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無知の知を意味する「知的謙虚さ」の欠如が多くの問題を引き起こしているという指摘


「間違いは起こるものだ」「自分の知識は限られている」ということを冷静かつオープンに受け入れる、「知的謙虚さ(intellectual humility)」という概念が近年の心理学分野で注目を浴びています。知的謙虚さを持つ人と対極にあるのが自信を持ち決断力のあるサイコパスやナルシストといえますが、現代は知的謙虚さが軽んじられ、ナルシスト的性質が好まれることで社会的にも政治的にも多くの問題が発生していると、ノックス大学心理学教授のFrank T. McAndrew氏が指摘しています。

Could a lack of humility be at the root of what ails America?
https://theconversation.com/could-a-lack-of-humility-be-at-the-root-of-what-ails-america-116118

2017に出版されベストセラーとなった「専門知は、もういらないのか」という本では、民主主義に不可欠な「正しい知識に基づく熟議」を支えるのは各分野の専門家が蓄積してきた知識であるにも関わらず、現代では専門知が軽視されているという状況に警鐘が鳴らされました。著者であるUSネイバル・ウォー大学教授のトム・ニコルズ氏は、本の中で以下のように記しています。


「世の中には高齢者と若者が存在し、裕福な人もいれば貧しい人もおり、教育を受けた人、図書カードやノートPCを持つ人もいますが、彼らに共通しているのは『自分が多くの知識を持つと信じる普通の人である』ということです。彼らは自分が専門家よりも多くの知識を持ち、大学教授よりも幅広い物事を知っており、だまされやすい一般大衆よりも洞察力を持つと確信しています」

このような人々には「知的謙虚」が欠如しているとニコルズ氏は指摘しています。近年、人格心理学の分野では、この知的謙虚という考えが注目を浴びており、複数の研究が人間関係や世界観、知識において、知的謙虚さが大きな影響を及ぼすと見られています。


知的謙虚が注目されるようになったのは、心理学者のキャメロン・ホップキン氏の研究や、ステーシー・マッケルロイ・ヘルトゼル氏の研究に端を発します。2人の研究者は知的謙虚を「個人的な宗教的信念を探求し、毎日の生活における人々の宗教的違いを管理する方法」だと考えていました。

2人の研究者が知的謙虚を宗教的な事柄との関係で見ていたのに対し、デューク大学のマーク・リアリー氏は、知的謙虚が政治的・社会的問題と潜在的に関わっていると見なし、知的謙虚さの度合によって「人が同意されなかったときにどのような反応を示すか」を予測できるとする研究を発表しました


リアリー氏は、知的謙虚さが高い人は、知的謙虚さが低い人と異なる方法で情報を処理することを発見しました。知的謙虚のスコアが高い人はあいまいさに対して忍耐強く、問題に対する答えが1つではない、あるいは決定的ではないと考えています。また知的謙虚のスコアが高い人は反対意見に対して「証拠」を求め、議論においては両サイドの立場に立ったバランスの取れた状態を好むとのこと。

ただし、知的謙虚のスコアが高い人はそう多くありません。リアリー氏が実験で「過去6カ月間にあなたが同意されなかった時のことを考えてください。そのうち『自分が正しい』と思ったのは何%ですか?」と質問を行ったところ、回答の平均は66%でした。また50%以下だと考える人は、ほとんどいなかったそうです。

近年はソーシャルメディアの登場で、考えを同じくする人を見つけることが容易になり、エコーチェンバー現象によって「自分は正しい」と感じやすい環境が生まれやすくなりました。またテレビやインターネットで日常的に自分の意見が肯定されることで、「自分は賢いのだ」と思ってしまいがちだと指摘されています。専門家への敬意がない状態で、このように自分の意見を肯定され続けることは特に「有毒」だとのこと。

リアリー氏によると、宗教や政党の選択結果は知的謙虚さの度合とは相関関係にないそうですが、2017年の研究では有権者の多くが「自分に自信があり、問題への見方を変えない」という、いわゆる「知的謙虚さがない」人をリーダーとして好むことが示されています。皮肉にも、2018年の研究で知的謙虚さの高い人は一般知識をより理解し、同時に知的才能を自慢する可能性が「低い」ことが示されています。このような人は証拠を慎重に比較検討するため結論を出すまでに時間がかかり、「直感で判断するタイプ」に比べて優柔不断とみられる可能性があるとのこと。


また知的謙虚さが高いリーダーは、異を唱える人がなぜ反対しているのかという理由に興味を持ちます。政治家の場合、このような人は「妥協するタイプ」と見なされがちだそうです。党への忠誠が求められる時代においては、これは弱点となります。

ニューヨーク・タイムズのジェレミー・ピーターズ氏は、現代において「敵の立場を理解することは、忘れ去られた技術だ」と指摘します。知的謙虚の欠如は明らかに近年における人々の言説を妨げており、その要因となる現代の「好みの情報だけ取り入れて、その正誤を顧みない」という風潮そのものに警鐘が鳴らされています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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