Destroy All Monsters!!  『悪魔を見た』

チェ・ミンシクって、元ジョーダンズの三又又三に似てるね。それに石橋凌を混ぜた感じ。(以降、ネタバレあります)

婚約者を残忍な連続殺人犯ギョンチョル(チェ・ミンシク)に惨殺された国家情報院捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)が、復讐鬼となって極秘捜査でギョンチョルを追いつめて行き、婚約者が受けた以上の苦しみをギョンチョルに強要させてようとしていく…。



『グッド・バッド・ウィアード』の印象も記憶に新しいキム・ジウン監督の最新作。レディースデイだった所為もあってか、イ・ビョンホン目当てと思わしき年配の奥様方も多く見受けられました。御夫婦で来られてた御婦人は鑑賞後に「もう、残酷だわ…」と旦那さんに愚痴を漏らしていた。そうですよねー。残酷ですよねー。いや、そこがいいんじゃないっすか!!いやもう今作は、鬼才キム・ギドク監督の狂気の世界、パク・チャヌク監督の復讐三部作、一連のポン・ジュノ監督作品、近年でもデビュー作で強烈なインパクトを残したナ・ホンジン監督の『チェイサー』等、数え切れない程に生み出された数多の韓国製血塗れ残虐映画。その総まとめ、集大成とも言える『殺人鬼総進撃』『オールサイコパス大進撃』といった趣の、イカれた奴らが大集合!の豪華なお祭り映画でした。
メインはチェ・ミンシク演じる連続強姦殺人犯ギョンチョルと、彼に婚約者を惨殺されたビョン様演じる国家捜査官スヒョンの対決なんですが、その合間にも、ギョンチョルが逃走中に乗ったタクシーの運転手と相乗り客は実は強盗犯で、ギョンチョルと車内で対決するとか、その後ギョンチョルが過去の殺人鬼仲間達のアジト(多分、金持ちの別荘か何かを乗っ取った模様)に逃げ込み、そこで追跡してきたスヒョンと1対3の戦いを見せるとか、かなり豪華な殺人鬼バトルが堪能できます。そこに出てくる殺人鬼仲間も個性的で、大柄な男は肉屋さんみたいな格好しながら生肉(劇中に言及はないが、おそらく人肉)を喰らってて、それが屋敷の不穏さと相まってレザーフェイスか『ホステル』かって言う感じの気持ちの悪さ。そいつと行動を共にする愛人女性も美しく妖艶なんだが、何処か何を考えてるか判らない禍々しさ。この気違い屋敷のシークエンスが、この映画の「サイコ祭り」感を増幅させてます。
いきなり脇役の話から始めてしまいましたが、勿論、メイン怪獣もといメイン悪魔のギョンチョルも存在感ばっちりで、『オールドボーイ』では怒りの復讐鬼でしたが、今作で彼を殺人の衝動に突き動かすのは、怒りでも悲しみでも無い。ただの快楽殺人犯。まさに最高の悪魔っぷりでした。しかし、おそらく彼がそのようになったのも何らかの理由はあったとは思います。途中でスヒョンがギョンチョルの行方の手掛かりを求めて、彼の実家を訪ねるのですが、そこには、ごく普通の老いた両親と中学生くらいの孫、つまりギョンチョルの子供がいます。鬼畜のギョンチョルも妻子がいた時期があったのでしょう。そこで母親がスヒョンに見せた昔の彼の写真は笑顔でポーズを決めているごく普通の男性。そして現在の彼の顔写真を見た母親は「こんな怖い顔になって…」と悲嘆の声を漏らします。悪魔が人間であった頃の手掛かりを辿れる唯一のシーンなのですが、彼が殺人鬼に変貌するに至る心理的な変化が判るような、具体的な理由は明示されません。だからこそ底知れぬ恐ろしさがあります。おそらくギョンチョルも(その萌芽はあったとして)生まれついての殺人鬼では無かったのでしょう。きっと長い人生の中で徐々に悪魔に変貌を遂げたではないかと思います。かすり傷がジグジグと蝕むように。小さな炎がジワジワと燃やすように。
対するスヒョンも、かなりの残忍っぷりで、仇敵のギョンチョルを捕らえては拷問して逃がし、拷問して逃がしと、復讐鵜飼い人みたいな執拗な行為は、常人の沙汰ではありません。公式サイトでも引用されている、哲学者ニーチェの「善悪の彼岸」に「怪物と闘う者は自らが怪物と化さぬように心せよ。お前が深淵を覗き込む時、深淵もまたお前を覗き込んでいるのだ」という一節があるのですが、まあ簡単に言うと「ミイラ取りがミイラになる」って事ですね。狩りの如く報復を繰り返す彼も、復讐の業火で一気に悪魔と化してしまったのでしょう。ちなみにウィキレベルの情報なんですが、「深淵」という言葉には、水の深く淀んだ場所という意味以外にも、悪魔学においては「進化の終着点」を意味し、即ち人間の行き着く最後の未来を意味しているそうです。
ただ、設定の甘い部分も多々あって、「いや、さすがに警察無能すぎない?」とか「根本的にビョン様つよすぎじゃね?」とか御都合主義だなとは思うのだが、「まあ、お祭り映画だしねー」と割り切って観てました。先程言った復讐鵜飼い人みたいな回りくどい行為をするのも「お祭り映画なんだから直接対決は最低3回はしないと!」という製作者サイドのサービス精神の表れなんでしょう(そうか?)
今作は最初に言ったように、韓国残酷映画の総まとめだと思ったのですが、これはキム・ジウン監督だからこそ出来たのではないかと思います。
監督のフィルモグラフィーを見ると、デビュー作『クワイエット・ファミリー』はドタバタブラックコメディ、プロレスを題材とした『反則王』は正調コメディ、『箪笥』は心霊ホラー、近作の『グッド・バッド・ウィアード』は韓国風王道ウエスタン、俺は未見ですが『甘い人生』ってのはビョン様主演のサスペンス・ラブストーリーと多ジャンルに富んでおり、個人的な印象としては「手堅い作品を撮れる監督」というイメージです。きっと監督は錚々たる過去作の残酷描写を踏まえつつ、自身の確実な演出で今作を撮りあげたのではないでしょうか。だからこそ成人指定を受けるような凄惨で猥雑な描写をしながらも、キッチリした娯楽映画として纏め上げる事が出来たのではないかと思います。
ただそれは、先程例に出した先人達と比べるとクセが無い、悪く言えば個性的では無いとも受け取れます。場面に依っては面白いながらも既視感があったりもしました。そういう意味でも「集大成のお祭り映画」という感想です。
しかし、云わば職人的とも思われる監督ですら、こんな残酷映画を撮ってしまうという韓国映画の土壌は正直羨ましく思います。先日『冷たい熱帯魚』を鑑賞した際に「ようやく韓国映画に対抗できるものが出来た!」と感嘆の声を上げたのですが、韓国では『悪魔を見た』は公開から僅か10日足らずで100万人近くの動員数を叩き出したそうです。正直、大違いです。園監督が「異端」と言われてるようじゃダメなんでしょう。シネコンにも掛けれるような「王道」の血塗れ映画が日本で製作される未来は訪れるのでしょうか。







あとは超どうでもいい部分を箇条書き。


・被害者女性の父親役にチョン・グックァン(『義兄弟』の“影さん”でお馴染み!)が出演していて、ずっと「いつ悪魔に変身して、ミンシクとビョン様をぶち殺すのか?」とドキドキしながら観ていた。

・殺人鬼仲間の気違い悪女キム・インソ。俺は彼女を最初『渇き』のキム・オクビンだと勘違いして「おー、豪華!」とか思ってたが、後で写真をみてみたら全然違う人だった。俺の識別能力なんてその程度ですよ。

・上映始めにチェ・ミンシクは、登場してすぐに判別できたのだが、イ・ビョンホンの顔を理解していなく、「うーん、これがビョン様なのかな?あっ、河原まで来て泣いてるし、こいつに間違いない!」と察した。俺の識別能力なんて・・・。

・俺は血塗れ・残酷・暴力描写は結構慣れてるのだが、その逆にウンコやゲロの描写は滅法苦手。だから例の下剤を飲んで云々のシーンは思わず視線を逸らした。

・ギョンチョルの前にスヒョンが当たった別の容疑者が見ていたエロ動画は日本製だった。血塗れ暴力映画では韓国に負けてるけど、エロでは負けてない!!