自己都合退職を促すスキーム
この国では、よほど重大な就業規則の違反行為がないかぎりにおいては、企業が正社員をやすやすと解雇するようなことはできない。
ご存知のとおり、これはいわゆる「解雇規制」が根拠になっている。経営者にとってみれば経済活動のフットワークを阻害する足かせのようにも思えるかもしれないし、従業員の側からすれば自分たちの身を守る盾であると見えるかもしれない。これ自体の評価は多面的なものといえる。
しかし一方で、多くの支社や営業所、グループ会社を抱える大企業には独自の「裏技」がある。その顕著な事例が、今回「損保ジャパン日本興亜の4000人削減計画」によって大きな話題となった「系列会社への転属」である。
この事例は「会社側としては、容易に正社員の首を切れない。ならば、自分から辞めてもらうようにそれとなく促す」というやり方の典型例と見ることができる。
損保ジャパンといえばだれもが知る大手保険会社であり、そこに正社員で入社した社員は、全国のサラリーマンの水準からすればまさしくエリートであるだろう。
今回の施策には、そのような「選ばれし者」であるはずの彼らに「余剰人員」という評価を下し、本人らがおそらくは希望していないであろう異業種の会社に転属させることで、自己都合で退職を促す意図があると考えられる。
もし辞めずに転属先の会社にしがみついてくれるのであれば、それはそれで介護分野における人手不足解消に寄与する――まさに会社側はまるで損をすることなく、事実上の自主退職を迫ることができるという寸法だ。
この社会においては、正社員の「解雇」に対して強い規制が敷かれている一方で、「自己都合退職を促す行為」に対しては、必ずしもそうではない。結果的に「社員を会社から追い出す」という同じ目的を遂行する行為であるとしてもだ。
こうした「自己都合退職を促すスキーム」は、今回のように大規模なものは少ないにしても、方法論としては、それほど珍しいものではなくなっている。むしろ今後のIT化の波(と、特定分野における人手不足の高まり)によって、こうしたスキームはより活発になり、より頻繁かつ公然と行われることになるだろう。
――という話だけで終わってしまうと、ただの時事寸評になってしまう。ここは、もう少し捻った切り口から、この出来事の深層を考察してみよう。