環境エネルギー最前線 フォロー

耳かき1杯も困難? 原発事故「燃料デブリ」取り出しの現実

川口雅浩・経済プレミア編集部
東京電力福島第1原発の2号機原子炉建屋(左)の横に設置されている燃料取り出し用構台(右)=福島県大熊町で2023年10月17日、宮間俊樹撮影
東京電力福島第1原発の2号機原子炉建屋(左)の横に設置されている燃料取り出し用構台(右)=福島県大熊町で2023年10月17日、宮間俊樹撮影

 原発事故から間もなく13年。東京電力福島第1原発は今、どうなっているのか。現地を訪れ、廃炉作業の現場を視察した筆者は、政府や東電が克服すべき課題の多さを改めて感じた。

 東電は事故を起こした福島第1原発1~4号機の廃炉作業を進めている。ところが作業は順調に進んでいない。当初計画からの遅れは年を追うごとに目立っている。

 東電は2024年1月25日の記者会見で、これまで「23年度後半」としていた2号機の燃料デブリの「試験的取り出し」への着手を延期し、「遅くとも24年10月ごろを見込む」と先送りした。取り出し開始の延期はこれで3回目となり、当初計画から約3年の遅れとなる。

 燃料デブリとは、原発事故で溶け落ちた核燃料だ。炉心溶融が起きた1~3号機では、計880トンの燃料デブリが生じたとみられている。極めて高い放射線を放つため人が近づけず、その取り出しは「事故から最長40年間続く」と想定する廃炉作業の最大の関門となっている。

廃炉作業の「本丸」

 東電は燃料デブリの試験的取り出しを2号機から始め、当初は「事故から10年以内」となる21年中に着手する予定だった。ところが原子炉に通じる貫通部が堆積(たいせき)物で塞がっていることがわかり、作業は難航。ロボットアームなど採取装置の開発にも手間取り、取り出し開始目標の先送りが続いた。

 今回、東電は「今後の堆積物除去作業の不確実性に加え、燃料デブリへのアクセスルート構築に時間を要する」と説明。「燃料デブリの取り出しは世界でも前例がない。スケジュールありきではなく、安全を最優先に柔軟に見直す」などとして、延期に理解を求めた。

 政府と東電は燃料デブリの取り出しを廃炉作業の「本丸」と位置付けている。これは燃料デブリが原発の汚染水の発生源となっているからだ。汚染水は冷却水が燃料デブリと接触して生まれる。さらに原子炉建屋やタービン建屋に入り込んだ地下水や雨水が、燃料デブリと接触した汚染水と混じり合うことで、新たな汚染水を生むという悪循環に陥っている。

 この汚染水を吸着材などを使って浄化したものが処理水だが、貯蔵タンクは1000基を超えた。このため東電は「構内にタンクを増設する余地はない。燃料デブリの取り出し作業を着実に進めていくためには、取り出した燃料デブリを一時保管するための施設などが必要で、タンクを減らさなくてはならない」として、23年8月に処理水の海洋放出を始めた。

 ところが、肝心の燃料デブリの取り出し作業は難航している。処理水の海洋放出が始まっても、「試験的取り出し」に着手すらできないのでは、処理水も増え続けることになり、根本的な解決にならないのではないか。

「試験的取り出し」とは

 筆者は23年12月20日、超党派の国会議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」の現地視察に同行し、福島第1原発を訪れた。そこでは参加者から「取り出した燃料デブリを一時保管する方法や施設の建設場所などは決まっているのか」などの質問が出た。ところが東電から明確な説明はなかった。

 東電は1月25日の会見で「燃料デブリ取り出し関連施設の建設場所として…

この記事は有料記事です。

残り1583文字(全文2876文字)

経済プレミア編集部

1964年生まれ。上智大ドイツ文学科卒。毎日新聞経済部で財務、経済産業、国土交通など中央官庁や日銀、金融業界、財界などを幅広く取材。共著に「破綻 北海道が凍てついた日々」(毎日新聞社)、「日本の技術は世界一」(新潮文庫)など。財政・金融のほか、原発や再生可能エネルギーなど環境エネルギー政策がライフワーク。19年5月から経済プレミア編集部。