新型コロナウイルスの感染拡大により、同社の社員の多くは1年以上にわたり在宅勤務を余儀なくされていたが、アマゾンは3月30日、感染収束後に「オフィス勤務中心の勤務体系」に戻す計画を発表した。
社員の中には、在宅勤務で生産的に仕事をこなしてきたこの1年間の働き方に逆行するような、柔軟性に欠ける流れだと不満の声を口にする人もいる。1兆5600億ドル規模の巨大オンライン小売企業の繁栄も過去のものになったことを示している、とまで言う人もいる。
「今やアマゾンはDay 2に突入してしまった」
特に業界の技術者たちが在宅勤務による自由を享受してきた今となっては、オフィスに社員を戻す計画によってアマゾンの採用活動に支障が出るのではないかと懸念する声も上がっている。
ある社員はInsiderにこう語る。
「大きな間違いです。こんなことをすれば、採用活動で他社に競り勝つことはまずできなくなるばかりか、場合によっては社員の引き留めも難しくなるでしょう。すでに現時点でも優秀な人材は見つけにくくなってきていますが、直近1年でその傾向はさらに顕著になりました」
別の社員によると、アマゾンの社員の中には不満を述べる人もおり、オフィス勤務が強制になるなら会社を辞めようと思っている人もいるという。
「受け止め方はまちまちです」とこの人物は語る(同社は会社の内部情報を外で話すことを禁じているため、本稿では内部関係者を匿名としている)。
アマゾンの社員は現在130万人。そのうち7万5000人はシアトルの本社もしくはその周辺で働いているが、彼らの間でこうした意見がどのくらい支持されているかは定かではない。
しかしこうした意見は、アマゾンをはじめとするテック企業にとって、1年以上も在宅勤務をしてきた社員たちを、徐々にではあっても確実にオフィス勤務に戻すのは難しいことを示している。アマゾンはこの件についてのコメントを拒否している。
社員の中には、「(退任が近づく)ジェフ・ベゾスCEOは『Day 1、すなわち創業1日目の精神を忘れるな』と繰り返し言っていたのに、今やアマゾンはDay 2に突入してしまった」とアマゾンの社員用掲示板に匿名で書き込んだ人もいる。
ちなみに、ベゾスはかつてこう語ったことがある——「Day 2(2日目)は停滞を意味する。後に続くのは見当違い、さらにそれに続くのが耐えがたいほどつらい衰退、そして死だ」
アマゾンは「オフィス勤務を基本」
マイクロソフトなどは感染収束後も一部の社員に在宅勤務を認める柔軟な勤務体制を導入したが、アマゾンは3月30日、オフィス勤務を「基本」とすることが目標であると社員に伝えた。
「遠くない将来、また一緒に『発明』に携わることのできる日を楽しみにしています。安全を保ちながら、直接顔を合わせて。お客様のために」とアマゾンは述べている。
アマゾンで現在オフィス勤務をしているのは社員の10%ほどだが、2021年の夏にはオフィス勤務に戻し始め、秋口には大多数の社員をオフィス勤務に戻すことを目標としているという。
アマゾンは新型コロナウイルスのワクチン接種と検査に関するブログ投稿でこの計画について発表したが、Insiderが確認した内部文書によると、社内での説明ではさらにオフィス勤務に戻す具体的なスケジュールは未定で段階的に進めていく予定であることのほか、健康上その他の問題がある社員には例外を認める可能性もあることなどの詳細が伝えられている。
社員離れの懸念
オフィス勤務へ戻ることが義務化されると、一部の人にとっては都市部で通勤しなければならないこと以上の頭痛の種を生む可能性がある。
この件について詳しい2人の人物によると、アマゾン社員の中には在宅勤務になったことで祖国へ帰ったりリゾート地に移住するなど、正式な許可を得ずに海外で働いていた人もいるという。しかし、同社はそのような人たちに対する取り締まりも開始し、アメリカへ帰国するよう求めているという。
また、別の人物によれば、アマゾンは過去1年間にシアトル以外の場所で在宅勤務する人を多く採用しており、それらの新規採用の社員たちはすぐに転居を考えなければならないかもしれないという。「そういう人たちにとっては、この話はありがたくないでしょうね。」とこの人物は言う。
さらに別の社員がInsiderに語ったところによると、チームによっては在宅勤務を認める例外を設けているマネジャーもいるといい、例えば「この人のチームではどうしてもオフィスに来なければならないという必要性がない限り、個人の希望に応じて永久的な在宅勤務が認められる」場合もあるという。
Insiderが以前報じたとおり、アマゾンの人事部門責任者ベス・ガレッティは2020年11月に従業員に対し、在宅勤務に関して何が効果的で何が効果的でないかをまだ見定めているところだと話していた。その時点ではオフィス勤務に戻るつもりだという社員の数は増えていたとガレッティは言う。
「仕事の種類によっては邪魔の入らない静かな環境で集中して作業する方が向いているものもあります。その静かな環境が自宅なのかどうかは、人によるでしょう」とガレッティは言う。
いずれにしても、オフィス勤務に戻らなければならないとする決断によって、会社から心が離れる社員もいることは明らかだ。職場の問題を話し合うための匿名フォーラム「Blind」には、アマゾン社員と思しきユーザーがこんな書き込みをしている。
「在宅勤務の仕事を他に探すべき時が来た。在宅勤務で仕事の生産性は格段に上がったし、通勤時間がなくなったことで、人生の何百時間という時間を取り戻すことができた。
ここ1年で、少なくとも一部の人にとっては在宅勤務が非常にうまくいくことが分かったのに、(アマゾンは)オフィス勤務に戻すなどという柔軟性に欠けるバカげた決断をする会社。それが分かってよかった」
「データにとらわれすぎの会社。社員からのフィードバックもすべて捨ててしまった」
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:Frustrated Amazon employees rip on the company for encouraging them to come back to the office]