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記者が教える広報PRの方法

広報PR情報No.1サイト 元読売新聞記者 坂本宗之祐

アナと雪の女王2のステマ炎上について、記者対応とPRの問題点


11月に公開された映画「アナと雪の女王2」を巡り、そのPR活動に関してステマ(ステルスマーケティング)騒ぎが起きて炎上しています。

 

 

複数のマンガ家が、ほぼ同時にアナ雪2のレビュー漫画をTwitterに投稿したのは不自然だ、と騒ぎになったのです。

私はつい先日、アナと雪の女王2の広報PR戦略を考察するという記事を書いていました。

それだけに、この件に触れざるを得ないと思い、今回のステマ騒ぎについて触れておきます。

結論から言うと、今回のディズニー側の対応全般は、失敗でしたね。広い意味でのコンプライアンス違反と、危機管理の失敗です。

 

傷口を広げた二つの問題点

ディズニー側には、PR会社(恐らく)と、ウォルト・ディズニー広報担当がいます。

PR活動において、PR会社の担当者が宣伝を依頼したマンガ家に「PR表記」を最初から指示しなかったというミスが一つ。

そして、騒ぎを受けたディズニー広報担当が、取材に来たメディアに対して、責任逃れするかのようなコメントを出してしまったのがもう一つ。

この失敗は痛かった、と感じます。

PRのコンプライアンス違反に端を発した騒ぎに、危機管理の認識の甘さが招いた結果でしょう。

各人がそれぞれの局面で、丁寧に仕事をしておけば防げた騒ぎでした。

細部に神は宿るといいますが、本当にちょっとしたポイントさえ押さえておけば…と悔やまれます。

 

今回の事案のポイント

①試写会への無料招待だけなのか?

疑惑発覚後、マンガ家は謝罪ツイートをしました。それを読むと、「今回は試写会に招待されてPR漫画を描きました」とあります。

試写会に無料で招待しただけなら、まだグレーでしょう。(それでもマンガ家はモラル上、無料招待を受けてレビューしますと最初から表記すべき)

問題は、絶賛する漫画をツイート投稿することに、報酬の支払いが行われていたかどうか?です。

もし金銭のやり取りはなく、試写会招待だけで、漫画の投稿は自発的な行為であったのなら、グレーですがセーフでしょう。

 

②漫画家への報酬支払いはあったのか?

しかし、漫画の投稿が自発的な行為だった可能性は低いです。

というのも、今回漫画をツイートしたマンガ家たちがいずれも

・投稿時間がほぼ同じ

・漫画の体裁がカラー2ページで同じ

・謝罪ツイートまでほぼ同じ

となっており、彼らが指示を受けて一連の行動を取っているのは明らかだからです。

金銭関係がないのに、みんなが自発的に同じような行動を取ることが果たしてあるでしょうか?

 

③ウォルト・ディズニー広報担当のコメント

しかも、ねとらぼの取材に対して、ディズニー広報担当の方は「本来はPR表記を行う予定だった」と認めています。

これはつまり、金銭の支払いがあったことを暗に認めているのではないでしょうか?

試写会への無料招待だけなら、PR表記をディズニー側が求めることはないはずです。

マンガ家も果たして、金銭的なメリットもないのに、プロとして無料で作品を作るでしょうか?

推論としては

・ディズニー側から漫画家に直接の報酬支払いは行われていない

・ただ、ディズニー側はPR会社に各種PR業務を依頼している(もちろん報酬を払って)

・PR会社から漫画家に報酬の支払いは行われた

 

という流れではないか?と推察されます。

ディズニーはあくまでステマではない、という立場を示しますが、本当にそれが通るでしょうか?

政治家が、政治資金規正法違反をして、「お金返します。だから問題ないやろ」と開き直るのと同じロジックを感じます。

「つい万引きしました、買う予定でしたが、捕まったから返します」というのも同じ。

だから無罪になるか?そうは問屋が下さないでしょう。

「ステマの認識はない」と言っても、すでに行為は既遂なのです。

ディズニーの取材対応の失敗

疑惑発覚後のディズニーのコメントは、火に油を注いだ印象です。

ねとらぼの記事を引用します。このようにコメントしています。

本件についてウォルト・ディズニーの担当者を取材したところ、

「一連の漫画は複数のパートナーを介して依頼した」「本来はPR表記を行う予定だったが、どこかでコミュニケーションミスがあり、抜け落ちてしまった」

と回答。

担当者はステマではないと認識しており、「意図して起きたことでもない」とし、「作家さんにツイートしてもらうという形で対処した」と説明。

今後は同じことが起きないよう対策するとコメントしました。

 

うーん…。全般的に上から目線を感じます。

「ステマの認識はない」というコメントには、後味の悪い印象を覚えます。

そして、「コミュニケーションミス」という説明には潔さが感じられません。

少なくとも、聞いた人に良い印象は与えない。もっと素直に謝るべきでした。

そして、すぐ改めました、今後はこのようなことがないよう気をつけますとすればよかった。

あと、取材対応のテクニックとしては、

記者はどうしても、「ステマですか?」などとネガティブなワードを絡めて質問してきます。

そのネガティブワードを使って反論するのは、賢くないやり方。

なぜなら、「ステマという認識はない」というコメントが、そのまま記事に使われ、負の印象を読者に与えてしまうからです。

ステマ(ステルスマーケティング)は絶対ダメ!

現在のところ日本では、ステマ行為を明確に違法と断じる法律はまだ整備されていません。

しかし、昨今のマーケティング活動において、ステマは絶対にやってはいけないものの一つです。

なぜなら、それは消費者をだます行為に他ならないからです。

いわゆるオールドメディアと呼ばれる新聞やテレビ等においては、金銭対価を受けて新聞やテレビで取り上げる際は、「広告」や「PR」と記載することがルールとして確立されています。

読者や視聴者に、客観的な記事や番組と誤認させて企業の宣伝を信じ込ませるやり方はモラルに反する、というコンセンサスがあります。

それに、記事なのか広告なのか?ごっちゃにしてしまえば、媒体そのものへの信頼を損なう、と分かっていたから。

メディアは皆様の信頼あってこそ成り立つもの。信頼を失えば、メディアは存続し得ないのです。

 

ネット上のステマは伝統文化

しかし、2000年代からネットの興隆で多数の新興メディアが立ち上がりました。

そうしたメディアの多くは、ステマに手を染めます。

というのも、あからさまな広告よりも、いかにも客観的な記事っぽくした方がネットユーザーに読まれるから。

その上、企業側からは安くない報酬がもらえる。そりゃおいしいでしょう。

つい数年前まで、こうした背徳的な行為がネットメディアでは半ば常識のように広がっていました。

そうした業界の常識と、一般社会の常識との間には、大きなギャップがあります。

今回、漫画家とやり取りしたPRの担当者が、こうした認識を今だ引きずっていたであろうことは想像に難くありません。

つまり、確信犯的に「PR」の表記をしなかった可能性は高いと思います。

アナ雪は広告ではなくPR推しだった

ねとらぼの記事では、「広告代理店」と出ていますが、PR会社でしょう。PR会社が入っているのはほぼ確実です。

この記事でも書きましたが、これまでアナ雪2をストレートに宣伝する「広告」はほとんど見ません。

ディズニーの方針として、これまで広告ではなく、広報PRに注力していたようです。好意的なメディア露出は、広告の効果を遥かに上回るからです。

PRの手法で各種メディアを使ったり、企業とコラボしたりして、雰囲気の盛り上げにがんばっていた印象がありました。

これまで順調に好意的な露出を増やしていただけに、今回の件は残念ですね。

まとめ

ステマは絶対ダメ。ステマするくらいなら、最初から普通の広告を出した方がはるかにましです。

ネット上で、こんなコメントがありました。

「一度ステマを疑われると、何を言っても信じてもらえなくなる」

…まったく同感です。ステマを疑われると、「信頼」という現代において最も重要な資源を損ないます。

世の中に多くのファンがいるディズニーですら、ステマをするとこれほどまでに叩かれます。

企業団体であっても、個人であっても、信頼が第一。

ネット上でも、メディア対応でも、いつも緊張感を持って誠実に振る舞いたいものです。

 

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