『ガンダム水星の魔女』話題の“クソダサPV”は何がそんなにすごかった? 公式Twitter自ら映像公開→16万いいねを集める人気に

    『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の公式Twitterが公開した「株式会社ガンダムのPV」が話題に。一体何がそんなにすごかったのか、映像製作の実務経験者に聞いてみました。

    アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の公式Twitterが、11月27日の第8話放送後に公開した「株式会社ガンダムのPV」がある意味「すごい」「凝ってる」と話題になっています。

    ツイートは公開1日で7.6万リツイート、16.3万いいねを集め、一時は「クソダサPV」がTwitterのトレンドにも入ったほど。一見、いかにも学生が作ったようなショボいPVなのですが、何がそんなにすごいのか、映像編集に詳しい人に聞いてみました。

    ※以下、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』8話のネタバレが含まれます

    株式会社ガンダムは、GUND技術による医療事業を目指します。 #株式会社ガンダム #水星の魔女 #G_Witch

    Twitter: @G_Witch_M

    「いかにも学生が作った風」をアニメで完璧に表現

    話題になった「株式会社ガンダムのPV」は、主人公のスレッタたちが第8話で製作したもの。

    いろいろあって「株式会社ガンダム」を設立することになったミオリネとスレッタたちは、同じ地球寮の学生たちも巻き込み、会社設立のためのさまざまな準備に追われることになります。

    「会社のPVを製作する」というのもその一環で、なんとか期限内に映像は完成したのですが、なにせ学生たちが付け焼き刃で作ったもの。そのクオリティーは……。

    ――とまあ、普通なら「ショボっ!」と笑って終わりなのですが、このPVが話題になったのは「いかにも学生が作ったようなショボいPV」という“体”を完璧にアニメで表現していたため。妙に耳に残る「ガ~ン~ダム、ガ~ン~ダム、希望の光~♪」という歌のフレーズや、すかさず公式アカウントでPVを公開するフットワークも相まって、ツイートはたちまちトレンドに入りました。

    一体このPV、どこがそんなに“凝って”いたのか。素人目に見てもすごいことは一目で分かるのですが、せっかくなので実務で映像制作の経験がある人に、どのあたりに注目して見たか聞いてみました。答えてくれたのは谷林守(@notfromSakhalin)さん。

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    「不慣れさ」が随所ににじみ出たPV

    ――パッと見て、凝っているなと感じたところはどこでしたか。

    谷林さん:まず、エアリアルの輪郭全体がうっすらと緑がかっているのが目に付きます。グリーンバックを使ったクロマキー合成処理の跡だと思いますが、合成の雑さがうまく表現されていますね。

    ただ、あれだけ大きなものをグリーンバックで撮影するには、格納庫内のかなりの部分をグリーンバックで覆う必要があり、相当大変だったのではないでしょうか(笑)

    また、前半はエアリアルとスレッタが大体同じ高さになるように撮っているのに、後半(22秒あたりから)はエアリアルの位置だけが上にずれてしまっています。おそらくエアリアルの足が草むらにかぶったままだと、動かしたときに合成感が増してしまうため、やむなくエアリアルの方をずらしたんでしょうね。

    ――ああ! 単に位置合わせが雑なだけだと思っていましたが、確かにその可能性はありそうです。他にも気付いたところはありますか?

    谷林さん:動画の6秒あたり、カットの切り替わりが不自然なのはすぐにわかりましたが、カットと一緒になぜかエフェクトまで「星とハート」から「音楽記号」に切り替わっているのが気になりました。素材を切り貼りするだけならエフェクトまでわざわざ変える必要はありませんし、エフェクトを一貫させた方が自然なつなぎに見えるはずです。

    おそらく、星とハートのエフェクトで作った「Ver.1」のようなものが存在していて、それが一度ボツになり、その後現行バージョンを作りなおしたのではないでしょうか。そのとき、何らかの理由で6秒までに使った素材データがロストしてしまっていて、仕方なくVer.1からデータを切り貼りしたのでは……などと想像していました。動画編集に不慣れだったらありえる話です。

    ――ありそう……!

    谷林さん:あとは22秒~27秒のあたり。背景が早朝→昼→夕方→夜と変わっているので、おそらく早朝に撮影→(授業)→昼休みに撮影→(授業)→放課後から夜まで撮影、という手順を踏んだんだと思います。早朝と昼とでカメラの位置が大きくずれてしまっていたり、時間経過でスレッタへのライティング(光量)が変化することを考慮しきれていなかったり、撮影に不慣れであることをここでも感じさせていて味があります。

    また細かいですが、カットが変わってもエアリアルの動きは途切れてないので、たぶんエアリアルの素材ありきで、それに合わせてスレッタの方が踊る形で撮影したのではと思います。

    ――気になったというか、引っかかった点などはありましたか?

    谷林さん:10秒~22秒あたり、エアリアルの前を横切っていくヤギがいます。このヤギ、何もないところから出てきて何もないところに消えていくので、最初はクロマキーの外に出たと思っていたんですが、よく見ると消えるときの境界線の輪郭が「スレッタを中心とした縦長の楕円」に沿っているように見えるんですよね。

    「素材合成の境界線をスレッタの周囲に置く」という編集処理をしたのがわかりますし、ヤギが「消える」ということはもともとスレッタ側の映像にヤギはいなかったということになります。

    ――言われてみれば……。

    谷林さん: そもそも、ヤギを消す処理は簡単です。ヤギが横切る際のエアリアルは直立不動なので、動画ではなく静止画を合成するだけでどうにかなります。そう考えると、最初はただの雑編集だと思っていたんですが、劇中のPV製作者に何らかの意図があって、わざとヤギを登場させていたのかもしれません。

    最後のナレーションにヤギの声が重なっているのも、最初は録音ミスだと思っていましたが、もしかしたら演出……? ただ、ここまでいくと深読みしすぎかもしれませんね。

    「株式会社ガンダム」の行く末は……

    このPVに関わらず、細かい“匂わせ”や“表に描かれていない裏設定”が数多くあるのも『水星の魔女』の面白いところ。放送時間になると毎週のようにトレンドに入っていることや、今回の「PV公開」といった動きからも、ネットでの実況や考察をかなり意識した作品であることがうかがえます。

    今はまだ比較的ほのぼのとしたエピソードが続いていますが(そうでもないかも……)、いつまでこの平和が続くのか、スレッタたちの「株式会社ガンダム」はどこへ向かっていくのかなど、来週以降の展開からも目が離せません。