トラブルが相次ぐマイナンバーカードに、3年前から警鐘を鳴らしてきたIT企業の経営者がいる。ソフトウエア開発「サイボウズ」(東京都中央区)の青野慶久社長(52)だ。企業のデジタル化を進めてきた視点から、マイナカードに突っ込みたいところとは—。(聞き手・嶋村光希子)
あおの・よしひさ 大阪大工学部情報システム工学科を卒業後、松下電工(現・パナソニック)を経て、1997年松山市でサイボウズを設立。2005年から現職。同社は東証プライム市場に上場し、連結売上高(22年12月期)は220億6700万円。選択的夫婦別姓の実現を目指す活動も進める。3児の父で3回の育休を取得した。愛媛県今治市出身。52歳。
◆誰かのメンツや利権のためにやっているとしか
—マイナカードの問題点は。
国の利便性を高めようと新しいシステムを作っても、多額の投資に見合う効果が出ているかを問いたい。コストをかけすぎている上、制度設計に問題がある。カードの交付はわざわざ国民に申請させて、自治体の窓口に取りに来させている。こうした古くさい手法で手間のかかることをやっているから、便利さはむしろ下がっている。
マイナンバー自体は国民の出席番号のようなものとして必要性は理解できる。だが、新しくプラスチック製の物理的なカードを発行して全国民に持たせる必要があるのかは疑問。僕たちの税金を兆単位で使い、時間も多く奪われている。それを強引に進めることで、どんどん被害が拡大する。制度が破綻する前にいったん立ち止まるべきだ。
—政府はマイナカードを「デジタル社会のパスポート」と呼んで普及を急ぐが、拙速な姿勢に批判が広がる。
今やマイナカードを配ること自体が目的化している。生まれたばかりの赤ちゃんにカードを配ることにどんな意味があるのか。認知症の高齢者にカードを渡して、セキュリティーは大丈夫なのか。コストもリスクも増大する一方だ。
政治的には、やめるという意思決定ができないのが大きな問題。失敗したプロジェクトをやめられず、誰かのメンツや利権のためにやっているとしか思えない。
◆「カード実物」驚きのアナログ感
—3年前から投稿サイト「note」上で問題点を指摘してきた。きっかけは。
4年前、知人のIT社長に「マイナカードの仕様がひどい」と実物を見せてもらった。カードは番号部分が隠れるようになった透明ケースに入っており、アナログ感に驚いた。
普及していないから計画はつぶれるかと思いきや、菅義偉政権になってむしろ加速しそうになり「ちょっと待て」と。やめるなら今じゃないかと声を上げた。「このシステムおかしくない?」と。少しでも変わるといいなとの思いで発信してきた。
—最近になって誤登録など多くのトラブルが続出し、情報漏えいへの不安も根強い。
トラブルが相次いでいるのは当初の予想通り。自治体の現場では膨大な手作業が発生している。手作業にはミスも起きやすい。
「政府に情報...
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