「貿易戦争」一時休戦 トランプ氏、大統領再選へ好材料

 トランプ米大統領は29日、大阪市で開かれたG20サミットの全日程を終えて離日した。

 一連の会議日程の中で最も注目を集めたトランプ氏と中国の習近平国家主席による首脳会談では「貿易戦争」の一時休戦を決めた。米中対立のこれ以上の先鋭化による経済の減速を回避できたという意味で、トランプ氏にとり来年の米大統領選での再選に向けた好材料となるのは確実だ。

 中国は、米中貿易摩擦の解決には米国による制裁関税の完全撤廃、米商務省による中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)のブラックリスト掲載を解除するのが前提だと要求しており、依然、双方の主張の隔たりは大きい。

 しかし、米中首脳が否が応でも同じ会議の場で顔を合わせるG20の枠組みがあったことで今回の会談が実現し、曲がりなりにも両首脳が「信頼醸成」を確認できたことは、形骸化が叫ばれて久しいG20首脳会議に一定の意義があることを示したともいえる。

 一方、トランプ氏は29日の記者会見で習氏を「200年に一人の偉大な指導者」と称揚しただけでなく、米露首脳会談ではロシアのプーチン大統領を「ウラジーミル」とファーストネームで呼び、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子やトルコのエルドアン大統領を「友人」と位置づけるなど、独裁・権威主義体制国家の指導者との親密ぶりをことさらにアピールした。

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長なども含めて、トランプ氏はこれらの指導者と「うまくやっていける」と自賛しており、それが「トランプ外交」の真骨頂であると自任している節さえある。米国および同盟諸国の権益が維持されるという前提が守られれば、それ自体は一概に間違いとはいえない。

 特に、中国に対しては習氏との仲の良さを誇示する一方で、中国に対する貿易を含めた諸分野での強力な圧力を維持している点では、「硬軟両様」の技を駆使して中国を追い詰めているとも言える。

 例えば中国による南シナ海での覇権的軍事行動や、新疆ウイグル自治区での少数民族の弾圧や人権抑圧といった問題について、トランプ氏自身による言及が決して多くはない点は気がかりであるものの、今回のG20における「トランプ劇場」は、それなりの成果を上げたといえそうだ。(黒瀬悦成)

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