プロが教える”必撮”写真術

あの”人気雑誌”っぽいグラビア写真! 撮影現場でプロの技を盗め【後編】

前回に引き続き、銀塩時代から活動するプロカメラマンの私、中居中也が、女性モデルさんを撮影するうえで役に立つポイントを“実際の現場”からお伝えしていきます。いい機材を買ったんだけど、仕上がりがいまいち……なんて方は、こちらを踏まえて実践すれば、写真がワンランク上の仕上がりになるはずですよ。

後編となる本稿では、主に「照明」の効果的な使い方をご紹介していきます。前回同様、当日の時系列に沿って、プロは撮影時に何を考えているのか、何に気をつけているのかなどを記していきます。

→ 「前編」の記事はこちらから

≪「an・an」っぽく撮りたい雰囲気≫

霧島さんのコスチュームチェンジの間に、次の撮影場所を探しました。クローゼットにカメラを設置できるこの部屋で「寝ポーズの全身写真」が撮れると考えました。(ひらめいたって感じ……)

クローゼットの中に入り込んだのは、できるだけ「引き」が欲しかったため。寝ポーズの全身って、それなりに幅がありますからね。ハウススタジオはマンションの一室をドレスアップしたものが一般的で、部屋の作りとして、引きのスペースがないことが多くあります。その中でベストな引き場所を探し当てたのですよ。(当然、窓の光など、光源のことも見ておりましたよ)

グラビア撮影では、ワイドレンズ(広角)を安易に使いたくない!
そこのあなた! 何も気にせずズームレンズをウィンウィン回して「広角側」にしちゃってるでしょ? そんなことしているから、上手な写真が撮れないのですよ! まずは「引く努力」をしましょう。(だから私は引ける基準で場所を探したわけです、あおると画像が歪んでしまう広角レンズを使いたくない……という理由でね)

これを読んでる人の痛いところをザクッと突き刺したところで、次にまいります。

お次はサクッと 「an・an」(アンアン)風の写真を撮りたいと思います。一応説明しておきますと、「an・an」とは言わずと知れた超人気女性誌でして、そこに掲載されるグラビア写真は落ち着いていて、自然で、おしゃれなトーンで、一種独特な雰囲気を持っています。
この部屋と霧島さんの雰囲気で、「an・an」風な仕上がりになると私は思ったわけです。

え? さらっというけど、超悪天候の暗いこの部屋で「an・an」風とか 意図的にできちゃうんですかね?

いやいやいやいや、銀塩時代からのキャリアがあるプロをなめてはいけません。この部屋の状況を一瞥しただけで、私には「完成写真」がイメージできましたから。

SONY α9 [ ISO400 1/40sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

SONY α9 [ ISO400 1/40sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

大きな写真(3000×2000 pixel 573KB)はこちら

ほら、言ったとおり “an・anな写真” になってるでしょ? 凝ったライティングはせずに、そのままの光でナチュラルに撮る……ってことです。手前の暗い露出に合わせているので、窓と壁と境目がぶっ飛んで、ふわっとにじんだ光になっているでしょ!? これも”an・an感”を増すための演出となりました。

「そのままの光でナチュラルに撮る」って聞くと、簡単そうに思えますが、だからこそ難しいとも言えるのです。(超美味しいペペロンチーノ・スパゲッティを作るようなものです……)。

「an・an」風写真にしたいなら、自然光&開放絞り&画面全体が白ベースで明るく撮ること!(ハレっぽくてもよし)

このときは「レフ」を使用しませんでしたが、遠くからでもいいので、ちょっとだけレフを入れておけばよかったかな……と。アイキャッチにチロッとでいいから白いキャッチライトを入れれば、写真がさらによくなっていたはずと、少し後悔しております。(お顔用のレフではなく、です)

……てな話を振ってしまったので、そちらを回収することにします。私は本当はやりたくないのですが、レフを入れた「体(てい)」で、拡大図に「チロっとキャッチ」を「フォトショ」で塗って入れてみました。(レフありのシミュレーション)

同じ写真なのに比べると表情がまるで違うでしょ? アイキャッチがチロっとあるだけで「微笑みレベル」が2段階ほど増しちゃってるほど。 だから、レフを「チロっと」入れるとベターだったと思います。本来は撮影時にやることで、塗るのはやはり邪道だと私は考えます。できあがりの写真はウソも写しますが、「真」を「写す」 ので「写真」という言葉があると思うのです。CMなどでは、この加工はごく一般的なので、なんだかなぁ〜と……。

しかしですね、そもそもこれは全身引き写真を「説明するために」わざわざ寄ってお顔を大きくした部分写真。あくまで全身を写すのが目的の写真なので、そのことばかりに気を取られたら、かえって写真が下手になりがちなのでご注意を。(オリジナル写真、そのままでも問題ないでしょう)

≪お次はまさかの 「週刊ポスト」風!?≫

「an・an」風の写真が撮れたところで、今度は雰囲気をガラリと変えて、男性誌「週刊ポスト」に載っているような雰囲気に仕上げてみました。撮影場所はおろか、カメラもレンズも先ほどと全く一緒です!

SONY α9 [ ISO400 1/320sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

SONY α9 [ ISO400 1/320sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

大きな写真(3000×2000 pixel 835KB)はこちら

「an・an」風とは全然違う写真になっているー!? まさに セクシー系の 「週刊ポスト」風になるのは、どーして?

その秘密は、今回の記事で初めて「ライティング(照明機材を使う)」をしたことです。この悪天候(この日は雨→前回参照)ですから、プロはそれくらいの準備をしているのは当然です。

プロなんですからライティングすることは当たり前として、特別に”しっとり”と写っていることがおわかりでしょうか? 実はこの写真、一般プロカメラマンでもまだ知らないであろう最新テクニック(と超最新機材)を使っております。

「な〜んだ、ただのソフトボックスじゃん。そんなのとっくに知ってますよー!」。はい、そういう声が聞こえてくるのは承知しております。ソフトボックス自体は、昔からあるし 写真撮影の現場では、決して珍しいものではありません。

実はこの現場写真からだけでは、その秘密(最新機材)はわかりません。

その話はさておき、続けて同じ現場で撮った別カットを見ていただきましょう。(秘密は後ほど明かします)

SONY α9 [ ISO400 1/100sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

SONY α9 [ ISO400 1/100sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

SONY α9 [ ISO400 1/100sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

SONY α9 [ ISO400 1/100sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

ソフトボックス(50cm)2灯とはいえ、ストロボ光源をこんなに近くから照射すると極端に「白飛び」する部分が出てきてしまうことは、ストロボをお使いになったことがある方なら、おわかりいただけるのではないでしょうか?

ということは、どうやら今回の光源は「ストロボではない」ようですね。
ソフトボックスの中に入っていたモノとは・・・・・コレ!

今回のグラビア撮影のツボは、最新のひみつ道具「大光量/高演色LED電球」を使用したこと!(ストロボは使いませんでした)

これは、2年ほど前に登場した撮影用の照明(ハイテクが生み出した)なんです。ですので、ほとんどのプロの皆さんもまだ知らないと思われます。LED電球(もしくは、LED照明機材)といえば従来は、そんなに明るくなく、色が悪いというのが定説でした。皆さんも、そんな印象でしょう。

しかし時代が進み、LED電球にも”ブレークスルー”が起こりました。その結果「大光量」「高演色」を兼ね備えたコイツが登場してきたわけです。

ざっくりご説明すると
【大光量】一般的に流通しているご家庭用(7W)のLED電球の10個分ほどの明るさ(100W 白熱球の3個分以上)
【高演色】光の色が太陽光に非常に近く、色の再現性も抜群によいということ(RaとCRI、ともに95以上)。どちらの性能も、32Wスパイラル蛍光灯の比ではありません。

そして私が気に入っているのは、ストロボのような人工光感がなく、自然光ともなじみやすい点。 先ほどから申し上げているとおり、”まろやかなハイライト表現”を可能にしています。総じてグラビア撮影にかなり向いている照明ではないかと思い、今回使用しました。

※この照明機材の詳細は、記事の最後に記載します

≪”美しい体のライン”を照明で表現する≫

続きまして、また場所を変え、霧島さんがダイニングテーブルに座っている写真を撮りたいと思います。

ここは窓から遠く自然光メインの写真は期待できません。ですので先ほどのライトを使うことにしましょう。

カメラ設置側から、壁に隠れて見えないキッチンの中にソフトボックス(LED電球入り)を1灯立てて照射します。撮影ではこのようなブラインドになる場所に照明を設置することはままありますかね。

こちらはカメラの逆側から見たセット。霧島さんの左にソフトボックス、右側に白レフが「ハの字状」に配置されていることがわかります。

カメラ側から見たセットの様子。それぞれの位置関係は理解できましたか?

ということで、撮れた写真がコチラ!

SONY α9 [ ISO200 1/125sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

SONY α9 [ ISO200 1/125sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

大きな写真(2000×3000 pixel 681KB)はこちら

いい写真はたくさんあったのですが、なかでも色っぽくて、萌えっぽいのを選んでしまいました……。

全身写真では、表情だけでなく美しい体のラインの表現が重要になってきます(それを見ていない人が意外と多いのですよ)。あえて背景と分離させた照明で奥行き感を演出、背景は「窓」で逆光があるのがいい

逆側(窓なし暗い背景)から撮るとこの通り。つまらないことになるでしょ!?

逆側(窓なし暗い背景)から撮るとこの通り。つまらないことになるでしょ!?

【超大事】モデルさんの表情を引き出すコミュニケーション

ここらで、機材以外で大事なことを述べます。モデルさんとのコミュニケーションって、本当に大事なんです。「カワイイね」とか「キレイだ……」とか、その手の言葉をかけると、モデルさんの表情は本当にかわいくなります! さらに自分が本当にいいと思った瞬間「あ、それいい!!」とか言うと、表情をさらによくする効果があります。信じられないかもしれませんが、本当です。

目線だけもらって無言でシャッターを押してしまうそこのあなた! いい写真を撮るには、モデルさんをいかにその気にさせるかが本当に大事なんですよ!

この点は、モデルさんに聞いても同意してくれますよ。カワイイって言われてイヤな思いをする女子はいないし、「そうそれ!すごくいい!!」と言われちゃうと、カメラマンさんの欲しい表情がわかるので、だんだん表情がよくなっちゃうそうなんです。

でも、いいと思ってもいないのに「いい!(空セリフ)」って言われたときは、内心「あれ?」ってなって、かえって表情がダメになることもあるのだとか……。まあ、こんなこと彼女たちは口に出さないので、察してあげてくださいね……。

立ちポーズ全身写真、カメラは「水平構え」に限る!

さて、今度は立ちポーズの写真を、弱い窓の光(=自然光)で撮ることにします。悪天候のこの日、光の問題はなんとかクリアしてきましたが、ハウススタジオはやはり狭く、思った通りに引きがとれないのが悩みです……。

そこで私は、ドアの向こうにある隣の部屋に行くことに……。

この部屋の入り口から覗いて撮るしかなく、ひとりぼっちの暗い部屋からカメラを構えるのでした。(カーテンを閉め、カメラ・オブキュスラ的(注)にこの部屋を暗くしました。カメラのある場所が暗いのは余計な光がないため。カメラ内部は黒いでしょ?)

注:カメラ・オブキュスラ(カメラ・オブクスラ)とは、写真機の登場以前、暗箱に小さい穴を開けて風景を投影させた映像を手書きでトレースして使っていた、現在の写真機の原型と言うべきもの

SONY α9 [ ISO800 1/80sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f4.0 ]

SONY α9 [ ISO800 1/80sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f4.0 ]

大きな写真(2000×3000 pixel 1.22MB)はこちら

どうでしょうか。爽やかに撮れましたよね!? この厳しい環境の中、立ちポーズ全身写真という難関を、それなりにクリアしたと自負しております。ちなみに立ちポーズ全身写真では、室内でも靴(ハイヒール)がないと、様になりません(ただし、場合によっては裸足もアリです)。

立ちポーズでの「絞り」は「開放から2〜3」ほど絞ること。作画意図にあわせた「適絞(適当な絞り)」を意識しましょうね(ここでは開放値F2レンズ使用で、F4にしています)。フルサイズのカメラを買ってボカしたい気持ちはわかりますが、バカのひとつ覚えみたいになんでもかんでも開放で撮ればいいわけではないのですよ。この状況で仮に開放で撮ると、ヌルい絵になるだけなのです。

立ちポーズ全身写真は「水平」に構えるのが基本! モデルさんの身長の半分、地上高90cmくらいから水平ってのがよくあるポジションです。通常は上に”背景マージン”があるので、正確には身長の半分よりやや上ってのが多いかなと。

上記イラストを見ると「水平構え」の「ピントのあう面」が 立ちポーズ全身写真に有利(引いても寄っても)なことがわかります。これはピントの話だけではありません。上や下にあおると距離の差ができてしまい、近くは大きく、遠くは小さく写る……これわかりますよね?

特に「広角系レンズ」で寄ったときは、そのデメリットが顕著に表れます。上から写すと「お顔が大きく足が短く……」ダレ得?的な問題が発生します。(少なくともモデルさんには嫌われます)

これを利用し「下からのアングルは足が長く写る!」的なことを安易に教えていることがよくあります。間違ってはいませんが、やりすぎるとすごーく小さくなり、何が主題かわからない本末転倒な結果になります。(御御足メインだったらいいんですが……)

前回の「仰向け女子」でもあったように、下からのアングルだと「アゴのラインがきれいに写らない」「首のシワが目立つ」「鼻の穴が目立つ」など、女性にとって大問題が発生しちゃうことも改めて覚えておきましょう。

まあ、なんやかんや言って「立ちポーズは水平アングル」が基本基準なんですよ。まずはそれを習得し、デメリットも踏まえたうえで、「ちょっと上から」とか「ちょっと下から」というアングルに挑むべきです。

≪最後に”パウダールーム”で1カット≫

最後にパウダールーム(洗面所)で撮ってみることにしました。ここには採光のための窓があり、全面が白いことが多いのです。ということは、光がキレイってこと。ミラーレフも完備されていますし、こんないい環境を使わない手はないでしょう。

ユーティリティールームは特に狭いので、三脚を立てるのに苦労します。そして、必殺の鏡越し撮影!

SONY α9 [ ISO400 1/80sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

SONY α9 [ ISO400 1/80sec ] + LEICA SUMMICRON-R50mm [ f2.0 ]

大きな写真(2000×3000 pixel 640KB)はこちら

バリエーションとして、こんな絵もあってよいでしょう。何枚かの組写真で使うと深みが増しますよ。背中も前ボケで写り込んでいるというのもお得感がありますしね。雑誌のグラビアだと、この写真が最後に掲載される”〆カット”になるでしょう(きっと)。

≪撮影終了! 霧島さん、お疲れ様でしたーっ!≫

時間的にも分量的にも、これにて今日の撮影は終了です。

最後のカットを撮り終えたら「お疲れ様でした!」は、一分の迷いもなく、キレよく言いましょう。その言葉を発してから「あ、ちょっとこれも撮っていい?」などと未練がましく言うのは最悪です。スタッフみんなが気持ちよく終わることができると、カメラマンとしてのあなたの株が間違いなく上がります。(これ、ホントにホントですって!)

今回の撮影時間は約2時間(9:30-11:30)。「準備と撤収」で前後30分くらいかかり、全部合わせると正味3時間ほどでした。

で、今回使ったカメラとレンズの撮影機材は、たったこれだけ。ほとんど50mmレンズを使い、たまに90mmレンズを使いました。いずれも大して開放値が明るいとはいえない「F2.0のレンズ」。レンズの数が多いからっていい写真が撮れるわけではありませんからね。

ボディはソニーの「α9」、そしてメイキング画像(撮影風景です)を撮った機材は同じくソニーの超小型カメラ「RX0」でした。

今回使用の照明機材は、このようなもの(キットの商品名 : 美しい光の撮影照明キット )。最新の大光量/高演色のLED電球(口金E26)を使っているので「太陽光に限りなく近い、まろやかなハイライト」が特徴です。そして、なんと言っても、ストロボと違って「見える光」なので、ビギナーからプロまで、静止画から動画まで幅広く使える機材です

この日のライティングで、霧島さんがご自身用に撮られたiPhone写真を提供していただきました。iPhoneでもキレイってことです。(アプリで加工されていると思いますけど……)


≪今回の撮影で使用した照明機材≫

上:美しい光の撮影照明キット(高演色LED電球+ソフトボックス+スタンド)
左:撮影用大光量50W高演色LED電球 Sh50Pro-S
右:50cmソフトボックス(E26ソケット一体型折畳式)

有限会社パンプロダクト代表 
中居中也(なかい・なかや)のショップとブログ

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中居中也
Writer
中居中也
銀塩カメラマンとして広告や雑誌でキャリア開始。2010年より「唯一無二の撮影機材通販」にも参入し、現在は「映像作家」としても活動中。写真が上手になると定評があるブログを参考にするカメラマン続出中!
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芝崎 瞬(編集部)
Editor
芝崎 瞬(編集部)
平均80台中盤のスコアをどうにか減らしたい編集部員。ゴルフ専門メディアから価格.comマガジンへ移籍。得意クラブは強いて言えばミドルアイアン。
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