【6月28日 AFP】福島第1原子力発電所の事故を受けてロシア政府が実施した調査によると、ロシアの原発は、地震などへの災害対策が危険なほど不十分な状態にある。AFPが23日、同報告書を入手した。

 ロシア政府はこれまで、同国の原子力発電所10か所、原子炉32基を断固とした態度で批判から守ってきた。4月30日にはウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)首相が、ロシアの原発の安全システムは「世界最高だ」と豪語していた。

 しかし、今回の政府による調査では、災害対策基準が緩和されていたことや、多くの原発で使用済み核燃料や放射性廃棄物の扱いに関する明確な方針がないことなど、30件以上のぜい弱性が暴露された。報告書は「大半の原発の構造工学的な強度は、極度の自然災害によって生じる負荷についての現在の規制基準を満たしていない」と指摘している。

 この旧ソ連の時代の欠陥を初めて認めた異例の報告書は、ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)大統領が議長を務める委員会に9日に提出された。当初は露政府高官と国内の一部の非政府機関にのみ公開され、露国営メディアでは報じられなかったが、ノルウェーを拠点とする国際環境NGOベローナ(Bellona)がウェブサイトで発表し、これまで長年にわたって欠陥を指摘し続けてきたロシアやノルウェーの環境活動家らが賛辞を表明した。AFPでは、2つの情報源からこの資料を入手した。

■異例の「正直な情報」、当局は否定

 ロシア国営原子力企業ロスアトム(Rosatom)のセルゲイ・キリエンコ(Sergei Kiriyenko)総裁は前週末、原発の安全性に関する最近の改善勧告に言及し、様々な改善を行えば50億ルーブル(142億円)ほどの費用がかかると述べた。

 しかし、ロスアトム広報担当のセルゲイ・ノビコフ(Sergei Novikov)氏は、ロシアの原発の安全対策レベルは「十分すぎるほど」だと主張し、出回っている報告書は6月9日に提出されたものとは別のものだと怒りを露わにした。ノビコフ氏は電話取材に対し「我々はこれを公式の報告書とはみなしていない。これは委員会で検討された報告書ではない」と語った。関係筋によると、原発の安全対策についての評価部分は、ロスアトムではなく別の政府機関が作成したという情報もある。

 ベローナのロシア原子力計画担当ディレクター、イゴール・クドリック(Igor Kudrik)氏は、AFPの取材に「すべて我々が知っていたことではあるが、ロスアトムが自ら、問題があるという正直な情報を提供した。このようにあまりにも素直にそれを公に認めたことには、われわれもある意味驚いている」と語った。

■廃棄物処理から災害対策まで、原発全般で不備

 報告書は、いくつかの原発の危険性を具体的に指摘すると同時に、ロシアの原発政策全般に関するぜい弱性も明らかにした。

 報告書は「複数の新たな原発で、放射性廃棄物の処理に関する一貫した科学的・技術的な方針が欠如している」と述べ、安全検査官も不足していると指摘した。

 ロシア第2の都市サンクトペテルブルク(Saint Petersburg)に近いレニングラード(Leningrad)原発と、ウクライナ国境に近いクルスク(Kursk)原発は名指しで批判されている。これらの2施設では、放射性固体廃棄物の保管施設がすでに85%以上使用されており、容量に達した後の操業方針を明確化しなければならないという。さらに報告書は「現在どの原発にも、液体の放射性廃棄物を扱う設備が十分に無い」ことも指摘している。

 また、外部電源喪失時の非常用電源も欠如しているという。これは福島第1原発の事故で大きな問題となった点だ。さらに放射能漏れが発生した際の作業員の防護対策も不十分だった。

 ベローナのクドリック氏は、この報告書により、ロシア政府が地震や竜巻、暴風雨などの災害に対する原発の対策試験をこれまで一度も実施していなかったことが確認されたと語る。「この報告書で最も重要な点は、どの原発施設でも起こりうる災害に対する試験を行っていなかったことだ。地震だけでなく、強風などを含んだ自然災害に対してだ」

 ノルウェーなど周辺国は、露北西部ムルマンスク(Murmansk)州のコラ(Kola)原発に対して特に懸念している。同原発は1992年、暴風雨による停電で小規模の漏えい事故が起こったため緊急停止する事態が発生した。クドリック氏によれば、この事故時のコラ原発は「あわやメルトダウン」の状態だった。(c)AFP/Dmitry Zaks