究極の自作キーボードキット?深圳DUMANGキーボード

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マイクロソフトリサーチ北京で働いている研究者でガジェット友達の福本さんから、
「ぼくのかんがえたさいきょうのキーボード」製作キット という穏やかならぬタイトルのメールが送られてきました。中身を見てみると、たしかにこれはアイデア、実装方式、価格含め極まっています。

※スイッチサイエンスで販売が始まりました 秋葉原の遊舎工房でデモもご覧いただけます!

ところで、深圳のベンチャーがめっちゃ面白いキーボード造ってます(速攻でポチりました (^^; )。

個々のキーを好きな位置に配置できます(場所だけでなく、回転も可能!)。
個々のキーはソケットになっているので、好みのもの(例:チェリー青軸、Kailh赤軸…)を自由に入れられます。
個々のキーの動作やバックライトの色は setup application から自由に設定可能です。
設定値は個々のキーに保存されるので、別のマシンに繋げても大丈夫。OSにも依存しません。
※注文時にキーの軸とキーキャップの種類を指定すると、インストール & セットアップして届けてくれます。

これを使えば、好みの感触のキースイッチを好きな場所に配置できます。
これで誰でも「ぼくのかんがえたさいきょうのキーボード」が実現できる

福本さんからのメール(いちぶ略したりしてます)

面白そうなので、さっそく開発元のスタートアップ、深圳超酷科技のタオバオアカウントから連絡してWechatでアポイントを取り、その名もDUMANG(毒蟒)キーボードをサンプルとして買ってきました。
僕が買ったDKmini(軸はKaihua Box赤)は、中国での価格は2つセットで1199RMB,2万円もしない安さ。 底板、キーぜんぶのソケット、Kaihuaのキースイッチぜんぶとキートップぜんぶ、「そのままキーボードとして使える状態」でこの価格です。HHKなどの高級キーボードより安く、フルカスタマイズのキーボードが手に入る。
※9/16訂正、キートップも同梱というのは間違いでした。
 ・現在、1199RMBの2枚セットを買うと99元相当のABSキートップが付属(在庫限り)
 ・僕の場合はさらにオマケしてもらって、199RMBのPBT-DSAを一緒に付けてもらったようです。

これで1199RMB。その後キートップなどのサンプルをいくつかもらいましたが。。

超酷は、酷の音KuがCoolと聞こえることからスーパークールを意味する中国語です 。
スイッチサイエンス東京オフィスのキーボード好き社員 @ohki @kiku @sgk @yuki なども面白がっていて、いま弊社にて輸入に向けて着々と検討中ですが、ひとまず僕が中国で使った様子をお届けします。(高級キーボードとしては普通の値段でも、Arduinoとかに比べると高いし箱も大きいので、 まずは東京でもサンプル取り寄せ中)

スイッチサイエンスで販売が始まりました 秋葉原の遊舎工房でデモもご覧いただけます!

こいつ、、動くぞ! 二次元方向の配列ポジション自由自在、再配置も可能
何よりも面白いのはこのアイデア。キーと底板をマグネットで固定することで、どのような配列/形状のキーボードも作ることができます。
仕組みは、
・キー自体にマイコンが入っていて、「自分がどのキー」という情報を記憶している
・キー裏に8点の接点があって、ベースの任意の場所に置ける。しかも回転もOK!
 これにより、「どのような形のどの配列」でもセットアップでき、しかも何度もやり直せます。
・マグネットはかなり強く、打鍵中に動くようなことはないですし、底板を掴んでぶんぶん振ってもびくともしません。キー同士も磁石でくっつくので、キーをいくつか並べると、横に思い切り引っ張ってもズレません。

外そうと思って特定のキーを掴んで引張れば外せます。引っ張り方向の力にはそんなに強くない。うまいアイデアです。そもそも「横に叩くキー」とかも開発中なので、強度的には普通のキーボードのように使うことができます。

「配列がないこと=最高の配列」DUMANGキーボード
(画像は公式サイトより)
底板には一番大きいDK6(頑張れば1枚で使える)、2枚使い前提のMini、親指の部分が飛び出しているErgoの3つがあります。機能は3つとも同じですが、現行のDK6のみMicro USBで、今USB-Cにアップデート中。 (スイッチサイエンスで売られているDK-6はTYPE-Cにアップデート済みのもののみです)
(画像は公式サイトより)
開発者の李双全さん(一番右)と李书新さん(中央)。まだ社員6-7人のバリバリの零細企業、写真撮るための会社ロゴすらない。今のところDK6,mini,Ergoとも、外箱は共通です。

三次元方向のキータッチ自由自在、各キーはソケットになっていて任意のスイッチが入れられ、磁石でベースに設置
もう一つのユニークな仕組みは、キーをマイコンを備えたソケットにしてあること。
マイコン入りの台座部分とキースイッチの部分は独立していて、Cherry等お好みのスイッチとキートップを自分で入れることができます。DUMANGでは、Kaifa、Cherry等のスイッチを入れたセット販売をしていますが、ソケットだけでも購入でき、好きなスイッチを自分で入れられます。

マイコンと接点(ポゴピン)を備えたソケット。ポゴピンが8つあることで、キーを回転させてどの向きにおいても認識します。
(画像は公式サイトより)
この8個の接点が、キーの回転を可能にします。給電は3.7Vのようです。
(画像は公式サイトより)
磁石はかなり強く、普通にキータイプしている間はまず動きません。
(画像は公式サイトより)
キートップ、スイッチ共にいつでも交換可能。 (画像は公式サイトより)
キートップ、スイッチ入れ替えの図解
(画像は公式サイトより)

キーの情報(EnterキーがEnterであるという情報)はソケット内に書き込まれます。つまり、2つ台座を使ってるときに、二つの台座間でキーを移動させても、EnterキーはEnterキーとして動作します。なので、設定が済んでしまえばPC以外のRaspberry Piなどに繋げても動作するはずです。(未検証)

ベースのサイズは3種類。USB-CでPC等と接続。台座の足を動かして任意に角度がつけられる
一枚で使えるDK6, 2枚で使うかサブキーボード的なDK6Mini, 親指の部分が飛び出したエルゴのミクスデザインのDK6Ergoと3種類あるのですが、DK6は現行ではMicro-USBで、次モデルでUSB-Cに変更されます。(変更されました。スイッチサイエンスで売られているDK-6はTYPE-Cにアップデート済みのもののみです)3つとも機能は同じで、どの向きでも使えますが、「台の形状としては、Ergoは縦横変えて使わない方がいい。USBケーブルが出る向きも変になるしね。。」とのこと。
何台でも同時に使えるので、Miniを2つつかってフルサイズのキーボードを作ることもできます。
3機種とも打たせてもらったのですが、金属製の底板も金属のソケットもさすがガッシリしています。そこはインダストリアルのクオリティ。市販のキーボードと変わらない剛性感で、打鍵感にキットらしさはありません。

この表ではErgoの縦横変更はできないと書いてありますが、機能がないのではなく、形状的に推奨しないの意味です。
(画像は公式サイトより)
キーの台座は高さ変更できます。台座の取り付け箇所は複数あり、取り付ける台座は一つずつ6段階に高さを変えられます。 これと分割キーボードを使うことにより、中央が盛り上がるような形も作れます。(画像は公式サイトより)

設定アプリは現状Windows版のみだが、動作のみなら不要
設定アプリはWindows版のみですがいちおう英語版あります。
設定アプリ上でキーボードに4段階のレイヤーを設定でき、ホットキーで切り替えられます。しかも1度設定したら設定アプリは不要。(USBハブを介して複数繋げる場合などは要るようです)
また、僕のThinkpadのUSB-CからC-Cで繋いでも動作したし、同じくC-CケーブルでAndroidスマホ(Huawei P20 Pro大陸版)に繋いでも動作しました。おそらくRaspberry PiやMacにつないでも動くでしょう。

・開発者は英語ダメなので英語に間違いがあったり、一部文字が溢れている
・そもそも英語版でもインストーラが中国語版で起動するのでWindowsに中国語言語パック入れてないと文字化けする
・Readmeやreleasenoteが中国語の、しかもUTF-8でなく簡体字中国語エンコード(GB2312)でしか書いてない
などのごく些細な問題がありますが、ハードウェアの人なら中国語は友達なので問題ないし、そういうのでビビる人は買ってはいけない。NKROモードがちゃんとあることとかの方が重要です。(おそらく、設定するとドライバ必須になる)
どこのご家庭にもあるWordで、文字コード指定して開けば読めます。
(読んだところ、最新版のV1.41,7月6日公開のバージョンでやっと英語サポートしたらしい)

中国製品らしくアップデートはメチャメチャ早く、現状のファームウェアでは44個しかキーが置けないことに対して前述の福本さんが要望を出したところ、「次回のアップデートでもっとたくさん置けるようになる」とのこと。もちろんアプリ入れておけばアップデートされます。底板とマイコン入りのキーどっちにもファームウェアがあり、かつ設定アプリ入れなければ普通のキーボードに見えるのがピーキーすぎて面白いところ。

ゼロから数十分で望みのキーボード完成。付属ソフトもわかりやすく、いつでも・いつまでも配置やキーを変更できる。
オフィスに行った際にサンプルを購入しました。「軸はKaihuaのbox赤。miniを2つ組み合わせてフルサイズキーボードにする」と話したら、その場でセットアップ開始。軸をソケットに入れて、キートップを配置し、ドライバでそれぞれのキーを書き込むまで30分かからない。それは慣れた李さんがやってくれたからだと思いますが、オフィスにもどってキー配列を変更するのもすぐでした。このフレキシブルさと速さが、最大のメリットだと思います。

ピンクの服を着た方の李さんとキーを拾う。
キートップを拾う。ここでの李さんは速い!
キーをマッピングしていきます。
この状態で購入しました。
その後オフィスに戻ってきて、ThinkPadと違和感ないように変更。この変更は10分もかからなかった。
しかし、こうやって使ってると、もう一個底板が欲しくなりますね。。
なお、今回のブログはこのキーボードを設定しながら書いています。

「消しゴムかければどうということはない!」安全対策、メンテナンス
「底板に接点があって通電している」と聞くと、ショート対策が心配になりますが、底板でショートを検出してエラーが出るようにしてあります。

ショートしたらアラートが鳴ります

このアラートはキーソケットの不良対策にもなっていて、キーソケットそのものが製造不良でショートしていた場合もアラートが出ます。また、「飲み物とかで汚れた接点は消しゴムで拭くと綺麗になるぞ。キットには消しゴムも入れてある」とのこと。

たしかに、ソケット内含めて、もっとも掃除や一部交換がしやすいキーボードでもあります。何個かソケットが壊れても、ソケットだけ買い換えればいいわけですし。新しいゲームをやるとき、開発環境が変わったときなど、日々キー配列を最適化しながら使うニーズはあるでしょう。何セットも買って沼に入り込んでいく様子が見えます。(福本さんは最初に1枚買って、触ってすぐに2セット4枚追加注文したらしい)
むしろ、キーが動かないキーボードの方がおかしい。ケースのあるキーボードは、魂を重力に引かれて配列から自由になれない。人間の知恵はそれを乗り越えられます。
ケースなんか飾りです。えらい人にはそれがわからんのです。

ゲーミングキーボード並みの応答速度
プログラム可能な自作キーボードキットとはいえ、DUMANGキーボードは、ゲーミングキーボードとして設計され、高速な応答を実現しています。ソケット内・ベース内のマイコンもそのために高速なチップを使用し、秒間1000回の打鍵、2ミリ秒での応答速度を実現しています。(DUMANGサイトから応答速度を計測するアプリが落とせます)

他の市販キーボードより他の市販キーボードより速い、という比較   (画像は公式サイトより)
2ミリ秒の応答速度を実現 (画像は公式サイトより)

もちろん可変キーも続々登場予定
こうしたカスタマイズキーボードにつきものの、トラックボールやボリュームスイッチなど可変キーも開発中で、サイドキーなどはすでに市販されています。オフィスでもいくつも開発中のキーを見ました。楽しみです。

中に指を入れて3つ押し分けられるキー。まだ3Dプリンタでプロトタイプしているレベル。手前はボリュームスイッチ
 トラックボールやタッチパッドも開発中
開発中のキーボード群。(画像は公式サイトより)
タイプライターから始まる物理的な制約から、ついに人間は解放された! 配列がないことこそが、最高の配列だ! (画像は公式サイトより)

これもメイカー。応援したくなるスタートアップ。
深圳超酷科技はまだ6~7人の零細企業で、普段はPCB回路設計の請負受諾で生活しています。いわゆる方案の一つです。 二人の李さんは、日曜日のオフィスに訪れたとき、セットトップボックスのマザーボードを作っていました。記念撮影のための、会社のロゴすらない。中秋節ただなかの中国で、最初のアポは土曜朝、ズレて日曜朝になりました。
このDUMANGキーボードは、そういう中で開発された自社製品で、今は出荷のためのキーボードセットアップや検品などは自分たちで仕事の合間に行っています。
「たくさん売れれば、人を雇うのはわけないけど、まだできたばかりの製品だし、今だと月に100個程度しか売れてない、始まったばかりのものだ。2万円近くするキーボードは、普通のユーザには高すぎる。売れないのはしょうがないので、あまり元手をかけてはならない。でも、このソケットと底盤のアイデアはスーパークール(超酷)だろ?
日本の市場にこの良さが伝わると嬉しいなあ」
と語る二人の李さんは、次のカスタムキーやPCBのアップデートの話になると急に饒舌になります。今Micro-USBのDK6(最初に発売した一番大きい底板)をType-Cにアップする話、ボリュームコントローラ、、、
オマケで見せてくれたのは、ソケットから直接USB端子がでている、キーが一つだけのキーボード。「これ、シングルボードコンピュータと組み合わせれば、受付端末とかに使えるんじゃないか」などなど、アイデアと試作品が次々に出てきます。これはM5Stackとかと同様、深圳のメイカー企業らしいところ。「今日見るのはいいけど、まだやるかどうかわからないプロトタイプだから、外部に言っちゃダメ」といういくつかの試作品も見せてもらいました。
さすが深圳人、Hardware is Hardとの付き合い方をよく知っています。
ポゴピンやPCBという今ある素材を組み合わせてアイデアを実現する力、外箱を共通化して内部の梱包材をちょっと変えることで3種類に対応させる工夫(というか、外箱たぶんドライバーみたいな工具ケースのアリモノ外箱を公模で買ってるように見える。射出成形済みのプラスチック公模が深圳では流通していて、上手くフィットすれば金型を起こさずにケースが手に入る)など、手間をかけるべき所と流用する場所のバランスは、深圳でハードウェア製造をしているからこそのたくましさとスマートさを感じます。そして、キットに市販の消しゴムをそのまま入れるようなアイデアは、今のDJIやHuaweiのような大企業からは出てこないでしょう(笑

底板の金属エンクロージャーは、様々なタブレットでよく見たつくり。もともとタブレット作ってる工場に発注したか、ヘタすると本当に部品流用かもしれません。これがDesigned by Apple in Californiaとはまた違う、深圳スタートアップのデザインです。

今のDUMANGキーボードが、完成度の高い製品だとは思いません。僕のキーをセットアップしているときにもソケットを一つ交換していました。(タオバオで買うときは、セットアップしてから送るから、そこで不良品が弾かれるはず)常に通電中の接点がむき出しのキーボードは、「きわもの」でしょう。企画書を書いたら跳ねられるような製品かもしれません。
とはいえ、ソケットは消耗品と割り切ると底板はそれなりにしっかり作られているし、キー配列は日々変えながら使うと考えれば、これで充分欲しがるユーザーはたくさんいます。「いつでもカスタマイズしつづけながら使いたい」という不可能を可能にした、これはすばらしいHackです。 (それこそクラウドファンディング共同購入したら欲しがる人多いと思う)
これはDIYとスタートアップの中間にある、まさにメイカーの製品だと思います。応援したいです。公式サイトにはメールアドレスもWeChatも貼ってあり、中国語でコンタクトできれば、キーボード愛好家からの訪問は歓迎してくれるでしょう。

※スイッチサイエンスで販売が始まりました!秋葉原の遊舎工房で現物もご覧いただけます!

※JENESIS藤岡淳一CEOと僕が共同主催する、ニコ技深圳コミュニティでは月次でミートアップを行っています。次回10月13日の深圳華強北でのミートアップでは、話題のDumangキーボード開発者、深圳超酷科技の李书新さんから、説明とデモをしていただけます。
ミートアップ参加URL :
https://www.facebook.com/groups/ntshenzhen/permalink/2499834103432859/

※今回のページの画像は、深圳超酷科技の使用許可を得ています。

オマケで見せてもらった、USBで直結する「キーが一つだけのキーボード」。シングルボードコンピュータとかとくっつけると、受付端末とかに使えるんじゃないか