基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

いかにしてNETFLIXは今のような企業になったのか?──『NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業―』

NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業

NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業

何年か前から、Neftlixに加入し続けている。観たいアニメが配信されているし、映画もぱんぱか追加されるし、特にこの1〜2年のことだがオリジナルの映像コンテンツが豊富で、ちと時間が余ったし、なんかみるかな、という時に観るものに困らない。フィクションだけでなくドキュメンタリー系のものが配信され/オリジナルのコンテンツを作ってくれているのもありがたく、値段が上がっても毎月課金し続けている。

日本からみていると、Neftlixは洗練されたアルゴリズムと品揃え、絶え間なく投入されるアホみたいに金のかかったオリジナル番組たちに支えられ、映像配信世界の王といった感じの企業である。がしかし、元々はオンラインで注文を受けDVDを貸し出す、本以外を対象としたAmazonのような企業だった。本書『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』は、そうした配信世界で名を馳せる前──郵便でDVDを送り届けていた時代のNetflixが、どのように大きくなってきたのかを描く起業戦記である。

それは意図的にその時期に絞ったのではなくて、この本はもともと2012年に刊行されたものだから、現在の様相など描きようがない。しかし、この起業のマインドは疑いようもなく創業期に色濃く現れており、一冊かけてその狂騒を描き出していることもあってか、今読んでも無闇矢鱈におもしろい。著者のジーナ・キーティングは記者としての仕事を通じて何百回も関係者にインタビューを行っており、当時の経営上の葛藤が緻密に描かれていくので、立ち上がったばかりの企業がどのような苦難と競争に巻き込まれるのかがよくわかる。本書には日本語版特別寄稿として2012年以後のNetflixについて著者が書いた文章が最初におさめられているのもありがたい。

ざっと内容を紹介する。

さて、物語の主要人物は今もNetflixの代表をつとめる創業者リード・ヘイスティングスと、途中で半ば追い出されるような形でNetflixをやめた同じく創業者であるマーク・ランドルフの二人だ。1997年、二人は新規事業のアイデアをカフェで議論する生活をおくっていた。夢だけはあるが何者でもない若者ではなく、二人とも起業家として幾度も成功しており、ヘイスティングがランドルフが創業者であるソフトウェア開発のスタートアップを買ったところから二人の関係性がスタートしている。

そんなある日、二人はオンライン店舗経由で映画レンタルサービスができるのではないかと仮説を立てた。在庫はたくさん置けるし、Amazonと似たようなモデルで、Amazonがやっていない。よしやろう、となっても彼らは知らないことばかりだ。郵便は傷なくDVDを運んでくれるのか? 作品を貸してくれる会社は? いくらかかるのか? そうした一つ一つを具体的な数値を上げ、どのようなリスク検討をしたのか、と細かいところまで描いていってくれる点は、起業戦記として面白い部分だ。

当然ウェブサイトも作らなければならない。ローンチ日が近づくにつれてスタッフが増え、狭い部屋はさらに狭くなる。オフィスで寝泊まりし、ジーンズとTシャツはしわくちゃで、オフィスの環境も当然だがひどく、特に臭いがやばかったという。先に書いたように若者たちの起業ではないのだが、だからこその熱気がいい。

ネットフリックスの全チームメンバーが人生を懸けていた。白熱した議論をしているうちに怒鳴り合いになることもしばしばだった。大学を卒業したての若者が立ち上げる典型的なスタートアップとは違った。メンバーの大半は大きなソフトウエア会社で管理職を経験したベテランであり、大幅な年収カットを受け入れてネットフリックス入りしていた。消費者相手の新ビジネスに飛び込んで、自分たちの知的DNAを受け継ぐ会社をつくるという共通の夢を実現しようとしたのだ。

リリース当初は借りられるものは500タイトルほどしかなく、ウェブサイトがすぐに落ちるなど散々な状態だが、それでも熱狂といっていい熱量で受け入れられた。当時まだDVDは普及しきっていなかったが、どんどん売れるようになりNetflix利用者も同時に増えていった。当時はまだDVDの規格が定まりきっておらず、DIVXとの競争状態にあったが、その両方を在庫として抱えていたらNetflix的には経営がもたないなどの判断もあり、靴下人形と呼ばれる偽名アカウントを多数作成してニュースグループ内の議論を特定の見解へ向かわせるなど、かなり悪どいことをやっていたらしい。

いったんまとめる

こんな感じで時系列順に紹介していくとキリがないのでここで切るが、今の王者となったNetflixにも受け継がれている映画オススメアルゴリズムがどのように生まれ、改良されていったか。経営刷新で追い出されるランドルフ、徐々にインターネットの力が増していき、ついにオンライン配信が可能になるなど、世界全体の技術が、認識が大きく変わっていくうねりなど、読みどころは無数にある。

また、本書ではライバルとしてNetflixを経営的に追い詰めるブロックバスターの物語も多くの部分を占めている。ブロックバスターとは途中からNetflixと同じ郵便DVDレンタル事業に参入したビデオDVD貸出企業で、実店舗がある強みを活かして実店舗と統合されたWebレンタル環境を構築し、Netflixのシェアをかなり奪ったのだ。

下記引用部はブロックバスター側の描写だが、新サービスローンチ時の熱狂がこちらでも再現されていて、一冊で二度おいしい、といったかんじ。

もし新規申し込みに異常値が出てくれば、エバンジェリストは深夜でも構わずにクーパーに電話した。そんなとき、クーパーは妻ジェスを目覚めさせないようにベッドから出て、裏口へ行ったものだ。ちなみにエバンジェリストからかかってくる電話の着信音は、映画『スター・ウォーズ』の悪役ダースベイダーのテーマ音楽に設定してあった。そのうち、ダースベイダーの音楽が流れるたびに愛犬が裏口へ向かって走り出すようになった。それを見てクーパーは思った。いつの間にか2人とも数字のとりこになってしまっていたんだ!

そもそも事業をするならば競合がいるのは当たり前で、そうした競合をいかに出し抜き、値段やサービスについての決定を下すのか──といったひりひりするような駆け引きが両者の側から描き出されていく。そのあたりは、業界通の記者であった著者の真骨頂といったところだろう。

おわりに

Netflixの過去の話なの〜? と侮るなかれ、当たり前だが今の状況に至る萌芽、戦略の基盤となるものはすべてここに描かれている。あと単純に、Netflixに関係なくとも起業戦記としておもしろいので、そういう路線でもオススメ。