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 2019年から新たにJリーグのトップパートナーとなった企業が「いちご」である。不動産事業やアセットマネジメント事業、クリーンエネルギー事業等を展開する同社は、既存の不動産を活かして価値向上を測る「心築」という概念をベースに、Jリーグクラブが抱える課題解決を果たそうとしている。なぜ不動産企業がスポーツに投資するのか。

 いちごの代表執行役社長を務める長谷川拓磨氏へのインタビュー後編では、スポーツ×不動産、エンターテイメント×不動産に対する同社の考えを紹介する。(聞き手:上野直彦=スポーツジャーナリスト、久我智也)

いちごの看板広告がスタジアムに配置されたJリーグの試合の様子(写真@J.LEAGUE)
いちごの看板広告がスタジアムに配置されたJリーグの試合の様子(写真@J.LEAGUE)
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既存のスタジアムにはまだまだポテンシャルがある

Jリーグトップパートナーとなってまだ数カ月ですが、これまでの手応えや、Jリーグを取り巻く課題についてどう見ていますか。

長谷川 現在はスタジアムを視察し、試合観戦や各クラブの担当者へのインタビューなどを行い、レポートとデータベースを作成しているところです。もちろんJリーグからも様々なデータを提供いただいていますが、実際に足を運び、例えば駅からスタジアムへの距離感や周辺の商業施設との関係性などを見る、いわゆる「デューデリジェンス」を行っています。

 そうした中、手を付けられる部分はたくさんあります。交通インフラや駐車場の数、飲食施設の少なさなどはよく言われている事柄ですが、不動産に携わる者としてはもっと色々なことができると思えるのです。

 ひとつ例を挙げると、試合終了後に「お客様を帰さない」視点が欠けていると感じています。今は試合終了が近づくと飲食ブースは閉じられるところがほとんどですし、試合が終われば多くのお客様は真っ直ぐ駅に向かっていきますよね。しかし、試合が終わってからも飲食を提供したり、イベントを開けば、そこで楽しんでお金も落としていただける。そのような取り組み方もあると思います。

逆の言い方をすると、Jリーグの各クラブ、スタジアムにはまだまだポテンシャルがあるのでしょうか。

長谷川 もちろんです。まだまだ発展の余地が残されています。我々もビジネスとして成立させないといけませんし、そうすることでいちごが潤うだけではなく、選手やクラブスタッフの方々、さらにはサポーターにもいい影響が波及していくはずです。いちごはこれまで心築という概念をベースに、ビルに入っていただくテナントがもうかる仕組みを一緒に考えて来ましたが、それと同様のことをJリーグトップパートナーとしてもやっていき、この業界で働く人々にお金が回る仕組みを作りたいと思っています。

 さらに、選手たちのセカンドキャリアについても共に考えていきたいです。セカンドキャリアへの不安がなくなれば、もっとスポーツ選手を志す子どもも増えるでしょうし、結果的に競技の発展にもつながっていくでしょう。

いちご株式会社代表執行役社長の長谷川拓磨氏。フジタを経て2002年にアセット・マネジャーズ(現・いちご)に入社。ファンド事業、開発事業全般に従事し、不動産部門全体の責任者を歴任。2011年1月より、いちご地所を立ち上げ、マーケットにおいて、活況な中小規模不動産を活用した新規ビジネスを主として取り組む。また、これまでの開発経験を活かし、底地を活用したビジネスも展開。2015年5月にいちごの代表執行役社長に就任
いちご株式会社代表執行役社長の長谷川拓磨氏。フジタを経て2002年にアセット・マネジャーズ(現・いちご)に入社。ファンド事業、開発事業全般に従事し、不動産部門全体の責任者を歴任。2011年1月より、いちご地所を立ち上げ、マーケットにおいて、活況な中小規模不動産を活用した新規ビジネスを主として取り組む。また、これまでの開発経験を活かし、底地を活用したビジネスも展開。2015年5月にいちごの代表執行役社長に就任
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