組み方が。それはこだわりました。(後略)」

インタビューで触れている『ヤミと帽子と本の旅人』は時間軸をバラバラにした非常に複雑な構成のアニメでした。それを考えれば同じスタッフで挑んだ『桃華月憚』で逆再生というギミックに挑んだのは不思議ではなかったのかもしれません。
別のインタビューで監督と脚本の望月氏は「今後『逆再生』構成にしたアニメが出てきても、『桃華月憚』の真似になる」と語ったそうです*9。その言葉通り現在でも逆再生を行うTVアニメはこれ以降存在しないですし、2クール使ってまでやるアニメなんて恐らく今後も出てこないでしょう。

またこのアニメ、声優さんに脚本を書かせるというこれまた斬新なこともやっています。
 あの人気声優が脚本を!『桃華月憚』脚本家コメント!
実際に放送を見てみるとこれが殆ど違和感なくてびっくり。個人的には山本麻里安さんが担当した第22話「陰」という話のイジメ描写が凄かったのが印象に残っています*10

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プリンセスラバー!

限定版を越える限定版

アニメのDVDは通常版と限定版の二種類用意されることが多いです。しかしこのアニメ『プリンセスラバー!』では限定版を越える限定版が発売されました。
その名も「セレブエディション」。
 TVアニメ『プリンセスラバー!』 - DVD情報
登場人物の多くがセレブという設定にちなんで製作されたと思いますが、では特典は何かというと立体お風呂ポスター&お風呂CD(5巻と6巻は抱き枕カバー&添い寝CD)という非常に美少女アニメらしいものでした。実物の写真は以下で見られます。
 【コラム・ネタ・お知らせ】 プリンセスラバー!立体お風呂ポスター 使い方はあなた次第! - アキバBlog
これが全巻についてきます。凄い。映画などでは複数の限定版を用意することはしばしば見受けられますが、TVアニメになると2002年に発売された『ギャラクシーエンジェルA Limited スペシャル超限定版 1』くらいしか思い浮かびません*11
「TVアニメ」と限定したのは実はOVAでは既にあるからです。TVアニメ化もされた『ひぐらしのなく頃に』のOVA版『ひぐらしのなく頃に礼』では「コレクターズエディション」と「オヤシロエディション」の二種類がありましたし、OVA『テイルズ オブ シンフォニア THE ANIMATION』では「コレクターズ・エディション」と「エクスフィア・エディション」の二種類が、またOVA『ToHeart2 adplus』OVA『ToHeart2 adnext』でも二種類の限定版が製作されました(いずれもフロンティアワークス発売)。
しかしTVアニメでかつ全6巻全てに、となると『プリンセスラバー!』以外に存在しないのではないでしょうか。普通ならばどちらを購入するか選択するわけですが、どっちの特典も欲しい! という人には非常に悩ましい仕様といえるでしょう。
これには収集癖が凄いことで知られる脚本家の倉田英之氏をしてこう言わしめています。

「(前略)『百花繚乱サムライガールズ』なんかは、DVDとBlu-rayで特典が違う! 第1巻に同梱されてる枕カバーの絵柄が違うんです。もうムカついて、こんなにムカついたのは『プリンセスラバー!』以来だぞ、っていうくらい(笑)」

――【短期集中連載】脚本家・倉田英之 第一回

では肝心の売上はというと、なんと全ての巻でセレブエディションが従来の限定版であるコレクターズエディションの数字を上回っています。セレブ凄い。
 プリンセスラバー! - アニメDVD・BD売り上げまとめwiki
その甲斐あってかBlu-ray BOXの発売も決定。『Phantom』で紹介したようなDVD全巻購入者に半額で提供するといったキャンペーンはありませんが、セレブの皆さんならそれくらいの障壁も何とか乗り越えてくれるはずというメーカーの信頼があるのかもしれません。

黒神 The Animation

史上初の日米韓同時テレビ放送


現在では珍しくなくなったTVアニメの日米同時配信。ちょっと遡ってみても2005年にプロダクションI.Gカートゥーンネットワークが共同制作した『IGPX』なんかはほぼ同時期に放送されていました*12し、海外の動画共有サイトの一つであるクランチロールを覗いてみても現在日本で放送中のアニメが合法的に配信されています。
2009年1月から開始したこの『黒神 The Animation』では原作者が韓国人作家ということもあってか、TVアニメ史上初めて日米韓での放送が決定し、しかも米韓は吹き替えで放送日も日本での放送直後ということで話題になりました。

しかし公式サイトで大々的に発表はされたものの、その後はどうなったのか? となるとそこまで追いかけている人はあまりいないのではないでしょうか。

その後どうなったか

まず国内で2009年5月26日から販売が予定されていたBlu-ray通常版の発売が中止というアナウンスが出ます。
 「黒神 The Animation」のBlu-ray通常版が発売中止 -AV Watch
これについてはまだ発売前だったので売り上げがどうこうという話ではないと思いますが、受注が思ったより少なかったのかとにかく方針転換せざるを得ない事情ができてしまったのでしょう。結果的に通常のDVD版とマニア向けのBlu-ray限定版、このニ種類が発売されることになりました……が、実際に発売されて上がってきた数字は成功したとは言い難いものでした。
 黒神 The Animation - アニメDVD・BD売り上げまとめwiki
また2009年6月にキャストと行く韓国ツアーも予定されていましたが中止になっています。
 今日もやられやく 『黒神』韓国ツアー、参加者が最少催行人数に達しなかった為中止になった模様


次はアメリカでの動きです。こちらも日本と同時期にDVD/BDの発売が予定されていたものの中止に。
ところが2009年11月10日になって改めてリリースの詳細が発表されます。
 ULTIMO SPALPEEN: アメリカ版「黒神 The Animation」ブルーレイには、英語音声しか収録されない問題について
しかし権利関係から日本語・韓国語音声は収録されないという仕様でまたこれがちょっとした話題になります。
というように素人目にもどうしてこうなった……と思ってしまうゴタゴタぶりです。
そもそも「黒神 The Animation 3ヶ国ロゴデザイン決定!!」と言われても国内の視聴者からすれば知ったこっちゃないでしょうし、むしろ地方民的にはこっちで放送してくれよ!という思いもあったのではないかと思われます。


そんなチグハグ感が否めなかった『黒神 The Animation』。では何ももたらさなかったのかというとそれは違うと思います。
同時期に同じグループのバンダイ*13『たまごっち』の7ヶ国語無料配信開始を行い、海外ビジネスを積極的に展開させていく様子が伺えますが、翌年には主力であるガンダムシリーズの世界10ヶ国語配信を目指すと発表が出ます。そこには『黒神 The Animation』の海外展開で培われた経験が少なからず活かされていたのではないでしょうか。いや自分の想像でしかありませんが。
こうした試みが後々の機動戦士ガンダムUCの世界戦略に繋がっていったと思えば、決して無駄なことではなかったんじゃないかなと思います。
むしろ課題が残るのは違法配信のほうかもしれません。海外でアニメとなるとどうしてもファンサブの問題になりますが、日米同時配信が当たり前になっても依然として権利者にとっては頭の痛い問題としてついて回ります。

黒神 The Animation』で行われた同時配信(放送)にはそういったファンサブを抑制する可能性を秘めていましたが、この辺に関してはやはり地道に対策を取るなり、あるいは全く新しい発想*14で立ち向かわなければいけないのかもなぁと思いました。

オネアミスレーベル

米国での高付加価値アニメDVD戦略

上の『黒神 The Animation』では日米韓同時テレビ放送という海外展開について触れましたが、それ以前からも海外でのDVD販売戦略に関しては様々な検討が試みられています。
2005年、バンダイビジュアルは米国でマニア向けに様々な特典を同梱した高額DVDのリリースを発表します。
 バンダイビジュアル、米国で高付加価値アニメDVD戦略を展開
レーベル第一弾として選ばれたのは劇場版『機動警察パトレイバー』。特典ディスクや絵コンテ、解説書が付属したとはいえ価格は89.99ドルと従来の2〜3倍もするものでした(通常版は29.98ドル)。
海外のDVDは日本に比べ非常に安価と認識されていますが、このオネアミスレーベルではそれに一石を投じるものになりました。
アメリカへの高付加価値DVDの販売モデルは、バンダイビジュアルにとってはハイリスク・ハイリターン」とまで書かれたこの試みはその後どうなったのか。


と思い北米での売上記録を探してみましたが、このパトレイバーの売り上げが分からない……。
仕方ないのでバンダイビジュアルの資料を漁ってみます。すると具体的な数字がありました。
 バンダイビジュアル 2006年2月期決算説明会(PDF)

2006年4月25日の発売を前にした決算説明会資料では限定版と通常版合わせて2万個の受注と明記されています。
これをそのまま受け取ったとしても受注分が全て売り切れるわけではないので、大体1万数千個が売れたと仮定します。
でもこれって米国市場だとどれくらいの規模なのか? ピンと来ません。
これまた仕方ないのでJETROの調査レポートを漁っていたところ、幸いにも同じ時期に「米国アニメ市場の実態と展望」調査が行われていました。
 米国アニメ市場の実態と展望(輸出促進調査シリーズ)2006年3月 - 北米 - ジェトロ
この中の「日本製アニメホームビデオ市場の動向」という項目では、日本製アニメDVDの2005年の年間販売枚数は1206万枚で、新作タイトル数は850タイトルとあります。
単純に割ってみると1タイトルあたりの平均販売枚数は14357枚。むむ、割と近い数字が出ました。つまりパトレイバーは初動で平均程度は売れたのではないか、と推測できます。
パトレイバーの場合は豪華限定版を含むので売上金額的には他のアニメと比べると変わってくると思いますし、そもそも通常版との内訳がわかりません。なのでこれで成功だったかどうかはバンダイビジュアルの中の人にしか分からないですが、数字だけを見るとまずまずの出足だったのではないかなと思います。


その後バンダイビジュアルは国内でも次世代DVD用に、レーベル名をエモーションからオネアミスに変更。米国では2007年、BANDAI VISUAL USAがBANDAI ENTERTAINMENT(BEI)と統合し、オネアミスレーベルはBEIに受け継がれます。
 バンダイビジュアルの米国子会社がBEIと統合
2009年には満を持してBD版『AKIRA』を発売し、出荷数が北米で2万枚を記録。急遽追加生産を行い、販売予測を5万枚に上方修正するというニュースにもなりました。
 BD版「AKIRA」が北米で累計出荷数3万枚を突破へ -AV Watch
ちなみに『AKIRA』は49.98ドル。あれ、高額じゃなくね? と思われるかもしれませんが、米国ではBD-BOXが50ドル程で買えてしまうので十分高額といえるのではないかなと。
 北米版『プラネテス』DVD-BOXは$50以下 : ARTIFACT ―人工事実―
 海兄 : アメリカ人「らき☆すたBlu-ray Boxたけえwwwwww」「日本人はこれ買ってるのかよ」
しかしそもそも『AKIRA』はアニメファン以外の一般層からも支持がある日本を代表するタイトル。他にウン万枚も売り上げるタイトルは滅多に無いと思います。
AskJohnでお馴染みジョンも、「オネアミス」レーベルについて以下のような印象を述べています。

バンダイビジュアル社の「オネアミス」レーベルもぱっとしなかった口で、あそこから発売された『新SOS大東京探検隊』は「オネアミス」レーベルで断トツのマイナー商品になっています。あの映画じたいがあまり有名でないうえに、長さが40分、さらに小売価格が55ドルと悪条件ぞろいだったのです。

――ジョンが選ぶ米国でレア度ナンバーワンのANIMEのDVDは?(その4): AskJohnふぁんくらぶ

このことからも有名なタイトルならいざしらずニッチなタイトルでは苦戦を強いられていたことが想像できます。
ではマニア向けアニメで高付加価値路線は現実的ではないのか?


その鍵は『化物語』のアニプレックスが握っていました。
アニプレは米国において日本とほぼ同価格で『空の境界Blu-ray BOXの発売を決めます。
 海兄 : 北米版「空の境界」に見る新たなアニメビジネスモデル 高価格・豪華特典・日米(ほぼ)同時発売
価格は598.98ドル、下手したら通常のBD-BOXが10個以上買えてしまう計算です。はたしてそんな価格で買う人間が米国に存在するのか?
実は米国での発売前にサンフランシスコで記念イベントが行われたそうですが、なんとそこで持ち込んだBD-BOXが完売したそうです。
 「空の境界」in サンフランシスコ当日(2月6日)
 海兄 : 北米版 空の境界 売れてるみたいでよかったね
 Togetter - 「アメリカの「空の境界」上映イベントでブルーレイBOXの持ち込み販売分が完売!」
まぁ実際に用意された数は10セット、加えてイベント限定価格の398.98ドルだったそうですが、それでも完売するのは凄い。その後も通販サイトで売れているということなので、マニア向けアニメでも高付加価値路線は決して非現実的では無いと言えるのではないでしょうか。
オネアミスレーベルのその後からやや話がずれてしまいましたが、米国での販売戦略もまだまだ再考する余地はあるのかもしれないなと思いました。
しかし5万する「空の境界」BD-BOXが2万5000セットも売れる日本はつくづく凄いと感じます。

【関連】
北米アニメ映像ビジネス 明暗分けた「AKIRA」と「らき☆すた」

まとめ

今回は何かしら新しいことをやってみたアニメを取り上げてみました。
目新しいことをとにかくやれば売れるなんてことはありえませんが、少しでも売上に結びつくように苦心されているメーカーさんの取り組みが垣間見えました。それがいい結果に結びつくかどうかは出てみないと分からないのが難しいところですが、しかしそういった分析を積み重ねた結果に『化物語』のヒットがあったのかもしれないな、と思いました。
すいません、次はもっと短いエントリにします……。


【関連】

ながいながいペンギンの話 (新・名作の愛蔵版)
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*1:ふたばでも「恒例の秋葉のブキヤの行列も今回はなかったな マクロスとなのはが異常なだけか」というレスが見られる。

*2:2010年1月〜12月まで放送。

*3:ちなみに『フィギュア17』と『Project BLUE 地球SOS』は地上波放送の際、30分枠に合わせて一時間の話が前後編に分割されている。

*4:『刀語』シリーズ合計で200万冊を売り上げる - 主にライトノベルを読むよ^0^/

*5:化物語、上下17冊53万部 - REVの雑記::Group::Lightnovel - LightNovel Group

*6:【刀語】大河饅頭 十二箇所巡 | 月寒あんぱんオンラインショップ

*7:アメリカの調査会社の推測値で2008年で15%の普及率

*8:ちなみにアニメDVD・BD売り上げまとめwikiの数字から平均を取ると、DVDの売り上げは1巻あたり約1700本。

*9:Wikipedia参照

*10:山本麻里安はその後ドラマCD版の脚本や、構成を務めていた望月氏が監督の『ポルフィの長い旅』でも脚本を書いている。

*11:しかもこの超限定版は『ギャラクシーエンジェルA』第1巻にしか存在しない。

*12:といっても1クール分のスパンはありましたが。

*13:黒神 The Animation』はバンダイビジュアル製作。

*14:あえて言おう!ファンサブ(海賊版アニメ)に「正規ライセンス」を与えるべきであると! - 日経トレンディネット