登山のおかげで「仕事で何かができる人」になれなくてもいいと思えるようになった

 月山もも

登山

こんにちは。山と温泉を愛する女一人旅ブロガー、月山ももと申します。

会社勤めの傍ら温泉と登山を絡めた一人旅を楽しみ、「山と温泉のきろく」なるブログを更新している私ですが、今回は、普段ブログに書くことのない「会社勤め」の部分について書いてみたいと思います。

一人旅を始めてから10年近く、登山を始めてからちょうど8年たちますが、もともとはインドア派で、学生時代から旅や登山が趣味だったわけではありません。恐らく、会社勤めをしていなかったら一人旅も登山も始めていなかったのではないか? と思います。

私は、いわゆる就職氷河期の後半に大学卒業を迎えました。自分よりも勤勉で社交性もあると思っていた同級生たちが「100社近く回って内定ゼロ」と嘆いている状況に恐れをなし、社会人になるタイミングを遅らせるためだけに大学院に進学。在学中にほんのりと景気が上向き、修士課程の修了と同時にどうにかこうにか就職することができました。本当に、恵まれていたし幸運だったと思います。

「本をつくる人」になりたいと思って出版社に就職したけれど

就職先は占いの本を専門に作っている小さな出版社でした。大学も院も文学部でしたし、実家は本だけは惜しみなく与えてくれる家だったので、子供の頃から書店や図書館が、本が好きでした。できるものなら「本をつくる人」になりたいと思って就職活動をしていたのです。

希望が叶ったと思って入社したのですが、配属先は書籍や雑誌の編集部門ではなく、Webコンテンツを制作する部署でした。既に出版不況は始まっており、入社した会社でも稼ぎ頭はWebコンテンツ制作部門だったのです。iモードをはじめ携帯電話でインターネットが見れるようになり、占いジャンルが特に盛り上がっていた時代で、IT系の企業から注文を受けてひたすら占いコンテンツを作り続ける日々が始まりました。

「本をつくれない」ことへの失望はありましたが、それよりも「無理かと思っていたけれどなんとか就職できた」喜びと「ここでしがみついてがんばらなかったら後がない」という焦りの方が大きかったので、苦ではありませんでした。

子供の頃から「一人でいること」が好きで、人と積極的に交わりたいタイプではなかった私は「家に帰ったら自分以外の誰かがいる生活はしんどいし、ずっと一人かもしれない」と漠然と感じていたため、もしずっと一人でも生きていけるよう、稼げる人間になりたかったし、そのための武器が欲しかったのです。

正直なところ給料も安かったのですが、納期に間に合わせるために深夜残業をしたり、休日に自宅で仕事をすることも厭わずに働きました。何もできない自分が不安だったし、何よりも若かったので、無理もきいたのです。

「何かができる人」になりたくて転職を重ねた

新卒で入社した会社には3年間勤めましたが、自分なりに工夫も重ねて仕事は難なく回せるようになったのに、武器となるような「何かができるようになった」実感はありませんでした。出版・編集部門は先細る一方で異動も叶わず、「本をつくる人」になることをあきらめた私は、初めて転職をすることになります。

今後も先細りになっていくことが予想される出版業界よりも、Webの世界で「何か」ができる人になりたいと考え、さまざまなジャンルのサービスをいくつも運営しているいわゆるITベンチャーに転職しました。

「これまでの経験も生かせそうだし、新たな経験も積めるだろう」と思って入社したものの、いきなりキャパシティ以上の数のサービスを任せられ、外注先とのやり取りと日々の更新業務とトラブル対応に追われることになります。

1社目でコンテンツ制作を経験していたこともあり「自分で作ったものに最後まで責任を持ちたい」と思っていたのですが、それどころか納得のいかない状態のものを「もうこれで諦めるしかない」と妥協して出さざるを得ない日々の繰り返し。同僚もどんどん倒れて辞めていき、そのたびに担当サービスが積み増しされます。あっという間に私自身も疲弊して、半年ほどで2度目の転職に踏み切りました。

深夜残業がないことを条件に転職を決めた3社目もITベンチャーで、2社目よりも規模が小さくワンマン経営でした。「深夜残業禁止」も、入社当時に社長が掲げていた方針の一つだったのですが、業務についても社内のルールについても、社長の気分でころころと方針が変わるのです。なんだかもう疲れ果てていたため何も考えずに従っていたのですが、その折りに体調に異変を感じ、ちょっと深刻な病気が発覚します。

入院・手術を経て幸い大事には至らずにすみましたが、気がつけば20代も後半にさしかかり「もう無理がきく年齢ではないんだな」と感じ、3度目の転職を考えることになります。

3度目の転職にあたり、1度目、2度目のときと方向性を変えた部分がありました。

  • 「やりたい仕事」にこだわらない
  • お金は大事
  • 休みも大事

の3つです。

それまで2回の転職で私は「やりたい仕事がやれる職場かどうか」に最もこだわっていました。

自分の中に明確な「武器」が欲しいという気持ちが強かったので、強化したいスキルを身につけられる職場であれば給料は安くても構わないし、休みが取れるかどうかも気にしませんでした。

ですが入社してしまえば「面接のときに聞いてたのと違う!」仕事をやる機会も必ずあります(というか、ほとんどが聞いていたのとは違う仕事でした)。仕事内容を重視して選んだ職場では、そんなとき明らかにモチベーションが下がってしまったのです。

「望んでいた仕事ができると思っていたから、給料は安くても構わないと思っていたのに」と後悔し、休みが欲しいと願いました。それならば次は、逆にすればいい。

結論にたどり着いた私は、仕事内容にはあえて希望を出さず、職務経歴書を見て一番高い値段をつけてくれた会社に3度目の転職をはたしました。

一人で何かを成し遂げられる、なんてことはなかった

結果から言えば、新卒入社から数えて4社目のこの会社で、私は今も働いています。

ただし「現職場サイコー! 転職大成功!」と言いたいわけではなく、ここでも葛藤はありました。

給与と休暇にこだわって選んだ職場だけあって、福利厚生という面では4社の中で最も「ちゃんとしている」会社だったことは間違いありません。残業も減って人並みに休めるようになり、時間とお金、そして精神的にも余裕が生まれました。

余裕ができたことで考えたのですが「何かができる人」になりたいといつも願っていたけれど、突き詰めるとそれは「強力なスキルを持っていて一人で何かを成し遂げられる人」というイメージでした。

昔から一人でいることが好きで人付き合いが苦手だったので、一人で何でもできる人になりたい! と思っていたのですね。

しかし実は「一人で何かを成し遂げられる人」など会社組織の中には存在しないのではないか? と気付きました。私が目指してきた「何かができる人」は幻だったのです。

ただ、「一人で何かを成し遂げ」ているわけではないですが、会社の中でも「コミュニケーションを厭わず、周囲の協力を得られる」人は、仕事で成果を出していることが多かったように思います。

それならばやってみよう、と当時の私は思い、社内で「仕事ができる」と言われていた人のまねをして精一杯社交的に振る舞ったのです。会社の行事に参加したり、他部署の人や役職者とも積極的に交流したりするようにしました。

結果、とても疲れてしまいました。

「一人で何かができる人」になることは叶わなかった。そして、自分は周囲の協力を得て成功を収められる人にもなれそうにない。それならいっそ「もう本当に一人になりたい」と、一人で旅に出ることにしたのです。

一人旅から一人登山へ

実は、ちょうどこの頃周囲ではやっていたことと、適齢期だったこともあり、婚活をしていたんです。一人でいることは好きだけど、将来への漠然とした不安はある。もし一緒にいて心地いいと思える人、協力しながら歩めると感じられる人に出会えるのであれば……とやっていました。そして、当然ながら婚活にも疲れていました。

休日に自宅にいるとつい、いろんなことを考えてしまう。だから週末はできる限り別の土地で過ごそうと思い、山梨や栃木、群馬など、東京から比較的近い温泉地に一人で泊まりにいくようになりました。学生時代に日帰り温泉施設でバイトもしていましたし、もともと温泉は好きだったのです。

登山

騒がしい団体客などいない家族経営の小さな宿に一人で泊まり、部屋でテレビを見ながらその土地の名物を食べて地酒を飲み、お酒が抜けた深夜や早朝にかけ流しの温泉を独り占めしていると、平日に会社で積み重なった疲れがお湯にとけていくような気持ちになりました。

「やっぱり、一人は楽しい」「これでいいじゃないか」とお湯の中で一人頷いたりして。

登山

よく泊まっていた山麓(さんろく:山のふもとのこと)の宿は登山の前泊に使われることも多い宿で「登山と温泉を趣味にしている人」と、湯に浸かりながら話す機会がたまにありました。

最初は「登山なんて!」と思っていたのですが、栃木県の奥鬼怒温泉郷にある手白澤温泉などの「山道を歩かなければたどり着けない温泉宿」の話を聞くにつれ、いつの間にか「いつか登山してみるなんていうのもいいかも」と思うようになり、それからいくつかのきっかけがあって、私は一人で山に登り始めました。

とりあえず、山に登れて温泉に行ければいいんじゃない?

危険を伴う趣味ですので、万人には勧められないところもありますが、登山は本当にすごいです。

登山

社会人生活を送る中で私の頭を悩ませていたのは、単純に「人づきあいがしんどい」ことだけではなく「必ずしも努力に見合った成果が得られるわけではない」ことにもありました。地道に努力を積み重ねても達成感が得られにくいのです。

仕事は自分だけで進められるものではありません。しっかりやっていたつもりでも取引先や外注先、社内のメンバーなどのどこかがボトルネックになり、予定どおりに進まないということはよくあります。それから、上長といい関係を保っていないと、希望した予算が認められなかったり無理な目標や納期を設定されてしまったりで悔しい思いをすることも。だからこそ「密にコミュニケーションをとって周囲の協力を引き出せる」人は組織の中で成功しやすい印象があります。

それに比べると一人登山は、完全に自分一人で計画・実行し、ときには一人で困難を乗り越えて、目標に到達できる趣味なのです。

一人で登山をしていると「この岩場を本当に一人で乗り越えられるのか?」とか、急に天候が崩れて「本当に目的地までたどり着けるのだろうか?」というような「あきらめて、もう帰ろうか」と悩む出来事にちょいちょい遭遇します。

登山

ですが、自分のレベルにあった山を選んできちんと計画して登っていれば、少しの遅れや予想外の出来事があっても、乗り越えられることがほとんどなのです。もちろん、本当に引き返した方がいい場合もありますので見極めは重要ですが、たとえ引き返したとしても「深刻な状況に陥らずに帰ってこれた」ことは、それはそれで自信につながります。

仕事では、計画どおりにいかなかったり目標に到達できなかったりして落ち込み、自信をなくすことも多かったのですが、登山をすることで自分への自信を取り戻すことができました。「何もできない」自分がいつも不安でしたが、そんな自分を受け入れられるようになったのです。

今はもう、会社の中で成功したいとか、出世したいというような望みは持っていません。とりあえず、山に登れて温泉に入れるだけの収入と休暇が得られているのだからそれでいいじゃないか、と思うようになりました。

また、そういうふうに割り切れるようになったので漠然とした不安から行っていた婚活も「そもそも本当に結婚したいのだろうか?」と思えるようになり、休日は山に行くために空けておきたいので婚活も止めました。

転職も、今のところは考えていません。会社の状況が変わることもありますから、今後も考えることがないとは言いきれませんが、山と温泉に行ける生活が継続できるなら、大抵のことは耐えられるのではないか? と思うのです。

「山と温泉のために生きたい」と思ったら、働き方を変える日が来るのかもしれない

仕事ではなかなか得られなかった達成感を登山で得ることができたから、むやみに転職しなくなったわけですが、同じように、趣味を得たことで仕事のストレスが軽減できるようになった人はけっこういるんじゃないか? と思うのです。

私の場合は山でしたが、たとえば料理でも、生け花でも、英会話でも。ヨガでも、マラソンでも水泳でも。努力したぶんの成果が、自分自身ではっきりと感じられる趣味なら、同じような効果があるのではないでしょうか。私はもともと温泉が好きで、温泉と一緒に楽しみやすいこともあって登山がぴったりはまったんだと思います。

登山

趣味として温泉旅や登山を楽しむ中で「このすばらしい温泉や山をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」という思いが自然と溢れてきたので、約3年前から「山と温泉のきろく」というブログを始めました。平日は仕事の後に毎日深夜までブログを書いていて「これって深夜残業三昧だった頃の生活とどう違うんだろう?」と思わなくもないのですが、山と温泉が、そしてブログを書くこと自体も本当に好きなので楽しいし、疲弊することはありません。

最近は、ブログを始めた当初に思っていたよりもたくさんの方に読んでいただけるようになり「温泉一人旅や一人登山を始めようと思っていて、読んで背中を押された」などとメッセージやコメントをいただけることもあります。そんなときは「書いてよかったなあ」と心から思うのです。(人付き合い苦手なのでレスしませんけど)

これはもしかしたら……ですが、今はまだ、細々とブログを書き続ける以外に、大好きな山と温泉の魅力を世に広める術を持っていない私ですけれど、もし「山と温泉に興味を持ってくれる人を増やすために、もっとこんなことができる!」という確信を持てたら、働き方を変える日が来るのかもしれないなあと、なんとなく思っています。

著者:月山もも (d:happydust)

もも

登山と温泉を絡めた一人旅が好き。ブログ「山と温泉のきろく」では、温泉宿への宿泊記、日帰り入浴記、旅の食事や登山の記録を更新しています。
ブログ:山と温泉のきろく
Twitter:@happy_dust

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編集/はてな編集部