民泊サービス「Airbnb」が人種問題に悩まされている。米国のあるアフリカ系の利用者が、Airbnbで予約した部屋をキャンセルされただけでなく、その際にホスト(部屋の貸し手)からひどい差別的中傷を受けたのだ。

 このアフリカ系利用者は、米イリノイ州のノースウェスタン大学のビジネススクールで学ぶ女子留学生だ。2016年5月31日、そのホストが送ってきたメッセージ画面のキャプチャーを、被害に遭った学生の友人がTwitterに投稿して、事件が明らかになった。

 そのホストは黒人に対する蔑称を使って、次のようなメッセージを数時間、あるいは数分おきに発していた。「俺は○○○(黒人に対する蔑称)が嫌いだ。だからキャンセルしてやる」「うちは南部の素敵な家なんだ」「どこかほかの場所を探すがいい」。

 このツイートを運営元の米Airbnbが見つけ、すぐに直接に投稿者とやり取りして予約を特定。そのホストによるAirbnbの利用を禁止にしたという。Twitterにはその後「吐きたくなるような話だ」「そのホストの身元を明らかにしろ」などさまざまなユーザーからコメントが送られている。ノースウェスタン大学ビジネススクールの副学長も、「こちらでできることがあれば、知らせなさい」とコメントしている。

 被害に遭った女子学生の別のクラスメートは、さらに詳しく進行状況を伝えている。そこにはこのホストの名前や電話番号、ホストが発したコメントがさらに長くキャプチャーされている。よくこれだけひどいことが言えるものだと思うほど、限りなく差別的な表現が続く。自分の発言が世界に向かって明らかにされるとは想像もつかなかったのだろう。

Airbnbで横行する人種差別

 ただ、ほかのアフリカ系アメリカ人のユーザーたちは「そんなこともあるだろうと思った」「白人には分からないこと」「この夏にAirbnbを利用する予定だったけれど、やめる」といった声をTwitterで上げている。彼らにはある種の警戒心があるわけだ。こうした状況は、黄色人種の日本人にもある程度は通じるものと考えてもいいと思う。

 実際、Airbnbの利用者とホスト間における人種差別問題はかなり起こっているようだ。ユーザーの顔写真でアフリカ系アメリカ人だと分かったり、あるいは典型的なアフリカ系の名前だと分かったりすると、空き室となっているのに「予約で一杯になった」と告げられる例がよくあるらしい。ハーバード大学はこの件について既に調査を発表しており、アフリカ系アメリカ人を想起させる名前であるとAirbnbで予約できる率が白人に比べて16%下がることが分かったという。

 「シェアリングエコノミー」とはいかにも理想郷的な呼び方だが、実際には多くの人々が利用するようになって現実社会とますます類似するようになっている。心の広い人や人種差別的な意識を持たない人もいれば、差別心を隠している人、あるいはこのホストのように機会があればあからさまにヘイト感情を相手にぶつける人もいる。

 あからさまな人種差別ではなくても、Airbnbのホストがユーザーによって予約を断るケースは、よく起こっているようだ。実際に自宅をAirbnbで貸している知人は、「何となくトラブルを起こしそうな人」が予約してくると、別の予約が入ったと言って断ることがあると言っていた。

 日本のホテルや旅館は法律(旅館業法)によって、宿泊拒否が厳しく制限されている。しかしAirbnbの場合、何と言っても貸すのは個人の持ち家だ。ことに同じ家にホストも住んでいる場合なら、安全を第一に考える気持ちは分からないではない。

差別のないプラットフォームを

 先のハーバード大学の調査では、差別のないプラットフォームをデザインする方法があるとしている。一つは、予約者が実名ではなくユーザーネームで申し込みができるようにすること。もうひとつは、既にAirbnbにある「インスタント予約」を拡大すること。これは、予約者のプロフィールが詳しく分からないままに予約が完了できる機能だ。

 おかしなホストから、利用者を保護する仕組みも必要だろう。いくらプラットフォームの工夫があっても、差別に関するユーザーの懸念は決してゼロにはならないからだ。、今回中傷を浴びせられた女子学生は、この段階で相手の実態が分かって良かったとも述べている。もし、何も知らないで泊まりにいったら、もっと危険な目にあっていたかもしれないからだ。

 Airbnbの例ではないが、以前レズビアンの女性に話を聞いた時、旅行する際にはかなり注意してホテル選びをすると言っていた。彼女にはパートナーと子供を含めた家族があり、身の安全のためにLGBTフレンドリーだと分かっているホテルにしか泊まらないという。残念ながら現状のAirbnbでは、利用者側が同様の自衛策を採るしか無い。

 Airbnbは、もともと「誰もがそこに属しているという感覚を持てるような世界を作りたい」という大きなビジョンを持って創設されているのだが、実態は必ずしもそうはなっていない。それが改めて明らかになった。

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