ダークナイト ラミレス問題
「ダークナイト」公開から2年*1。クリストファー・ノーランの新作も無事ヒット。というわけで記念に以前に書いた記事を再録。「ラミレス問題」と題して「ダークナイト」の字幕問題について。僕の中では本格的に検証した記事で結構自信作です。ちなみにラミレス刑事はこの人。
〈初出2008/12/16〉
女刑事ラミレスは主要人物以外では唯一先行する「ゴッサムナイト」から「ダークナイト」にも登場する人物である*2。
「ゴッサムナイト」ではゴードンの信頼の置ける部下でバットマンにも一定の理解を示す人物として描かれている。心の強いヒスパニック系(アニメでは微妙だが)の女性で、原作ではレニー・モントーヤという優秀な女性刑事に相当する。
実は「ゴッサムナイト」を観た時、なぜわざわざモントーヤを出さずオリジナルのキャラにしたのか疑問だった。
が、それは「ダークナイト」を観て氷解した。
「ダークナイト」のラミレスは前半こそゴードンの部下として活躍するが、実はマローニのスパイだったことが判明する。レイチェルの拉致を誘導し結果として爆死においこんだキャラなのだ。
そりゃあ、原作のモントーヤは使えないよね。さて、そのラミレスだが日本語字幕と原語で扱いが異なる。これは誤訳というより、意図的なものだと思うので少し検証してみよう。
ラミレスの初登場シーン、ゴードンとの会話。ここでゴードンはラミレスのことをラミレスとは呼ばず、ただ「detective」と呼ぶ。刑事とか警部とかいったところだろうか。日本語字幕ではゴードンが「ラミレス」と呼びかけている。
既にここで病気の母親のことが述べられているが、初回観賞時は気付かなかった。二回目に観て「ここに伏線が!」と脚本のうまさに感服したしだい。
次にデント、ゴードン、バットマンが警察の屋上、バットシグナルの前に集まるシーン。デントはゴードンに対して ワーツ、ラミレスを悪徳警官として挙げている。ここで原語では初めてラミレスの名が登場する。日本語字幕ではワーツのみ字幕に登場し、ラミレスは出てこない。
そして、ジョーカーの病院爆破宣言の後、リース君を保護するゴードンのもとにバットマンから家族が入院している警官のリストがメールで届くシーン。ゴードンの携帯の画面には「Ramirez,Berg」と表示。字幕は「R・バーグ」。まるで1人の人物のように表示されているがこれはラミレスとバーグという二人の人物のことだ。字幕では意図的にラミレスを隠蔽しようとしている。普通に翻訳したらこんなミスは起こさないはずだ。
デントがマローニの車に乗り込み、スパイが誰かを聞き出すシーン。
マローニは「ラミレス」とだけ答える。日本語字幕では「女刑事のラミレス」。日本語字幕ではここで観客はあのラミレスがスパイだったのかと気付く。
しかし、原語版ではもう少し引っ張る。何しろこの時点ではラミレスが一体誰か、まだ分からないのである。
そして、ゴードンの奥さんにラミレスから電話がかかってくるシーン。ここで初めてラミレスが冒頭から登場していた女性刑事であったことを知るのである。
以上のように大筋に影響は無いものの、日本語字幕と原語ではラミレスに対する扱いが大きく違う。原語では悪徳警官としてラミレスの名を挙げるものの一体誰なのかは直前まで明かさない。ちょっとしたフー・ダニッドもののミステリーになっている。
「ゴッサムナイト」を先に観ていれば彼女がラミレスなんだろうな、というのは想像がつくだろうし*3、ワーツがデントを送る際のラミレスの微妙な表情からその後の事を読み取ることも出来るが、何故、「R・バーグ」などという酷い誤訳までして原語版と変えなければいけなかったのかは非常に疑問だ。
他にはジョーカーとデントの病院でのシーンで「It's fair」を「fear」と間違えて「恐怖」と訳しているシーンもある。正解は「公平」。これは単なる誤訳かもしれないが(ソフトでも直ってないし、吹き替えでも「恐怖」といってるので意図的っぽいが)、ラミレス関連のシーンはどう観ても意図的だろう。もしも完全版とかが出るなら直して欲しいと思う。買うから(こうして搾取されるわけですな)。
ちなみに最近発売された数少ない日本語で読める「ダークナイト」書籍の一つ「ダークナイト (名作映画完全セリフ集スクリーンプレイ・シリーズ)」ではきちんと「Fair」が「フェア」となってます。さすがに脚本形式なのでラミレスは最初から分かるようになってますけど。
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