Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「弊社は派遣社員の方を正社員と同様に扱っております」が全然フェアじゃなくて驚いた。

フェアとアンフェアの違いって何だろう?今日、取引先の担当者の口から「仕事はフェアにやらないといけない」というフレーズが出たとき、そんなふうに思った。

数年前、某企業の工場の社員食堂リニューアルに携わったときも、当時の担当者から似たようなフレーズを聞いた。「弊社では、派遣で来て働いていただいている方も、社員と同じ1人のスタッフとして大切に扱っております」と彼は言った。だから社員食堂も工場で働く人全員に開放しているのだと。工場見学の際、3~4社の作業着を見かけた。あれは派遣スタッフだったのだろう。依頼された仕事は、生産ライン拡張にともなって予想される増員に対応した食堂リニューアル・プランの作成である。何回かの打ち合わせを経て、概案がまとまってきた段階で、精算方法をどうするかになった。そちらの工場では現金と各種カード対応の券売機を使っていた。券売機で発行された食券を提供カウンターで食事と引き換える、昔ながらの方法だ。

「最近はもう券売機方式は古いですね。社員カードを利用して、提供カウンターに設置した端末で精算する方法が主流ですよ」と話をした。「それだと社員しか使えなくなりますよね」「ですね。社員以外には別のカードを発行することになります」「あーダメダメ」彼は即座に却下した。「派遣の方々や協力会社の方々も社員と同じでないと。フェアが大原則ですから。それにシステムを変えるのは今回のリニューアルでは想定していませんから」実に素晴らしい会社だと思った。そのときは。「 なるほど、それならこれまでと同じように利用者全員がフェアに券売機を使うやり方ですね」と僕が言うと「そこでちょっと相談があるのですが」と彼は切り出してきた。その相談とやらに僕は驚いてしまった。次のような内容だ。券売機はメニュー拡張に伴って新規導入をするが、その際、二重価格を設定できないか?というものである。意味がわからなかったので質問すると、社員とその他スタッフとで価格を変えたいとのこと。「社員と派遣社員には合理的な理由があるので福利厚生で差をつけています」と彼は「フェア」を強調した。何が合理的なのか今でもよくわからない。要するに、派遣スタッフには社員より高い価格設定をして、社員との差額を委託管理費から差し引いて欲しいという依頼であった。たとえば社員は300円だが派遣社員は500円というふうに。実際に社員と社外とで価格差をつけている企業は多い。社員カードで決済すると社員価格が適用されるようなカタチで行われる。もちろん、それは派遣で働くスタッフにオープンにされている。とはいえ派遣社員は経済的に厳しいので、価格差をつけている、とある企業の社員食堂で、派遣で働いている人たちは自宅から持ち込んだ弁当を食べていたのを見たことがある。

だが、彼の依頼は価格差をつけるというだけではない点が特殊であった。《今までのやり方を変えずに価格差をつけたい。価格差はつけるが派遣スタッフの気持ちに配慮して、社員が社員価格で食券を購入しているのを知られないような方法を考えて欲しい》というものだったからだ。きっつー。僕は、苦し紛れで、同一メニューに社員とその他で二重価格ボタン設定する「別ボタン方式」、社員とその他とで違う場所に設置した券売機を使う「券売機自体を分ける方式」を提案したが、いずれも「フェアでないから」という理由で却下。結局、社員だけにキーカードを発行して、そのカードを券売機に差しているあいだだけ社員価格のボタンが液晶に表示される方式が採用された。怪しまれないように「キーカードは社員の食堂利用率データを取るためです。総務部」というポスターがご丁寧に貼られた。その仕事の後すぐに会社を辞めてしまったので、確かなことは言えないけど、変わっていなければ今もあの工場で働く派遣社員たちは、正社員の倍近い価格を同じ食事に支払っているのを知らずに社員食堂を使っているはずである。

 打合せの終わりに、担当者の人が「私もこんなことはやりたくないのですけどね」と言った。同調して「これがフェアなんですかね」と思わず呟いてしまった。それから二人で、うーん、と首を傾げたのを今でも覚えている。「でもね、アンフェアだからこそ見た目だけでもフェアでないと」と彼は言った。だったら社員と派遣も差別なくフェアに扱うなんて言わなきゃいいのに、とは口が裂けても言えなかった。やり方はフェアかもしれないが、見方を変えたら派遣社員の人から搾取した金で、社員食堂運営を楽にしてるようなものだからだ。恩恵を受けるのは会社、そして正社員。

フェアにアンフェアをやるなら、それはフェアじゃないのではないか。僕には何がフェアなのかわからなくなってしまった。今はフェアにフェアな仕事をやりたいと強く思っている。言ってみればそれが僕の軸だ。もちろん、仕事なのできれいごとばかりは言っていられない、アンフェアなことをやらなかえればならないときもある。だからこそ、自分が戻っていける場所として《なるべくフェアでありたい》という軸が欲しいのだ。そういう強い軸を持ち続けることが、もしかしたら仕事にかぎらず人生においていちばん大事かもしれない。ま、ああいう仕事は楽しくないからなるべくやりたくない。悪事の手伝いしてるようで、きっついし。(所要時間25分)