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米国は「戦時国債」の発行を検討するのか、そもそも戦時国債とは何か

久保田博幸金融アナリスト
クドロー国家経済会議(NEC)委員長(写真:ロイター/アフロ)

 米国のクドロー国家経済会議(NEC)委員長は、新型コロナウイルスのパンデミックを踏まえ、連邦政府が「戦時国債」を発行するという考えに賛成するとし、トランプ大統領にこれについて話をする意向だと述べた(6日付ブルームバーグ)。

 戦時国債とはその名の通り、戦争など非常事態に伴って発生する巨額の支出の財源に充てるために発行される国債である。国債であることで名称は異なっても通常の国債と同様に国に債務となり、いずれ税収などによって償還されるものとなる。

 米国の国債発行制度を確認すると、米国債の発行根拠法は、合衆国憲法(第1条第8項)に基づいて連邦議会が定めた第二自由公債法である。同法において、国債残高に制限額を課して、その範囲内であれば自由に国債を発行し資金調達できる。

 米国での国債は、日本のように単年度の予算における歳入・歳出の差額を埋めるという単年度主義の観点からではなく、その時々における国庫の資金繰り上の必要性から発行される。したがって、年度の国債発行予定総額や年限別の発行予定額が事前に法令若しくは予算上定められていることはなく、各時点における国庫の資金繰り状況に応じて、市場動向も勘案しつつ、弾力的に国債発行を行っている。

 クドロー委員長のいうところの戦時国債とは何か。米国債の発行根拠法に縛られないかたちでの、あらたな国債発行を目指しているのか、それとも何かしらの戦時国債の発行根拠法が米国に存在するのかはわからない。そもそも現在が非常時との認識は持っているものの、戦時という認識の括りで良いのかという問題もある。ただし、すでにトランプ大統領は、新型コロナウイルスの問題を戦争と例え、朝鮮戦争当時の1950年に成立した「国防生産法」を発動させていることも確かである。

 我々日本人にとって戦時国債とは、戦後のハイパーインフレなどによって紙くず同然となったものとの印象を強く持っている。戦勝国側ではそのような印象はなかったのかもしれないが、それでも今回の戦時国債を発行すべきとの発言に対しては、警戒感を抱かざるを得ない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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