山田祥平のRe:config.sys

普通のPCが普通に買えない

 PCのコンシューマ向け市場が冷え切っているらしい。2020年までは好調を維持しそうな法人向け市場とは大きく異なる様相だ。

 だが、この停滞は、本当に避けられないのだろうか。

「こあいさんかごで、はちじー」

 親戚から電話があった。80歳超の女性である。

 どうやらPCの調子がおかしく、起動して使えるようになるまで30分もかかるという。もはや限界と思って買い換えを決めたという。

 話をきくと、近所のパソコン教室では、出張サービスで調子の悪いPCのメンテナンスを引き受けてくれるところがあるらしい。通っているわけでもないが、チラシを見てそのサービスを依頼して見てもらったところ、やはりそろそろということだったそうだ。有料のサービスではあるが、これまでもちょくちょく利用していたらしい。

 現行機は、10年近く前の液晶一体型PCだ。ノートPCも考えたが、やはり大きな画面で使える一体型がよいということで、そのサービス氏に相談したところ「こあいさんかごで、はちじー」なら何でもいいんじゃないかというアドバイスがあったそうだ。

 サービス氏のアドバイスはそこまでで、結局、ぼくのところにSOSが入った。量販店で「こあいさんかごで、はちじー」と言えばわかるかと訊くので、最初は何のことかと思ったのだが、「Core i3かCore i5で8GBメモリ」ということのようだ。じつに的確なアドバイスだと思う。

 そのスペックなら不満を感じることはないだろうし、それなりに長く使えるはずだ。ストレージはいくらなんでも1TB以下の製品はないだろう。

 そして、それがプロセッサとメモリ容量のことだと伝えたのだが、当然、うまく理解できない。それはどこで買えるのかと聞かれる。

 とりあえず、「身長と体重のようなもので、170cm/65kgの体格の持ち主がいっぱいいるように、その仕様を持つPCは、どのメーカーでもたくさんある」と答えた。

 とにかく買うから何を買えばいいのかを教えてくれというので、調べるための時間をもらって電話を切った。

店頭モデルのバリエーションが乏しい

 現行機はNECの一体型VALUESTARだ。ということは、同じNEC機か富士通機がよかろうと判断して、Webで製品を調べ始めた。店頭モデルの型番を調べて伝えれば、量販店でそれを告げるだけで買えるはずだ。

 ところがないのだ、普通のPCが。

 サービス氏が言うところの、「Core i3かCore i5で8GBメモリ」のベーシックなPCがない。メモリが4GBしかなかったり、8GBあるかと思えば地デジTVチューナー搭載やら4K液晶やらのプレミアムPCだ。

 オーソドックスなPCが店頭モデルとしてラインアップされていないのだ。そもそも富士通(FCCL)は、店頭モデルを同社Webで探すことができない。

 両社ともに、ダイレクト販売であれば、カスタマイズして希望のスペックのPCが手に入る。だが、それはさすがに知識のない高齢者には荷が重い。

 さらに、クレジットカードがないという。ご主人の家族カードを使っていたが、ご主人が亡くなって以来、クレジットカードとは縁なく過ごしているという。新たに申し込もうにも、70歳超の新規入会は審査が通らないそうだ。

 代わりに購入するというわけにもいかず、フルカスタマイズではなく、某社直販専用モデルの型番を伝え、それにOfficeをつけるということで、フリーダイアルの電話注文をしてもらい、代引きでの決済で無事に購入が完了した。

 納品は12月上旬で、まだしばらく先だが、楽しみにしているということだった。届いたら届いたで、いろいろトラブルも出るだろうが、先のサービス氏がセッティングなどを引き受けてくれるらしく、サポートの心配はなさそうだ。

シルバー世代にはつらい、PC購入のハードル

 「Core i3かCore i5で8GBメモリ」はいくらくらいなのかと聞かれ、8万円前後で買えるだろうと返事をしたのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 この価格では、富士通やNEC PCは難しいので、今回は日本HPの製品を選んだ。HPのプリンタを使っているらしく、インクの交換でダイレクト販売を使ったこともあり、親近感があるようだったからだ。

 それでも、Microsoft Office Personal 2016を追加するために16,000円+税が必要で、合計金額は税込99,144円と、ちょっと予算オーバーだ。

 前のPCにはOfficeがプリインストールされていたので、ちょっとした作業にExcelやWordを使っていたらしい。だからOfficeは必要だ。よくよく考えてみればスーパー80歳ともいえる。

 決めた製品は、Core i3-8100T、8GBメモリに1TB HDD、タッチ対応21.5型フルHD IPSディスプレイの一体型ということで、サービス氏のアドバイスにも合致する。また有線LANポートもあるので、現行機との置き換えに際して、新たにWi-Fiを整備する必要もない。既存のルーターとケーブルで接続するだけだ。

 PCでTVを見れる必要がなく、BDドライブなどもいらない。Wi-Fiすら不用。年齢のことを考えると、PCを買うのはこれが最後になるかもしれないと言われて、「そんなこと言わないで長生きしてくださいよ」と言いながら、こうした状況はちょっとまずいのではないかとも思ったのだ。

 この年代のコンシューマにとって、PCという買い物は、とてつもなくハードルが高い。それに著しく高価という先入観もある。

 だからこそ、オールインワンの悩まずに済むベーシックな製品がほしいし、そのほうがわかりやすい。量販店に行って、これくださいと言って、それで終わりの製品だ。

 いくらなんでも、調子の悪いPCで、各社のダイレクト販売サイトを調べ、望みのスペックを指定して買い物をするというのは無理だろう。だからこそ店頭モデルに頼りたいのだ。

 10年前の一体型PCといえば、NECなら19型程度の液晶でCore 2 Duo、メモリ4GB、500GB HDD、OfficeつきのWindows Vista搭載で20万円程度といったところだろうか。

 彼女同様に、以来10年間使い続けてきたPCを新たに買い替えたいというようなシルバー世代は少なからずいるんじゃないか。かなり確実な潜在需要だ。スマートフォンにも置き去りにされ、一通り使えるPCだけが頼りだからだ。

 そういう人たちに、あまり難しいことを考えずに、リーズナブルな価格で、リーズナブルな環境がオールインワンで手に入るような施策を、各社ともに考えた方がいいと思う。

 そうでなくては買い換えをあきらめるシルバー世代の続出だ。