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12歳少年、最年少で志す未来学 Z世代に広まるか

南龍太記者
(写真:アフロ)

 「自分たちの未来を決めるのは今の大人じゃない。自分たちだ」

 10代の若者の間で、望ましい未来への道を探る学問「未来学」を習得しようという動きが広まり始めている。

 未来学者らでつくる国際組織「世界未来学連盟」(WFSF;World Futures Studies Federation)はこのほど、18歳以下のメンバーによる新たな枠組み「WFSF Junior」を創設した。

 中心となっているのは、今年12歳のアルサムら「Z世代」(Generation Z)と呼ばれる子どもたちだ。アルサムは学校に行くことができなかった不遇をも糧としながら、これからの時代の教育や自然環境などの社会問題に未来学を活用しようと同世代に提案。2022年にはWFSF Juniorの第1回世界大会を開く予定で、同志を募っていく。

Z世代のアルサム(WFSF提供)
Z世代のアルサム(WFSF提供)

行方知れずの実父

 アルサムは2008年にイランで生まれた。「ドラッグに溺れていた」と表現する実父は、幼い頃に母・ミナとアルサムを残していなくなった。

 複雑な家庭環境で育ち、7歳の時に母とトルコで暮らし始めた。朝から晩まで働く母親とは、共に過ごせる時間は短かったという。学校に通えなかったが、「小さなタブレット端末と回線速度の遅いインターネット」が勉強ツールで、ユーチューブを見て英語やPCのスキル、「社会の矛盾」を学んだ。

 Z世代は1990年代後半以降に生まれた子どもたちで、幼少期からネットやスマートフォンに親しんで育っている。「デジタルネイティブ」と呼ばれる層にも当たり、SNSで同世代や社会とつながってコミュニケーションを取り合うのが得意とされる。ITのスキルを駆使することで「他の世代よりも未来を形づくるのにより重要な役割を果たせる」とアルサムは自負する。

 その点、80年代に生まれたミレニアル世代を含むY世代(Generation Y)、それ以前のX世代(Generation X)とは一線を画す。

未来学を教えた継父

 そんなアルサムが未来学を志すきっかけとなったのは2年前、継父・ダナとの生活が始まったことだ。WFSFのメンバーでもあったダナは、未来学やその関連知識についていろいろ教えてくれた。

 インターネットに加え、ミナとダナが先生の代わりになってくれたから、学校に行けなかったことは「悲しいことではなかった」と捉えているという。さまざまに独学する時間があったことは「大きなチャンスだった」とも思うようになった。

 逆境をバネに、学校に通えない世界中の仕組みについて調べるうち、また学校に通っている友達と話すうちに、「学校は5年、10年で役に立たなくなる情報のインプットに時間が割かれてはいても、実際に役立つスキルを教えていない」と感じた。

 未来学を学び始めた当初、友達には「占い師にでもなるのか」と思われたが、未来学について説明すると、興味を持ってもらえたという。アルサムは未来学の魅力を「未来の異なる側面について理解するのを助け、より好ましい未来を構築するツールを提供してくれる」と説明する。

 想定され得る(possible)無数の未来のうち、実際にはどうなりそう(probable)か、どういった未来が望ましい(preferable)か、あるいはそうでないかを体系立てて考え、未来への対策を練る、心構えをするのが未来学の意義の一つだ。

世界の問題解決に未来学を

 「気候変動や飢餓など世界には好ましくない問題がある」

 そう憂うアルサムらZ世代は、自分たちが大人になった時に、現在既に山積みの世界の問題がさらに悪化しているのではないかと不安がる人が多いと言われる。

 「未来学の法則を使ってこうした問題を解決し、よりよい未来にしたい。起こる未来をただ待つのではなくて」と力を込める。

 特に興味を持っているのが教育面の変革だ。「変化や技術の進歩は曲線、指数関数的なのに、教育システムは直線的だ」と指摘し、教育の在り方を抜本的に見直すべきだと説く。教育を受けられなかった自身の体験や思いが色濃く反映されている。「X世代やY世代は、Z世代のための重要な決定をすべきじゃない。Z世代はそれ以前の世代と全く別の世界で育ち、考えもかなり違っている」

世界中の子どもたちに未来学を広める

 そうした思いからアルサムは、最も若い「Futurist」としてWFSFに加わり、初の「WFSF Junior」のメンバーとなった。

 「未来主義者」「未来派」「未来学者」などと訳されるFuturistはまだなじみのない言葉だろうが、今後未来学が浸透していけば、一般化する可能性も秘める。

 Futuristは「日本沈没」をはじめとするSF小説で知られる小松左京や「未来の衝撃」や「第三の波」を著したアルビン・トフラーが有名だ。最近では「シンギュラリティ」(技術的特異点)の提唱者、レイ・カーツワイルや、前の記事に登場したジェームス・データー、日系米国人物理学者のミチオ・カクなどがFuturistと呼ばれる。

Gen Z Futuristsのウェブサイトより
Gen Z Futuristsのウェブサイトより

 アルサムは同世代の子どもたちに「未来学を学び、各国の政府に自分たちの声を届け、決定に影響力を及ぼそう」と呼び掛け、若い未来主義者たちのグループ「Gen Z Futurists」を立ち上げた。

 取り組みは緒に就いたばかりだが、後生畏るべし。今後大波になっていくかもしれない。「第四の波」のうねりを伴いながら――。

Arsam Matin

2008年、イラン生まれ。現在トルコで暮らす。

WFSFディレクター、ビクター・モティ(右)のインタビューを受けたアルサム(WFSF提供)
WFSFディレクター、ビクター・モティ(右)のインタビューを受けたアルサム(WFSF提供)

(許可を得て今年1月掲載のWFSFインタビューを翻訳、再編集。敬称略)

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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