「なぜ日本の選手はバックパスするのか」潜む根深い“コーチ”の罪

ほめて伸ばすコーチング(2)
皆さんには、人生を決定づけた監督やコーチとの出会いがあっただろうか? あるいは、あなたのお子さんにはそのような存在がいるだろうか。日本のスポーツ界に目を向けると、哀しいかな確たる理論も持ち合わせず、未だに鉄拳を用いる指導者が存在する。
日本のスポーツ界は変わらなければいけない。6月18日に発売される『ほめて伸ばすコーチング』から一足早く、スポーツ環境の改善に役立つ提言を公開。

「個を伸ばす」ブラジルサッカー

ブラジル人であるジョノ・ヴァイスは現在、1ヵ月に8試合のペースでJリーグのスタディアムに足を運ぶ。Jリーグ入りを希望する母国の選手に、情報を送るためだ。何度か記者席で隣になった。

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ヴァイスもまた、この世に生を享けた1991年3月10日に父親からサッカーボールを贈られ、父と共に3歳からボールを蹴って育った。翌年、街のチームに所属した。

「一日に2時間くらいの練習が、週に3~4回ありました。最初の1時間強はドリブル、パス、クロスボールからのヘディングシュートなんかをやり、その後の45分くらいはゲームでした。基礎練習ではコーチが軸足の位置とかフォームなど色々教えてくれますが、ゲームは自由でしたね。5対5、6対6から始まり、成長するに従って11対11に近付いていきました。どの子も自分のアイドルとか、チームメイトの真似をすることで上達します。

今、振り返れば、コーチは全員に一通り全てのポジションを経験させて特性を見極めたうえで、個性を伸ばすように接していました。『キミは破壊力抜群のDFだね。相手の骨まで削ってしまうよ』なんていうジョークが飛び交っていて、温かい雰囲気でした。日曜日は公式戦でした」

一部のエリートは、プロの下部組織に入っていく。

ブラジル人は『サッカーは楽しいものだ』ということを決して忘れません。もちろん、試合も練習も死に物狂いでやりますよ。でも当然、負けることだってあります。アマチュアのうちは、あまり勝負にこだわらずに、ロマーリオのようなシュートを打ってやろうとか、ロナウジーニョのようなドリブルができたぞ! という具合に個が伸びていきます。幼児から大人まで、常にボールを蹴る喜びを忘れません。だからワールドカップ優勝5回を誇る、世界の強豪なんだと思います」

ヴァイスは父の仕事の関係で16歳にしてアメリカ合衆国コロラド州の公立高校に転校し、サッカー部で活躍した。

「すぐにバーシティーに入りました。シーズン中は学校が始まる前の午前7時から9時まで、放課後の午後3時から5時までと2部練習で、かなり気合が入っていましたね。サッカー推薦でアメリカの大学に進学する選択肢もあったのですが、授業料が高すぎて……父に『とても払えないから、母国の大学にしろ』って言われたんですよ」と、彼は笑う。

祖国に戻り、パラナ大学に進学した。在籍中、1年間、韓国に留学している。その際、韓国の大手企業、サムスン、ヒュンダイ、ロッテなどの社史に触れた。パラナ大を卒業後はコンサルティング会社に就職し、3年間アジアを担当する。2017年、より大きなアジアマーケットである日本の経済を学ぼうと東京大学大学院に入学。経済学で修士を取った。すべてが英語で行われる授業は、楽しくて仕方なかったという。

「たとえばトヨタと日産、日立と松下電器、三菱UFJ銀行とみずほ銀行など、同業ライバル社との競争が企業を発展させた過去や、将来的には手を取り合って共同開発をしていくであろうという現状など、ものすごく勉強になりました。また、日本人の勤勉さ、他者を尊敬する姿勢、年配者を立てる様にも惹かれます。治安も良く、とても暮らしやすい国です