『武器としての世論調査』リターンズ

第1回 「今」に至る世論
『武器としての世論調査』リターンズ―2022年参院選編―

普段ニュースで目にする「世論調査」の使い方を教えるちくま新書『武器としての世論調査』は、2019年6月、第25回参院選を目前に刊行されました。 あれから3年、世論は、そして日本はどのように変わってきたのでしょうか。この間の内閣支持率などを見ていきます。

 この3年のあいだに、新型コロナウイルスの流行や2回の首相の交代など、政治をめぐる情勢は大きく変わりました。6月22日に公示される参院選の前に、今に至る世論の動きを振り返ってみましょう。

1.「辞めるべき時に辞める」という切り札

 

図1.内閣支持率・不支持率
図2.新型コロナウイルス 政府対応の評価
図3.政党支持率
図4.政党支持率 10%未満拡大

 

 内閣支持率と不支持率について、各社世論調査の平均を図1にまとめました。赤の太線が内閣支持率、青の太線が不支持率で、線が途切れたところでは首相の交代がおきています。さらに図1には、政治的なできごとに加えて新型コロナの感染のピークを第1波から第6波まで示しました。内閣をめぐる最近の世論が、新型コロナの流行と首相の交代を中心として動いてきたことがうかがえます。
 図1からは感染のピークが支持率の谷にあたることや、緊急事態宣言がいずれも支持率の低下をもたらしたことが読み取れます。図2に示した新型コロナへの政府対応の評価のグラフも、これらの点と整合する推移だといえるでしょう。
 一見すると、感染の悪化にともなって支持率が下がるのは自然なことであるように思えますが、外国では必ずしも感染の悪化とともに政権の支持率が下落したわけではありませんでした。欧米諸国で行われた外出などの私権の制限は日本より厳格であったものの、補償が手厚く行われたため人々の支持を受けたのです。事実、イギリス、イタリア、ドイツ、フランス、カナダなどでは、新型コロナの第一波で首相や大統領の支持率はかえって上がりました。
 けれども日本では、緊急事態宣言にともなう補償が十分に行われず、宣言は自粛を迫る圧力として機能するばかりでした。また、自粛を呼びかける一方でGoToトラベルを推進するなどの矛盾した政策が行われ、繰り返す感染の波の中で生活は苦しさを増していきました。自粛と補償がセットにならず、負担ばかりが強いられるものであるならば、緊急事態宣言が支持率の低下を招いたのも当然といえるでしょう。
 2020年9月には菅義偉内閣の発足にともなう支持率の回復が見られるものの、2021年に入ると、第3波にともなう2度目の緊急事態宣言に前後して急落していきます。この時期は自民党の中からも、このままでは選挙を戦えないという声が漏れ出します。菅内閣は衆参の補欠選挙でも全敗し、野党は年内の衆院選にむけて勢いに乗りつつありました。しかし9月3日に菅首相が総裁選の不出馬を表明すると、情勢は一変していきます。
 図3に示した政党支持率について濃い緑色で示した自民党の線を見ると、大きな上昇をもたらした一番のできごとが総裁選であったことが読み取れます。特に2021年のものは衆院選の前になされたフルスペックの総裁選で、報道で大きく取り上げられて一足早い「選挙運動」となりました。辞めるべき時に辞めるのは、代表である者にしか使えない最後の切り札です。その切り札が行使された結果、自民党は息を吹き返し、野党はついに安倍晋三首相も菅首相も選挙で討ち取ることができなくなったのです。
 野党は、どのような総裁が選出されたとしても対峙できるように内実を固めておくべきでしたが、今の社会をどうするべきなのかという説得力のある主張ができず、野党共闘も目的が曖昧なままでした。
 安倍政権や菅政権下で行われてきた新型コロナ対策の問題点や日本学術会議問題、政府統計や公文書改竄などの不正は、きちんと解決されないままに埋もれてしまいました。その埋もれたものはもはや選挙の争点にならないものの、今なお少なからぬ有権者のなかに「果たして日本はこれでいいのか」「どうしてこうなってしまうのか」という想いとしてくすぶっているのでしょう。それはやはり、やがて解かなければならないはずの問題です。

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