誰にも邪魔されず運転席で聞く音楽は人生の風景とともに

誰にも邪魔されず運転席で聞く音楽は人生の風景とともに

カエライフは、はてなブログと共同で #ドライブと音楽 をキーワードに、はてなブログの投稿を募集する特別お題キャンペーンを実施しています(募集期間:2020年1月30日~2月12日)。ブログ投稿の一例として、音楽ライターの柴 那典さんに同じテーマで記事を執筆してもらいました。柴さんの思い出に残っている、人生の節目の「ドライブと音楽」です。

記憶に強く残る風景は、いつも、一人の運転席から見たフロントガラスの向こう側だ。

運転しながら音楽を聴くのは日常のことで、仕事に向かうときも、家族を迎えにいくときも、何かしらの曲が鳴っている。ポップ・ミュージックについて文章を書いたり喋ったりしている仕事柄もあって、リリースされたばかりの新曲や取材対象のアーティストの作品を聴いていることも少なくない。ラジオを聴いていることも多い。言ってみれば、それらの選曲は、通勤や通学の電車内でイヤホンをしているときと、そう変わらない。

でも、ときどき、どうしようもなく車に乗りたくなることがある。移動のためじゃなく、ただ、車を走らせたくなる気分のときがある。そういうときに聴いた曲は、そのときに見た風景と結びついて、胸に杭を打つ。

誰にも邪魔されず、好きな曲を、大きな音で鳴らしたい。僕にとってドライブとはそういう些細な願いを叶えてくれる数少ない手段の一つだ。似たようなことを思う人は少なくないと思う。マンションで生活していたら当然隣に気をつかう、一軒家でも爆音となるとなかなか難しい。かといってカラオケに行くのもちょっと違う。クラブでDJがしたいわけじゃない。

他者の介在する空間で音楽をかけるということはすなわちコミュニケーションであり、究極的に言ってしまえば、ある特定のムードを提供するサービス業に近い役割だ。そうじゃなくて、まあ簡単に言えば、一人になりたいんだと思う。

そんなシチュエーションで聴いたいくつかの曲は、自分にとっても、とても大事な記憶と結びついている。人生の節目に挟む栞のような役割を果たしている。

目次

柴那典さん

柴 那典(しば とものり)さん
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。
「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「コンフィデンス」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。
ブログ: 日々の音色とことば
Twitter: @shiba710

 

朝比奈インターと父と「ロックンロール」

たとえば、くるりの「ロックンロール」という曲が、そのうちの一つだ。場所はたしか、横浜横須賀道路の朝比奈インターを降りて、鎌倉方面に向かう山道だったはず。空は晴れ渡っていた。

父が亡くなった少し後のことだった。

2004年の冬。父が亡くなったのは、当時勤めていた会社を辞めて、しばらく実家で暮らすことを決めたくらいのタイミングだった。「横浜駅で突然倒れたらしい」という電話を受けて病院に駆けつけたときには、既に身体に何本ものチューブが繋がれていた。

明け方の集中治療室、施される心臓マッサージと電気ショック治療を目の当たりにしながら、それでもなぜか、どこか俯瞰で物事を見ているような感覚があった。心拍を示す緑の数字が40から30へ、30から20へと徐々に下がっていく。まるで映画やドラマのような光景。死はゆっくりと訪れる。ONからOFFへとスイッチを切るのではなく、状態Aから状態Bへと徐々に移行していくような変化だ。そんなことを考えていたのを今でも覚えている。

葬儀がすんで、しばらく経って、車を走らせた。

裸足のままでゆく 何も見えなくなる
振り返ることなく 天国のドア叩く

「ロックンロール」では、こんな言葉が歌われる。別れの曲をたくさん持つ、くるりというバンドの中でも、数少ない死別を直接的にモチーフにした曲だ。フジファブリックの志村正彦が夭折したとき、岸田繁が彼に捧げると弾き語りで歌ったエピソードもある。

でも、決して悲しげな曲ではない。メロディはおおらかで、からっと乾いた朗らかさがある。後半ではこんなふうに歌われる。

晴れわたる空の色 忘れない日々のこと
溶けてく景色はいつも こんなに迷ってるのに
8の字描くように無限のビート グライダー飛ぶよ
さよなら また明日 言わなきゃいけないな

よく晴れた日の冬の空は、青がとても深い。キラキラと眩しくて、色がくっきりと濃い。墓参りをするときは、なんとなく、晴れた日が多い気がする。空を見上げると、いつも、この曲を思い出す。

 

第三京浜で結婚の「drifter」

2008年、結婚を間近に控えた頃は、キリンジの「drifter」をよく車で聴いていた。場所は覚えていないけれど、たぶん第三京浜だったと思う。夜だったのは間違いない。

たとえ鬱が夜更けに目覚めて
獣のように襲いかかろうとも
祈りをカラスが引き裂いて
流れ弾の雨が降り注ごうとも
この街の空の下
あなたがいるかぎり僕は逃げない

2001年にリリースされたアルバム『Fine』に収録されたこの曲。歌詞を最初に聴いたときには衝撃を受けた。「鬱が夜更けに目覚めて獣のように襲いかかる」という表現に、撃ち抜かれたような気がした。

そして思った。甘くて口当たりのいい言葉が一切用いられていないから気付かない人が多いけれど、この曲はラブソングだ。「みんな愛の歌に背つかれて 与えるより多く奪ってしまうのだ」なんていう、世の中にあふれるラブソングに対しての鋭く批評的な表現がとても効いている。浮かれたところのない、誠実な愛の誓いの歌だ。

最後のサビではこんなふうに歌われる。

僕はきっとシラフな奴でいたいのだ
子供の泣く声が踊り場に響く夜
冷蔵庫のドアを開いて
ボトルの水飲んで誓いをたてるよ
欲望が渦を巻く海原さえ
ムーン・リヴァーを渡るようなステップで
踏み越えて行こうあなたと
この僕の傍にいるだろう?

ままならない心を抱えた主人公の「僕」は、「あなた」に対して、荒波のような世をこの先も一緒に歩んでいこうと告げる。しかも、真夜中に、冷蔵庫に入っていたボトルの水を飲んで、その誓いをたてる。その描写にも感銘を受けた。そんなこともあって、自分の結婚式の披露宴ではこの曲を使おうと決めていた。

「drifter」だけじゃなく、披露宴で使う予定の曲をプレイリストにしてCD-Rに焼いて、繰り返し車で聴いていた。まだスマートフォンもなかった頃だ。ずいぶん昔のように思える。

ちなみに「ムーン・リヴァー」は、オードリー・ヘップバーンが映画『ティファニーで朝食を』の中で歌った一曲。歌詞の中に「Two drifters」という言葉があって、それが曲名の「drifter」につながっている。

 

首都高と人生のコーナーで「ロープウェー」

2017の冬、ceroの「ロープウェー」を繰り返し聴いていたときのことも、よく憶えている。『街の報せ』というシングルに収録された一曲だ。ゆったりとした曲調に乗せて、こんな言葉が歌われる。

朝靄を切り裂いて ロープウェーが現れる
すれ違うゴンドラには人々
気恥ずかしげにその手を振って
一瞬で霞に消えて視えなくなる

この4行が、とてもいい。この曲は『街の報せ』のジャケットに選ばれた、滝本淳助という写真家による1970年代後半の写真がモチーフになっている。霧の中を進むリフトに乗った親子をとらえた、とても印象的な1枚。それにインスピレーションを受けて作られた曲なのだという。

髙城晶平という詩人は、別々の世界を生きる人たちがほんの一瞬だけ交わる瞬間のきらめきを、とても美しく射抜く。サビではこんなフレーズが歌われる。

Everything's Gone To The Foggy Outside
やがて人生は次のコーナーに
人生が次のコーナーに差し掛かって

ちょうど仕事がずいぶんと忙しくなっていた頃で、そこに家族の入院や、新居の購入や、いろいろなことが重なっていた。この先の人生において子供を持つことはないだろうということ、犬と猫を飼おうということ。夫婦でいろんな話を重ねたあと、一人で首都高を走らせていたときに、この曲が流れた。

「やがて人生は次のコーナーに」というフレーズが胸から離れなくなって、その後、何度も繰り返し口ずさんでいた。

こうして挙げていくと、やっぱり、ずいぶんと内省的な曲が多い気もする。でも、僕はどうしても「ドライブ」というキーワードから「みんなで盛り上がる曲」とか「お洒落でグルーヴィーな曲」とか、そういうのは思い浮かばないのでしょうがない。

一人の運転席は、誰にも邪魔されないから。

 

tuned by DIATONE SOUNDで聴いてみました

お題に投稿いただいた柴那典さんにもHonda車専用音響チューニング「tuned by DIATONE SOUND」を体感してもらいました。

柴 那典さん

柴 那典さん

第一印象はすごく音がクリアだったこと。そして低域にパワーと心地よい重量感があったこと。他の場所やヘッドホンでは決して得られない、そして普通のカーオーディオでもなかなか難しい「運転しながら音楽に身体が包まれる感覚」がありました。

特に「PremiDIA WIDE」モードをオンにしたときの臨場感には驚きでした。

tuned by DIATONE SOUNDで聴いてみました

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文/柴 那典・カエライフ編集部