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(文藝春秋・1650円)
Z世代の黒い怒りと怨念がにじむ
最近、30代の官僚やサラリーパーソンと話をすると「どうも最近の新人が何を考えているかよくわからない」という悩みをよく聞く。いわゆるZ世代の内在的論理を見事に対象化した作品として評者はこの小説を薦めている。
メインとなる沼田さんなる人物が慶應義塾大学に在学していた2016(平成28)年から、卒業してベンチャー系企業に入り、さまざまな出来事に巻き込まれ、23(令和5)年には隠遁(いんとん)者のようになってしまう過程を描いている。大学時代、沼田さんはビジネスコンテスト(ビジコン)運営サークルに入るが、物事を斜めに見る癖がすでについている。<「色々と綺麗(きれい)ごとを言ったところで、資本主義社会において最優先されるのって、結局は利益追求じゃないですかぁ」/つまり沼田さんは、ソーシャルグッド系ベンチャーなんてものは所詮、困っている人たちをダシにしてお金を稼ぎ、そのくせブランドイメージだけは良さそうに見せる罪深い偽善なのだと指摘した>。この評価を含め、沼田さんの経済活動に関する考察は、マルクス経済学と親和性が高い。評者が大学生だった1970年代末から80年代初めだったならば沼田さんは新左翼系学生運動のアジテーターになっていたと思う。
沼田さんが就職先に選んだのはベンチャーから大手に発展した人材系企業だった。この会社のある新入社員は社風についてこんなことを心の中で呟(つぶや)く。<そういえば、パーソンズの新卒採用説明会で中堅社員たちを見た時に「みんな似ているな」と感じたことを思い出す。パーソンズに代表される2010年代に一世を風靡(ふうび)した「意識高い系キラキラメガベンチャー」とはつまり、同じような育ち、同じような学歴、そし…
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