墜落F35、中国とロシアが「よだれが出るほど欲しがる機密」の正体

旧西側諸国全体の防衛態勢にかかわる

青森沖に墜落した航空自衛隊の最新鋭戦闘機「F35A」の捜索が難航している。自衛隊の潜水艦救難艦が海底を捜索し、米軍の艦艇、航空機も加わる異例の日米合同の捜索態勢をとっているにもかかわらず、機体は見つかっていない。

自衛隊と米軍が懸命に捜索するのは、レーダーに映りにくいステルス性を持つ特殊な機体そのものを回収する必要があるのに加えて、事故機に搭載されている敵味方識別装置と、事故原因の解明に不可欠なフライトデータレコーダー(飛行記録装置)を引き揚げる必要があるためだ。

これら「3点セット」のうち、敵味方識別装置がロシアや中国によって引き揚げられるようなことがあれば、旧西側諸国の防衛態勢に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 

米軍が「決してあきらめられない」理由

F35Aが墜落した海域は、青森沖約135km、深さ約1500mの太平洋側。捜索には海上自衛隊の護衛艦1隻のほか、潜水艦救難艦「ちよだ」が派遣され、「ちよだ」から海中に放たれた遠隔操作式の無人探査機(ROV)が海底の捜索を行っている。

米軍で捜索に加わっているのは横須賀基地のイージス駆逐艦「ステザム」、三沢基地配備のP8哨戒機2機だ。在韓米軍からも高高度偵察機「U2」が派遣され、米軍のあせりがうかがえる。

過去、自衛隊機が海中に没した墜落事故は複数あるが、米軍が機体の捜索に協力した例はほとんどない。米軍が乗り出したのは、ロシアや中国の艦艇などが事故機を引き揚げるのを防ぐ牽制の意味もある。

水没しているF35Aの機体は、米国に遅れてステルス戦闘機「Su57」を開発したロシア、同じくステルス戦闘機「殲(J)20」を開発した中国にとって、よだれが出るほどの宝の山といえる。

F35Aの秘密を探れば、自国のステルス機開発に役立つばかりでなく、F35Aの弱点も同時に把握することになり、ステルス機が競い合う第5世代戦闘機同士の戦いで優位に立てる。

またF35Aには、米国が開発した「ネットワーク戦闘」の端末としての役割があり、その全容を知ることにより、攻撃手法を探り、同時に防御態勢を確立することができる。

ネットワーク戦闘とは、人工衛星、空中警戒管制機(AWACS)、イージス艦などが得た敵情報を集約して、F35Aのディスプレイに映し出し、搭載した巡航ミサイルで敵艦艇や敵基地を攻撃するなどの技術を指す。

戦闘機に搭載するレーダーで目標を把握できなくても、外部からの情報で敵を攻撃できる「夢の攻撃システム」だ。

ロシア、中国がF35Aの機体を回収すれば、米国の先進技術を労せずして獲得することにもなるため、米国は簡単に墜落機の捜索をあきらめるわけにはいかないのだ。

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日米の二つ目の関心事は、敵味方識別装置の回収にある。敵味方識別装置は、同士撃ちを防ぐため、電波を発信して味方であることを知らせる約20cm四方の小型の装置のことで、軍の艦艇や航空機に搭載されている。

例えば、敵味方識別装置が発信する電波によって、味方の航空機なら航空自衛隊の防空レーダーに青三角で表示され、敵味方不明機ならば赤三角で表示される。航空自衛隊の各基地で、領空侵犯に備えて待機する戦闘機が緊急発進する際の目安となっている。

電波は高度に暗号化されており、米軍や自衛隊、NATO軍、韓国軍など旧西側諸国は同一規格の敵味方識別装置を搭載している。仮に敵味方識別装置が敵対国にわたり、暗号が解読されると、味方を装って攻撃に利用されるおそれがある。

防衛省は敵味方識別装置を「秘」に指定しており、航空機が海に没した墜落事故の場合、事故原因の分析に不可欠なフライトデータレコーダーと並んで、最優先で引き揚げを図ることになっている。

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