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ハリウッドの老舗、コロナで次々廃業。タランティーノ映画に出た店も

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
リタ・ヘイワースなどハリウッドスターに愛されたデリもコロナで廃業(筆者撮影)

 新型コロナが外食産業を圧迫する中、ハリウッド関係者に長年愛されてきた店が、連続して廃業した。先月なかばにカリフォルニア州とL.A.群が外出禁止令を施行して以来、テイクアウトとデリバリーで営業を継続しようとも試みたが、それでは息が続かなかった。

 最初にその辛い決断をしたのは、ビバリーヒルズのど真ん中にあるネイト・ン・アル。1945年に創業したユダヤ系デリで、リタ・ヘイワース、エヴァ・ガードナー、ナンシー・シナトラ、ジェームズ・ガーナーらが常連だった。1ブロック東に住んでいたドリス・デイは、しばしばバスローブ姿で朝食をとりに来ていたそうである。伝説のアンカーマン、ラリー・キングも、いつも決まったテーブルで朝食をオーダーしていた。1957年の映画「夜の豹」や、業界裏を描くテレビドラマ「アントラージュ★オレたちのハリウッド」にも登場する。

 近年は経営難に陥っており、2018年には、ランド・ガーバーとシンディ・クロフォード夫妻を含む複数の業界関係者によって救われていた。店の代表は、インスタグラムを通じ、「長年、このコミュニティの一部だった食事を、テイクアウトとデリバリーでみなさまにお届けし続けようと考えましたが、お客さまとスタッフの安全を第一に、決断をしました」とメッセージを送っている。

 そして今週は、1965年創業のスタンズ・ドーナツと、1993年にオープンしたスウィンガーズ・コーヒーショップが、廃業を決めた。

 スタンズ・ドーナツはUCLAのすぐそばにあるドーナツ店で、開業当時の店名は「The Corner Shoppe」。クエンティン・タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」にも、マーゴット・ロビー演じるシャロン・テートが自分の映画を観に行くシーンで、背後に登場する。創業者でオーナーのスタン・バーマンは、ウェブサイトに「私がドーナツを作るのは、今日が最後です。悲しいことに、COVID-19のせいで、その決断をするのが早まりました。私たちのドーナツがあなたたちに笑顔を与えたことを、これからもずっと覚えていてくださることを願います」という声明を出すことで閉店を発表をした。

休日ブランチから平日深夜まで、ハリウッドの若者でにぎわっていたスウィンガーズ(筆者撮影)
休日ブランチから平日深夜まで、ハリウッドの若者でにぎわっていたスウィンガーズ(筆者撮影)

 スウィンガーズ・コーヒーショップは、ビバリーセンターからほど近いビバリー・ローレル・モーターホテルの1階にある、レトロ風ダイナーだ。深夜過ぎまで営業していることから、遅い時間はバーで飲んだ後に立ち寄る若者客で埋まっていたし、休日のブランチも人気だった。テレビドラマ「インセキュア」に登場するほか、コロナに関係なくひと足先にクローズしたサンタモニカの2号店は、セス・ローゲン主演の「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」にも出てくる。店の前の張り紙には、「再オープンした時にはぜひ支えてください」とあるが、Eater LAが報道するところによると、オーナーはコロナ騒動が収束した後も再オープンはしないつもりのようだ。

 現地時間10日、L.A.では、外出禁止令が、当初予定されていた今月19日から来月13日まで延長されている。しかし、外出禁止令の内容は日々厳しくなるばかりであること、州知事や市長が長引く可能性を示唆し続けていることなどから、この通知は想定内であり、決して驚きではなかった。最近では、CNNにレギュラー出演する医師サンジェイ・グプタも、外出禁止令解除は6月第1週以降になるだろうと、さらりと述べている。つまり、レストランにとっての苦しい状況は、あと8週間は続くということ。その長い時期を、いったいどれだけの店が乗り越えられるのだろうか。ハリウッドの歴史に貢献した店がこの後もさらに消えていくのだとしたら、あまりにも悲しい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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