ジョブズの卒業スピーチを手伝ったマイク・ホーリー氏が死去。ジョブズ子息が創作秘話語る

  • 5,654

  • author satomi
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
ジョブズの卒業スピーチを手伝ったマイク・ホーリー氏が死去。ジョブズ子息が創作秘話語る
(左から)マイク・ホーリー、リード・ジョブズ、スチュアート・ブランド Image: "Festschrift for Mike Hawley" MIT MediaLab

6月は卒業シーズン。

季節はめぐり、時は静かに進んでいきます。

2005年6月12日にスタンフォード大学でスティーブ・ジョブズが卒業生に贈ったスピーチの創作を手伝ったIoT提唱者でピアニストのMike Hawley(マイク・ホーリー)MIT教授が24日、ケンブリッジのご自宅で58年の生涯を閉じました。結腸がんでした。

ネットで4月21日に執り行なわれた「Festschrift(先輩に捧げる卒業論文集)」と銘打つ生前葬には「Stay hungry, stay foolish」の名言で知られる 全地球カタログ発行人のスチュアート・ブランド、ジョブズの長男リードさんも参加して、伝説のスピーチの思い出をしみじみと語りました。

どんな人?

マイクさんはルーカスフィルムでデジタル映画の時代を切り拓いたビデオゲームプログラマーで、Apple(アップル)を追われてジョブズが立ち上げたNeXTで9年働き苦楽をともにしました。ピアノはアマチュア国際ピアノコンクールで優勝するほどの腕前で、イエール大では音楽とコンピュータ、2つの学位を取得しています。

活躍のフィールドと交友関係はとても幅広く、AIの父マーヴィン・ミンスキー、ジョブズの両方と同居し、ビル・ナイの結婚式ではヨーヨー・マと競演、シェイクスピア全集をデジタル化し、エベレスト科学探査に同行し、世界一デカい本を出してギネス記録を取って、MITでは万物がインターネットでつながるIoTの礎を築きました。

ジョブズ伝説のスピーチ創作秘話

華やかな業績を語り合う生前葬の録画はこちらでご覧になれます。57:37から登場するスチュアート・ブランドは「数ある偉業のなかでもたぶん一番知られていなくて、一番反響が大きかったものはジョブズのスピーチ原稿だ」と影の功績を讃え、全地球カタログのパンチラインが最後に引用されたときの驚きと喜びを満面の笑みを浮かべて愉快そうに振り返っています。

よりによって(最高の財力と頭脳を誇る)スタンフォードの全卒業生に向かって『ハングリーであれ、バカであれ』とアドバイスするんだからあんなに面白い終わり方はないわけですな。おかげでこちらもすっかり有名人。まさかこんな人生の黄昏時になってから脚光を浴びるとは思ってもみなかったよ。これもマイクのおかげだね。ありがとう。

ジョブズが著名脚本家のアーロン・ソーキンに2月に助けを求めて放っておかれた話は割と知られていますよね。ずっとなしのつぶてで、何度せっついても「あーはいはい」の生返事。とうとう6月に入ってしまったので、覚悟を決めて自分で原稿を書いたのが結果的に功を奏し、「ジョブズが自分の言葉で直接語りかける真のジョブズ作品になった」と伝記には書かれています。

ただこの話には続きがあって、ジョブズはよっぽど自信がなかったのか、もっと身近なマイクさんにも土壇場になって助けを求めていたんですね。その証拠として、リードさんは卒業式の7日前くらいに交わされたこんな修羅場のやりとりを披露していますよ(1:19:25~)。

マイクとは家族ぐるみの付き合いでした。父が母にアプローチしたときのこともよく知る人です。先ほどスチュアートのお話にもありましたようにあのスタンフォードのスピーチはマイクが手伝ってくれたものです。今日はふたりの間で交わされたメールを少し読みたいと思います。本当は父がここにいれたらよかったのですが…代理で読ませていただきます。


ジョブズ「恥ずかしい。こういう演説は苦手だ。 もう二度とやらない 。ちょっと書いたの送るけどゲッてなるなよ」


マイク「徹夜の追い込みは学生だけかと思ったらそうじゃないんだね(笑)。最高のジョークを言うコメディアン、名曲を書く作曲家と同じで、パンチラインは重要。たぶんエンディングをがんばればいいんじゃないかな。全地球カタログのところはいいと思う。全地球って言葉自体にあの時代の理想がこもっているから。まあ、細かいこと言ったら、hungry、foolishのマントラはもともとヒンズー教の説話からきたものだけど。道のイメージに最初の地球の写真(青い点)のイメージを重ねてバランスを整えて、点と点をつなぐっていうブラントの言葉も入れてみたよ。参考までに」

うわ、点と地球の青い点がやっとつながりましたね…。

ふたりのやりとりは「ああ、まだかかるなこれ。もう時間がない」とテンパるジョブズのメールで終わっています。先立たれたリードさんは「もう時間がない」という言葉を噛みしめて、「みんなそう思うことありますよね」となんとも言えない表情をしていますよ…。

お父様のご挨拶のあとに病床のマイクさんも登場します。痩せて、でも透明感のある研ぎ澄まされた存在感を放ちながら。感謝の言葉とともにマイクさんは「ひとつだけみなさんにどうしても伝えておきたいことがあります」と前置きして、こんな人生の気づきを語ってくれました。

ピアノはにぎやかなバー、シンフォニーホールもいいけど、僕が好きなのはちいさなホームコンサート。友だち15~6人くらいで集まって弾くのが好き。


弾きながら思うのは「音楽ってどこにあるんだろう?」ってこと。ピアノの中?いや違う。楽譜?違う。ピアニストですらなくてそれは聴く人の中にあるんです。だからこそあれほどまでに美しく響き、かけがえのない思い出になる。

心に響くのは、そこに響く人がいるから。ジョブズ伝説のスピーチはとても音楽的で、丸暗記できるほどのリズムと旋律で琴線に触れます。なぜあれほどまでに人の心を打つのか、謎が少しだけ解けた気がしますね…。

早すぎる死を悼み、心からの感謝を捧げます。

Sources: MIT MediaLabNYT