足利学校の国宝の漢籍 日中の研究者が連携してカラーで刊行

根岸敦生
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 「日本最古の学校」といわれる国史跡足利学校(栃木県足利市昌平町)が所蔵する、国宝4点を含む漢籍本14種の写真を撮影し複製した「日本足利学校蔵国宝及珍稀(およびちんき)漢籍十四種」(42巻)がこのほど、中国・北京大学出版社から刊行された。国内ではこれまでモノクロ版はあったが、カラー版は初めて。日中両国の研究者の連携で実現した。

 こうした写真版の複製本は「影印本(えいいんぼん)」と呼ばれる。

 足利学校では儒学などが教えられていて、日本にキリスト教を伝えた宣教師フランシスコ・ザビエルは書簡集「大書簡」で「坂東にある大学校」と記した。儒学を中心に古い漢籍が数多く残っており、うち中国・南宋期の「文選(もんぜん)」「礼記(らいき)正義」「周易註疏(ちゅうそ)」「尚書(しょうしょ)正義」の4点は国宝に指定されている。普段は非公開でなかなか見られないため、当時の注を記した朱墨の書き込みや、本の来歴を示す蔵書印の印影なども鮮明に分かるカラー版の影印本の刊行が待たれていた。

 今回は北京大学の「国外所蔵善本叢書(そうしょ)」という事業の一環で刊行が実現した。

 中国国内では失われたり完全な状態では残っていなかったりする漢籍のデータをデジタル保存する取り組みで、中国古代学が専門の稲畑耕一郎・早稲田大名誉教授(74)が仲介役となり、足利市に複製を申請し2017年から撮影した。

 「漢籍への関心が薄い日本では、学術的に価値がある本でも商売としては成り立たず出版を引き受けてくれる版元がない。一方、中国は国内に残っていない文書の刊行に熱心で実現できた」と稲畑名誉教授。これまで国立国会図書館国立公文書館宮内庁書陵部が所蔵する漢籍などがこの事業でデジタル化され、本が刊行されているという。

 「日本足利学校蔵国宝及珍稀漢籍十四種」は、日本での販売価格は1組73万2千円。史跡足利学校と市立図書館に、1組ずつ寄贈された。稲畑名誉教授は「古典には人間の知恵が詰まっている。地元の方々にはぜひ手に取って足利学校が誇る国宝の書籍の雰囲気を味わってほしい」と話す。根岸敦生

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