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「和田彩花さん、ありがとう」妻の代打で握手会へ。

2018年4月、出産間近の妻と産前ラストツアーの一環で石川県に旅行しようっていうその前夜。Googleマップに保存した数々のスポットをおさらいしながら「ナイスなルートだしこれはいい旅行になる!」と高まってたタイミングでスマートニュースの通知がスマホに出たので、「これはいい旅行にならんかもしれんな」と思ってしまった。軽めに覚悟決めて妻に話す。「あやちょ卒業…!」。

妻は、アンジュルムのメンバーであり、来週6月18日にグループを卒業する和田彩花をもう長いこと推している。彼女がタフな日々を送ってたとき、凛として輝くあやちょの姿に励まされるものがあって的な発端を彼女から聞き、熱しやすく冷めやすい自分は「なるほど、10年近くも推し続ける人の根幹にはそれが」と学んだ。
ほかにも彼女からは、握手・チェキなど接触イベントの日の身なりの整え方から丁寧な課金イズムまで、模範的ファンのふるまいが何かも教わった。それは自分にとって尊敬に値するメンタリティで、そして成人済みのひと1人をそうさせるアンジュルムすげえな、ありがとうございます!と思わされる。そして私は、自分とデートするときにも使うジョー・マローンの図書室とアブサンの香り的な香水をつけて接触イベントに出かけた妻の、その残り香を感じながら「そんな姿勢を、おれは超愛している…!」と内なる握り拳に力を入れた。

グループ卒業が発表された2018年4月当日は、自分も「大器晩成」「七転び八起き」という言葉にオッと反応するとか「やった」まで入力したら「ヤッタルチャン」が検索候補に出る程度に知ってきた具合だったが、まあ何より妻の行く末をゴリゴリに案じた。しかし意外と彼女は動じない。「卒業しても『アイドル』でいたいし、歌やダンスだけでなく様々な表現を通して自分の思いを伝えていきたい」とあやちょは言っている、それに卒業まで1年も時間をくれたので。そう話す妻のことを超応援しようと思った。まだ見ぬ育児とかが襲いかかってくる予定だけど、推すための時間はかなり高めの優先事項として持っておこうと。かくして旅行は穏やかな時間として過ぎた。

卒業発表の翌月に、おれの妊婦見守りエッセイ本&我々の第一子が世に放たれた。そして、それらは1年間のcakes連載&夫婦ツーマンセル育児という怒涛の日々がそれぞれスタート。育児の筆舌しがたいハードな日々は約6万字ほどしっかりcakesに記した8月には本にもする(ヒュー!)が、それとは別で実直に活動するアンジュルムに対して妻のリリイベやロッキン参加中のお守り、地方ハロコンの送迎など多少はアシストできたんじゃないかと思っている。
そんな自分の横で、リリイベかなんかで「あやちょに似顔絵を描いてもらえる」という企画があったにもかかわらず赤子の似顔絵を描いてもらってた妻は絶好調に面白く、そして推せた。

波乱万丈ながらも「46億年LOVE」って超いい曲をテーマソングにして我らの生活はとても充実し、19年5月には子供が無事1歳になり、育児連載も完結した。とはいえこの月はくそみそにハードで、GW直後から妻は職場復帰&子供は保育園でウイルスもらいまくり。

そんなときに推し活スケジュールが舞い込んだ。5月28日、書泉ブックタワーでの和田彩花フォトブック発売記念握手会。妻はそこへどうしてもたどり着ける気配がない。もともと仕事で黄信号だったところに、なんと子供が体調不良で1週間まるごと保育園を休む赤信号事態にになり、しかも当日はサポートするとか言ってた私が日帰り出張で見守れない。

そして宙に浮いた握手券のチケット。それは最終的に「出張の帰りにおれが行く」という用途で消費されることとなった。本人は人付き合いがわからぬ。本人は、アイドルを推した経験のない男性である。主にインターネットして暮らして来た。けれども妻とその推しに対しては、人一倍に興味があった。私は妻をなんやかや言って尊く想ってゐるし、そんな楽しい人に、いい感じで日光を当て続けたアンジュルム和田彩花には本当に感謝していた。だからフォトブック購入を方便にして、ご挨拶の機会をもぎ取ったのである。接触イベは、たぶんヒャダイン曲に打ちのめされて「ミライボウル」リリイベでチェキを撮ったももいろクローバー以来8年ぶりくらいだ。

意外なことに、握手会は尋常ではないくらいに緊張した。心のどこかに代理とか体験☆みたいな軽い気持ちがあったことは否定しないのに、こう。ああそうだ、おれ女の子とうまく話せないタイプの男性やってたわ…と、書泉ブックタワーのせまっくるしい階段で待機列に並びながら思い出すくらいに。脳内で何度も「短い時間の中で『ありがとうございました』以外に詰め込む情報を考えねば」と思考をめぐらし、ああショートスピーチも苦手だったわと思い出してさらに窮地という感じでいて、逃げるように周りを見回す。
階段列は5人にひとりが女性で、20人にひとりが外国人。その幅広い層は妻の推しの人間力のすごさを証明しているかのようで、謎に誇らしかった。あと、「握手会を通じて和田彩花に何を伝えるか」が一人ひとり違うことは興味深かった。スマホのインカメで髪型の最終メンテをする人がいれば、タイトなジーンズのポケットに親指だけねじ込んで今夜キメる男性も。そして握手会場となる最上階に近づくたびに香水や汗ふきシートの芳香が漂い、けれどもジトッとした汗臭さをかき消せず喧嘩してる感じで鼻をくすぐってくるので、いよいよ本番かと焦りは増した。

蛇行する待機列をついたてが遮り、その奥から威勢のよいファンと和田彩花の声が聞こえてくる。あやちょの声はモヤッとする書店内にぴっと線を引くように通るからすごい。そしてその声は敬語には丁寧に、ウェイノリにはタメ語にと綺麗に切り替わっていくし、顔見知り特有の対応やこの日だけで何度も回ってる人にそれ用の声色となる。途方もなく高い能力!それだけで感心し、改めて「いや自分の番もくるんやで」ということを思い出し、ついに自分もインカメで髪をなんとなく撫でた。

書泉の店員にむかって消毒した手をブラブラとやり、ついについたての奥へ。眼の前で常連と思しき男性が「本で一番好きな写真どれ!?」「んー、全部!(和田)」「はいお歩きくださいー(スタッフ)」と秒の一問一答だけして剥がされて「すごっ!」と思いながらよたよたと和田彩花さんの前まで進んだ回転寿司。わずかな時間に「今日来れない妻が世話になったな!ありがとな!」的な挨拶。改めて見た至近距離あやちょは美人かつ意外な親しみやすさがあり、握手させていただいた手も、シュッとしてて少し暖かかった。過去にフジロックでジョーストラマーを見かけ、うわレジェンドさんや!と握手してもらったときはぼってりでかくてホカホカでしたが、いや握手から得られる情報ってのも個人個人で違うもんだねと。正直いままで握手会は(あとイラスト無しで名前だけ書かれるタイプのサイン会も)何がありがたいのか全然わからないけど、その行為で伝わるものってあるな、と、知った。時間いっぱいにこちらがまくし立てるだけで終わった握手会、あやちょはちゃんと聞いてくれて最後に「ありがとう」と言ってくれた。握手会のコミュニケーションとしては失敗、だが目的は果たした。

書泉を出て、左手に会社の荷物とフォトブックと出張土産の豚まん、右手に和田彩花の跡を持ってプルプルと帰宅(Apple WatchのモバイルSuica最高)。子供の寝かしつけを終えた妻としっかりと握手し、ミッション完了。外国人ファンが剥がしに動じずパワープレイでどうなんという愚痴と、目に鮮明に焼き付けた光景を一つひとつ説明する妻は例によってニコニコしており、気づいた和田さんの魅力を伝えると「そうなんだよね」とうなずくなどしていた。いい体験だったし、いい感想戦だった。

日本武道館でのアンジュルム和田彩花ラスト公演が、いよいよ週明けにまで近づいてきた。結婚生活という、パートナーの体験も私のライフの一部になる暮らしを営んで1年半。短期ながら濃厚な日々に置いて初となる「推しの節目」は、妻に何をもたらして、それが夫に(あるいは子にも?)いかなる形で伝わってくるのか。好奇心のかたまり(37歳会社員)はとてもドキドキしている。決して安穏とするばかりじゃない夫婦関係だけど、いや結婚はいいぞ…!中継やるからスカパー入っとけばよかったーとちょっと後悔しつつ、当日は1歳児と遊びながら赤く光ったキンブレ2本持ちお姉さんの姿に想いを馳せる所存である。

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