“8割おじさん”西浦教授またも扇動? 感染1日100人超、99%大流行…本人に聞く

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 日本で欧米を超える死者が出るかのような試算を発表し、恐怖を煽ってきた8割おじさんが、また新たな数字を繰り出してきた。

 対策をまったくとらなければ、国内で約85万人が重症化し、うち約42万人が死亡する恐れがある、と発表されたのは、緊急事態宣言が発出された翌週の、4月15日だった。

 ただし、人との接触を8割削減すれば、約1カ月後には流行を抑え込める――と付言したため、この試算を公表した北海道大学の西浦博教授が「8割おじさん」の異名をとったのは、周知の通りである。

 新型コロナウイルス感染による死者数は、たしかに40万人を超えたが、それは世界全体での話で、日本では900人余りにとどまっている。西浦氏の試算とのあまりに大きな開き
を、どう読めばいいのだろう。

 国立感染症研究所の推計で、今季のインフルエンザの患者数は728万人余り。新型コロナ感染対策の効果で、昨季の約1200万人から大きく減ったが、それでも死者数は1万人を超えたとみられる。新型コロナはインフルエンザをはるかに超える被害が想定されながら、接触減によって抑え込めたのか。

 西浦教授は緊急事態宣言後も、接触減が不十分だと強調したが、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授は、

「専門家会議で示された資料を見ると、3月28日には感染状況がピークアウトしていたのがわかります。緊急事態宣言前の自粛で十分だったということで、宣言は過剰防衛だった、と私は考えています」

 と言い切り、指摘する。

「42万人が亡くなる、という西浦教授の試算も現実的な数字ではない。現に8割削減は達成できなかったのに、感染拡大は抑えられました。そもそも数理モデルには、いくつか問題点があります。42万人が亡くなるのは、なにも対策をしなかった場合ですが、現実にはあり得ない設定です。たとえば毎日の手洗いの回数も、一人一人の対策や生活習慣でまったく異なるのに、多くの条件を設定すると式が複雑化して計算できず、接触8割減という単純化した変数でしか測れないのです。人間は心をもった存在なのに、その動きを物理学のように物体の運動量で推し量ることに、どれだけ有効性があるのでしょうか」

 しかも、8割おじさんの都合で「接触」だけが変数とされたため、感染対策も手洗いなどの基本が忘れられた感がある。だが西浦教授はお構いなしで、5月下旬、あらたな試算を示した。流行前のような生活を続ければ、東京都内の感染者数は7月中に1日100人以上になるが、人との接触を30~50%減らせば、新規感染者数を低水準に保てる――と。宮沢准教授が続ける。

「緊急事態宣言が解除され、各業界が知恵を絞り、予防策を講じて経済活動を再開しようと頑張っているとき、接触そのものを減らせと言えば、外に出ないのが一番いいとなって、解除後の努力を無にしかねません。そもそも困窮者や自殺者を増やさないために、経済活動の再開を後押しするのが国や都の役割のはずが、知事が西浦教授の試算を受けて気をつけるように呼びかけるなど、本来の役目と逆のことをしている」

 それでも西浦教授は、社会の動きを牽制したいのか、国外との往来を再開する兆しに水をさす、こんな試算を発表した。感染者が1日10人、海外から入国すると、90日後には99%の確率で大規模な流行が起きる、というのだ。入国者全員にPCR検査をし、陰性の人もホテルなどで2週間待機させても、検査の精度に問題があり、待機を守らない場合もある、とのことだが、再び宮沢准教授が言う。

「現在、都内だけでも1日10人を超える新規感染者が出ていて、市中にも無症状の感染者が一定数いるわけですが、緊急事態宣言が必要なほどの感染拡大は起きていません。しかし、この試算の影響で、インバウンド産業や観光産業、ほかにも人の行き来が必要な業界が、大きなダメージを被る可能性が高い。脅かして外出や活動を控える方向に国民を誘導することに、なんの意味があるのか」

 これに、西浦教授はなんと答えるか。

「当方の分析はあくまで感染症数理モデルの検討結果で、経済学の問題は別途検討されるべきものです。また、政策の最終意思決定は政府にあります」

 そう前置きしたうえで、都内の1日の感染者数が100人を超える、という試算については、

「内々で渡している議論中のデータを東京都が即時公開する判断をされ、それを受けて記者の方が記事にしてしまった状態」

 で、まだ議論ができないというが、こう加えた。

「新型コロナウイルス感染症の流行対策や関連する努力は、多くの場合、そのままだと社会的マイノリティを押しつぶしてしまう。だからこそ、それぞれのセクターでのニーズをすくい上げつつ、対策をカスタマイズしていく必要があります。社会が開いていく現在、不安定な収入や雇用でしわ寄せを受け続けるグループが出がちな状況なのを、研究者個人として、私自身も大変心配しています」

 一方、感染者が1日10人入国すると……という試算についてはどうか。

「これまで日本国内で確認された感染者の多くは、接触歴がすでに判明していますが、その入国する10人は、接触の確認がされていない感染者が一挙に生じることを意味する。それが3カ月くらい継続すれば、流行が起こると思います。私が行ったのは、パンデミック中の人の移動が包含するリスクについての検討、発表ですが、それと政治がカバーすべきリスク管理は、一定の距離をもって理解していただきたい。感染症の制御は人権や自由といった概念と相性が悪く、個別の事例で観光業や交通業に影響が及びやすいと思う。しかし、分析を踏まえて国際移動の程度について決断するのは、政治の役割です」

 そして最後に、

「感染症疫学(特に数理モデル)と経済学の問題を混在した状態で、議論は感情的に行うべきではない」

 と、あらためて強調したが、西浦教授がどう言おうと、新型コロナへの過剰な恐怖心を煽られた人たちは、彼の数理モデルに恐れをなして経済を止めてしまうし、その不安心理は政治の決断に影響を及ぼす。そのことを踏まえず、人間を物体のように扱った試算を出し続けても、感情的な議論がどこまでも繰り返されることにしかならないだろう。

週刊新潮 2020年6月18日号掲載

特集「コロナという不条理」より

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