Yahoo!ニュース

稲垣謙一

「日本人じゃない」と突きつけられた過去――水原希子、自分らしさとの葛藤の先に

2020/11/08(日) 17:10 配信

オリジナル

「自分はみんなと違うってことを周りから突きつけられている感じがあった」――両親が日本人でない「ミックス」という出自に、コンプレックスを抱えていたファッションモデルの水原希子。メークアップアーティストとしても活動する僧侶でLGBTQ当事者の西村宏堂を迎え、コンプレックスの乗り越え方、本当の美しさ、そして自分らしさとは何か、本音で語ってもらった。(文:吉田けい/撮影:稲垣謙一/Yahoo!ニュース 特集編集部)

観音様だってオシャレしている

水原:「ファッションモデルとして、ある意味“美しさ”を売る業界でやってきたんですけど、“美しさ”ってなんだろうって思うことがあって。時代によって、美しさの基準なんてどんどん塗り替えられていくし、外見が美しくても内面はそうじゃないこともあるし。宏堂さんはミス・ユニバースの各国代表のメークを担当しているじゃないですか。世界一の美を競う場って、何が美しさの基準になるんですか?」

西村:「現場は、みんな死ぬ気で挑んでるから、もうバッチバチなんです。そんななかで、スタッフに気遣いを見せてくれたり、現場の雰囲気を華やかにしてくれたりするような人が、やっぱり高いポイントを獲得していると思います。そういう意味では、私たちを美しい気持ちにさせてくれる人が、美しい人なのかも」

水原:「そういった内面的な美しさって、人としてとても大切なものだし、いまの時代だからこそ、相手を受け入れる気持ちとか思いやりが求められていると思います」

モデルの仕事では、高価なハイブランドを身につけることもある。自分が「高価なものにこそ価値がある」という概念を発信しているように感じ、美しく着飾ることに疑問を感じていた時期があった、と水原は言う。

水原希子

水原:「着飾るよりも、自分の体に馴染むものが着たいなって……。でもいま、心の底からオシャレがしたい。オシャレすることで内面が変わるってこともありますよね」

西村:「私は、小さいときから外見にコンプレックスがあったんです。でも、メークに出会って、自分の顔がすごい変わることを知って。メークをしたら元気がでて、いままでできなかったこともできるように思えたし、実際にできたと思います」

水原「やっぱり、ちょっとメークとかオシャレするだけで、力をもらえますよね。自分の思うままにオシャレすると、本当に心が晴れます。それってファッションの力だなと。高価なものじゃなくても、自分に合うものを着るのって楽しいし、ファッションは多様ですよね」

西村「観音様だってオシャレしてますよ。冠まで着けて、荘厳に着飾ってて、もうキラキラ。華厳経というお経には、観音様のように着飾っていて、内面も素晴らしくて、すごい力をもっている人こそ、周りに影響を与えられるとあります。だから、私も着飾るべきだ、と」

西村宏堂

水原:「すごい。宏堂さんがそのことを広めることで、思うままにオシャレすることを躊躇しているたくさんの方の背中を押すことになるんじゃないかな。自分に自信をもったり、新しい自分を発見したり、そういう手助けをしてくれるのがファッションなんだと思う」

マイノリティーだった過去も、こうやって乗り越えた

言動が同年代の多くの男の子と異なるため、「オカマ」とからかわれた西村。アメリカ人の父と韓国人の母をもつため、「日本人じゃない」と突きつけられた水原。ふたりとも、大多数とは違う部分があるマイノリティーとして、つらい思いをした過去がある。

西村:「オカマって言われたときも、友達がいなくてつらかったときも、セーラームーンとかディズニープリンセスの絶対にあきらめない姿を思い浮かべて頑張ってきたんです。希子さんは、どうやって自分を奮い立たせて乗り越えてきたんですか?」

水原:「お母さんの存在が大きかったかも。『お前のお父さん、目が青いよな』とか『英語しゃべって』とか言われるたびに、自分はみんなと違うってことを周りから突きつけられている感じがあって。言い返せなかったし、無理に日本人ぽく振る舞ってた。そうやって自信をなくしていると、お母さんが『希子ちゃんは世界で一番きれい。何も心配しなくて大丈夫』って言ってくれて、本当に救われたんです」

西村:「私も、例えば『女の子みたいな走り方するよね』って言われても、『えー』としか言えなかったの。いまだったら『優美な動きするでしょ』とかは言えたかも。でも、大学に入るまでは、そういうことを言えなかったし、はぐらかしてた。いまは、ちゃんと言えるし、話せるってことを、私たちが発信していかないといけないなって思う」

水原「そう、小学校まではつらかったけど、中学校からインターナショナルスクールに行ったことで、いろんな人がいることを知って、さらにモデルの仕事を始めたことで、自分の居場所が見つかったかもって思ったんです。自分がミックスだってことが特別ではなくなったんですよ、いい意味で。必ず自分の居場所はあるし、そこを見つけるまではつらいかもしれないけど、そのつらさも全部、自分の強さになるからって、ひとりでも多くの人に伝えたい。それができたら、有名人になってよかったなって思えるかもしれない」

時代が変化していくなかで、自分というものがわからなくなることも

自分の居場所を見つけたら、自分らしさと向き合うこともできるようになる。しかし、自分らしさとは何か、自分とは何か、考えすぎると答えを見失うことがある。

水原:「時代が変化していくなかで、何を選択していくことが大事なのか、選択したものは本当に自分が伝えたいことなのかどうか、わからなくなってしまう。それで自信をなくしたり、自分というものがわからなくなったりすることもあると思うの」

西村:「私は、迷ってもいいし、迷うこと自体が人生の楽しみでもあると思う。自分らしさって固形じゃないじゃない? だから自分でもわからなくなっちゃうものなの。でも迷ったら、自分がハッピーになることを選択していくかな」

水原:「自分の周りの人がハッピーになることを選択するっていうのもいいのかな。友達や家族が喜ぶ顔を見たときは、自分のために何かしたときに比べて、幸せが倍増する気がしてて。人のために何かをして、それが自分の幸せや自信につながることってあるよね」

西村:「自分が必要とされていることが幸せにつながる、っていうのはある。それはすごく素晴らしいんだけど、人のために自分がハッピーじゃないことをやるのはちょっと違うんじゃないかなと思うの。自分がそれをやってハッピーかどうかってことが、まず大事。モデルの仕事は自分も楽しくて、みんなもインスピレーションを感じてくれるとか、メークの仕事はメーク自体も楽しいし、喜んでいる人の顔を見てうれしいし、とか」

水原:「一緒に幸せになっていくっていうのがベストだね」

2000年前の教えにダイバーシティを学ぶ

西村の著書『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』にも記述のある、阿弥陀経の「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光」という教えに、感銘を受けたと水原は言う。

水原:「どんな色でも、そのままで素晴らしいって教えが、すごい面白いと思って。いまの時代に必要とされている多様性のことを、2000年も前から応援している。素晴らしいと思ったし、うれしかったんです。ダイバーシティは難しいことじゃなく、そのままでいいってことや、多様な人たちがいると知って受け入れることだと、仏教が教えていたっていうのが、とても驚きでした」

西村:「仏教って、思っていたより寛容で、いろんな教えがあるんだなと、私も思いました。いま必要とされている仏教は、多様性が大切ですよ、自分らしくていいんですよ、ということを教えてくれるものなのかな。お坊さんも、日本では結婚できたりお酒飲めたり、生活についても寛容だし。だから私はメークしたりオシャレしたり、ハイヒールを履いたりして、こういうのもアリなんだよっていうことを発信していく責任があると思っています」

多様性について発信していくことの大切さを強く感じているふたり。現代では、SNSが発信の主なツールとなっているが、誰かに何かを伝えることで、思わぬ攻撃のターゲットになる可能性もある。

西村:「SNSで自分の存在が世の中に知られて、本当のお坊さんじゃないとか、こんなお坊さんが紹介されるならこの世は終わりだとか、書かれたことがあったんだけど……」

水原「私も、『ガリガリだから色気がない』とか体のことを書かれるのはすごく嫌。一生懸命太ろうと努力したこともあるんですけど、結構難しいんです。だからもう、これこそが自分なんだって思って、細いからこそ似合うファッションを楽しんじゃう。子ども服だって着れちゃうんだよ、って開き直ってますけど、やっぱり嫌なこと言われると反応しちゃう」

SNSでの心ないコメントに対して水原は、距離をとったり、無視をしたりして、受け流すようにしている。攻撃されたり、傷つけられたりしても、発信することはやめない。

水原:「SNSをやめようかなと思ったりもしたのね。でも、『希子ちゃんを見ていると頑張れます』とか『多様性が大事だってメッセージをありがとう』とか、私が発信することで、たくさんの人の背中を押すことができているんだって気づいたから」

西村:「私も、お坊さんがメークとかオシャレとか、ハイヒールとか、頭おかしいんじゃない? って言う人もいると思うのね。だけど、私のことを大切にしてくれているな、心が通い合っているな、と感じる人が褒めてくれるんだったらいいやって。正解がないじゃない? お坊さんがハイヒールを履いていいのか、いけないのか、なんて。だから、この人が褒めてくれるから履こうって自分でも納得できる。応援してくれている人は、お守りというか、方位磁石のように自分を導いてくれる存在だなと思います」

水原:「SNSとかで、ああだこうだ言ってくる人って、私のことを知らないから言ってくるんだと思う。だから、自分のことをしっかり見てくれている人が、自分に対して『違うよ』『こうしなきゃいけないよ』って言ってくれたことを聞くようにしようと思う。やっぱり自分を好きでいてくれる人を信じて、その人たちの言葉に応えていきたいと思うから」

西村「みんなが、自分だけじゃなくて周りの人を大切にすることが、自分も幸せになる鍵だってことに、気づいてほしいと思います」

衣装協力:TOMO KOIZUMI 、Yan Yan、UPALA、YUEQI QI、TARO HORIUCHI、O THONGTHAI

水原希子(みずはら・きこ)
1990年、米国生まれ。ファッションモデル、女優として活動中。

 西村宏堂(にしむら・こうどう)
1989年、東京都生まれ。僧侶、およびメークアップアーティストとして活動中。実家は浄土宗の寺院。近著に『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版)。

RED Chair レッドチェア 記事一覧(12)